中学生は、お寺に急ぐ
最近の星崎さんは、よく笑うようになったわね。
先週までは、さんかくけー! って、ぶつぶつ言っていて。まるで何かにとり憑かれたようだったから、あわてて台山寺に連れていったけれど。
今にして思えば、それが良かったのかも知れないわねぇ……
「ねえ星崎さん、とりあえずお寺に行きましょうねぇ」「むがー」
私の目の前で魔法のロープで縛られているのは星崎さん。
もちろんロープは私が作ったもの。クバツ山の梅林で花見をしていて、たまたま来ていたガルセリオン様が、教えてくれたのよぉ。
そしてこのロープには、ロープ作りを教えてもらった時に分けてくれた御札を貼り付けてあるから、重さを感じる事は無いのよぉ。
でも、御札は10分くらいで力を失うから、最後は大変だったけど。
私がこんな事をしたのには、ちゃあんと理由があるのよぉ。
悪いものに憑かれたら、最悪の場合は生命にかかわるって聞いたないかしら?
あの時の星崎さんの様子は、間違いなく、そんな状態だったと思ったの。
だから私は公園にいた星崎さんを捕まえて、お寺まで連れてきたけど……
「ごめんくださいな」
お寺の山門を抜けると、腕を組んで仁王立ちしている佳次郎さんがいた。
いつものように墨染の衣を着て、大きな珠が連なる数珠を首からかけて。
でも、いつにも増して機嫌が悪そうねぇ……
「ええと、この子……」「悪いが親父なら、居るけどいないぞ」
「いえ、住職さんじゃなくて…… 佳次郎さんにお願いがあって」
佳次郎さんはお寺の息子さんで、私たちエルフ族が一目置く優秀な魔法使い。
だからと言って空を飛んだり、炎の槍を生み出す訳じゃないの。人に悪さをする妖怪とか幽霊には容赦なく魔力を込めた拳を振るうだけ。
それを彼は調伏って言ったけど、本当かしらねぇ。
「で、何の用だ。御大層な荷物を引きずっているようだが?」
「実は…… カクカクしかじか……」
下手に縄を解いてはいけないような気がした私は、そのまま彼女をお寺まで運んで行ったのだけど…… 住職さんはお留守って…… ふむ。
居留守してるのはモロバレだけど、気にしたら負け、ね。
とにかく彼に事情を話したら星崎さんを視てくれたけれど、結果はシロ。
「なにも憑いていないが?」
むうぅ。おかしいわねぇ…… どう見ても何かにとり憑かれているとしか思えないのよぉ。 だってぇ…… 彼女ったら急にさんかくけー! って叫び出したかと思うと、しゃがみ込んでぶつぶつ言い始めるしぃ。
いつもの星崎さんなら、絶対にこんな事はしないの。
「そう言う事ならば、こいつに憑いたんじゃない。こいつが行きそうな所に何かが『いる』と考えた方が良さそうだが……」
「……鶴印の限定水菓子でいかが?」
「わかった。やってみよう」
よかった。これで問題は解決したようなものねぇ。
彼に支払う報酬はお財布に痛いけれど、あとで星崎さんから何か奢ってもらえば良いと思うのよね。ええと、何にしようかしら。
「それと、オメーは足手まといだから帰れ」
彼は縛られたままの星崎さんを、ひょいっと肩に担ぎ上げた。
うわあ、スリムな体型からは想像できない力持ちさんだったのねぇ。それに、何となく爽やかな…… 男は苦手だけど、彼はいいかも……
「喝ぅっ!」「きゃ!?」
「お前、業が深いな。これだけ煩悩を垂れ流している奴も珍しいぞ」
えええええ? 煩悩なんか垂れ流していないですよぅ。
佳次郎さんとなら、お付き合いを考えても良いかなって思っただけなのに。
それが煩悩なら、世の中の女子って全員が煩悩持ちって事にならない?
「……ときにオメー、家に誰かを待たせてねぇか?」
うっ…… そう言えば、百瀬さん!
昨夜は2人でお泊り会をしたけど、ほったらかしに……
「あら?」
「あら、じゃねぇだろ! 早く帰らねーと、ヤバい事になんぞ!」
それを聞いた私は、それっきり何も言わずに家への道を急いだ。
汗だらけになるけど、そんな事はどうでも良い。佳次郎さんが言った『ヤバい事』の方が心配。
だって、彼がこういう言い方をする時って……
「ごめーん、待たせちゃったかしらぁ?」
「はふん……」
……あああああ、手遅れ…… お布団、これから干しても乾くかしら……
佳次郎さんは霊能力者です。好青年です。イケメンです。
でも、とっても口が悪い人なんでう




