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惑乱さんは混乱する

 私は…… 惑乱(わくらん)と言う名で漫画家をしている。


 女だてらに何を… という人もいるかも知れないけど、少女漫画や乙女漫画の作者の数は、けっこう多いのよ。それこそ少年漫画や乙子(おとこ)漫画の作者よりも、ね。

 でも、本名だけは勘弁してね。

 私が描いているのは乙女漫画や乙子漫画がメインだから、身バレは拙いのよ。


「ふんふんふーん……」


 今日は原稿料の振り込み日。最近は版元も稿料を上げてくれたから、けっこうリッチな気分だ。銀行の通帳を見るたびにハッピーな気分がねぇ。

 なにしろ今回の振り込み金額は、なんと5両5分68文だ。

 漫画家を始めた5年前に比べると、雲泥(うんでい)だとも。


 うんうん、笑いが止まらないよ。


 それと言うのも、今の私はネタに困る事が無いからだ。いや、違うかな。

 いくらネタでもそれを生かす事が出来なかったら、ネタの持ち腐れ。このあたりは小説家も大変だろうけど、絵に起こすのも大変だからね。

 それに私は紙とペンで漫画を描いているからなおさらだ。


 タブレットを使えば作画は簡単だし、修正も楽だ。そのうえ数をこなせるのは分かっている。最近はそっちの方が増えているんじゃないかな。

 でも、私には私なりのこだわりがあるんだ。


 もちろんそれには打算が無いわけじゃない。


 例えば版元主催の原画展だね。タブレットで描いたものは、どこまで行っても印刷物でしかない。どんなに完成度が高い原画でも、所詮はコンピューターグラフィックスの延長だから。


 一方、肉筆では、修正の跡やセリフ文字の貼り付けとか… そういうモノのあるなしで、見た人が受け取る印象が変わってくるのだよ。

 だから私は紙とペンを使って漫画を描く。

 古い奴だと思うでしょうけど、それが惑乱と言う漫画家のスタイルなんだ。


 というわけでもないんだが、この数日は午前中はひらきちゃんの家庭教師、午後は漫画家をしている。うん、夏休みの間だけと言う約束で引き受けたアルバイトだけど、この子のお父さんとは、少なからぬ縁があるからね。


 実はひらきちゃんのお父さん。今でこそ学院で教えているけど、その前は2高の先生だったんだ。それも、私がいたクラスの担任。女子高生をやってた私は、クラスの中で目立つ生徒じゃなかったのに、何故か先生の記憶には残っていたらしい。街でばったり会ったのも偶然…… じゃないかも。


 ──やあ、久しぶりだねぇ。

 丁度よかった。実は君を見込んでに頼みたい事があるんだよ。

 夏休みの間だけで良いんだ。末の娘の面倒を見てやってはくれないか?

 あの子は画家志望だが、お世辞にも上手とは言えなくてね。


 君が『仕事』が忙しいのは重々承知しているが……


 こんな具合に言われてしまったら、私も断れない。

 なにしろ、私が女子高生をやっていた時のあれこれや、現在進行形で私が漫画家をしている事を知っているんだ。それも版元や掲載紙まで全部バレている。

 前者はともかく、後者は…… 拙い。


 私は、まだまだドゥーラで一人暮らしを満喫したいんだ。


 嫁入り先? そんなの知らん。

 場合によっては後藤先生の所に行けば何とかなるかも知れないもん。

 あそこの一人娘…… 瑞希とは同級生だったし。


 ……っと、話が逸れたね。


 知っての通り、私の本業は漫画家だ。去年の年収は50両くらいだったかな。

 つまり中堅クラスのサラリーマン程度は稼いでいるってこと。でも画材の代金というのは、結構馬鹿にはならない金額になる。

 そこで、家庭教師のアルバイトをする事にした。いや、せざるを得ない。


 とにかく収入源は少ないより多い方が良い。とはいえ両立するには無理がありそうだから、その辺りは上手くバランスを取らなきゃね。


 今のところ、家庭教師と言っても生徒は岩波先生の所のひらきちゃんだけ。

 そして教える期間は、親戚の家にいる間の1週間だけで良いそうだ。

 そして…… ひらきちゃんには素養がありそうだ。


 彼女は国語の先生の娘だな、と思ったのは古典文学を嗜んでいるという事だ。

 最近は雨月(うげつ)物語に挑戦していると言っていたけど、それとは別に絵もやりたいというのよ。こういうモノを親しむという事は、水墨画でも……

 いや、それなら私にお鉢が回ってくる事は無いか。


 そこで、気が付けばよかったんだけど。


「ええと、画家志望と言う話だけど…… 何か描いた事はある?」

「うんっ!」


 そして、見せてくれた絵を見た私は、飲んでいたコーヒーを……


 ……思いっきり吹いた。

ネタと言うものは、不思議なもので。

探すと出てこないのに、探すのをやめた途端に姿を現すのです。

まるで、にゃんこみたいですね。

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