ハエ取りリボンの芹沢君
芹にゃん…… いや、芹沢君は小学校のころからの付き合いだ。
あ、誤解しないでね? 付き合いと言っても同級生というだけで、特に深い付き合いをしていた訳じゃないからね。
私が好きなのはお兄ちゃんだけ。他の男子なんか塵芥も同然なんだから!
なんで彼の事を思い出したのかと言うと。
どうやら彼女さんが出来たらしいって聞いたからだ。お兄ちゃんが本屋さんに行った時に、クレープ屋さんにいるのを見かけたそうだ。
こっそりスマホで隠し撮りするなんて、お兄ちゃんもやるなぁ。
……それにしても、芹沢君が元気になってよかった。
一緒にいる子も可愛いと思うし。でも彼女って、どう見てもヒト族には見えないのよね。たぶん、だけど…… ドワーフ族じゃないかなあ。
ドワーフはゴツいというイメージがあるけど、それはオトナになってからの話なのよね。子供のうちはドワーフもエルフもヒトも似たようなものだ。
何が言いたいのかと言うと、種族的な特徴が出て来るのは中学校を卒業するころになってからってこと。
とは言ってもねぇ。
まさか芹沢君が小学生に手を出すとは…… こりゃ盲点だったわ。
お兄ちゃんが中学校を卒業した今となっては、どーでもいいか。
あいつはお兄ちゃんに害虫がまとわりつかないようにするためのもの。
例えるならハエ取りリボンとか、ホイホイ系の… そういうのとおんなじ。
そうなると、顔は良いけど線の細い彼には用はない。
そんな芹沢君に関わったのには、きちんとした理由がある。
決して恋愛感情とかそういうモノが絡んでいるワケじゃないからね?
なまじ地が良いだけに、見逃す訳にはいかなかったの。
だから……
「もっと背筋を伸ばして! それに鉛筆の握り方、なんで直さないのよっ!」
あいつとは、いつもこんな感じだったのよね。
元の素材は悪くは無いんだけど、猫背だし。それよりもぶきっちょだ。給食の時間でも箸やスプーンを握り込んで食べている。
自己評価が低いというか、もっと自分に自信を持てばいいのに。
そのあたりだけでも修正すれば、王子様なんだよねぇ……
「しーちゃんもお兄ちゃんから卒業かぁ。じゃあ、アタックしようかな」
「……あ・や・めちゃぁん?」
私の前で能天気に笑っているのは百瀬 彩姫。その隣にいるのが早見 すみれ。
2人とは幼稚園に上がる前からの付き合いだから、私がこういう物言いをする時には何が起きるか知っているはず。
そうよねぇ、ななちゃん。そして玲ちゃんも?
「じっ、冗談に決まってるじゃない。だから無表情な顔するのヤメテ?」
「でもさぁ、最近のしーちゃんって芹沢君にべったりだよねぇ。このままだと、冗談抜きでお兄ちゃん盗られちゃうかも」
「ん。そろそろ芹沢君を放流する予定だから問題ないと思うけど、なにか?」
憧れの上級生──ただし上級生のお姉さま方のガードが堅い──よりも、身近な所にいる王子様の方。それに、私が離れれば確実にノーガードだ。
さあさあ、恋に飢えた乙女ども。お兄ちゃんと芹沢君。どっちがお得か……
ふふふふふ。あなたたちでも分かるわよねぇ?
「お兄ちゃんの事になると、しーちゃんって……」
「怖いくらいに人格が変わるのよねぇ」
何を言っているのか分からないけど、親友のあなたたちにだって、お兄ちゃんは分けてあげないからね。お兄ちゃんは、私だけのお兄ちゃんなんだから。
そのためにも芹沢君には頑張ってもらわなくちゃねぇ……
私は、やいのやいの言っているだけで彼女としての付き合いはしていない。
だから、リリースした芹沢君は、まっさらの新品そのもの。
それも王子様教育済みときている。
だから彼をリリースした途端に、面白い事になった。
芹沢君は以外に人気者になっちゃったんだ。
それも予想以上に効果があったのよ。
まさか先生方からも可愛がられるなんてねぇ……
ふっふっふ。でもね、これでお兄ちゃんに近付く害虫は激減したの。
これで私がお兄ちゃんを独占する事が出来るってものよ。
そしてこのフィーバーは、彼が転校するまで続いたんだけどね。
と、まあ…… それが去年の話。
お兄ちゃんが卒業した今となっては、本当に、どうでも良い事なんだけどね。
だから、ようやく彼女さんが出来た芹沢君にはさ、同級生としてお祝いしてあげなくちゃ。
末永くお幸せにねぇ。
志帆ちゃんのお兄ちゃん好きにも困ったものですねぇ。




