推し活に糸目をつけないの
このところ星崎さんの様子が変だ。
彼女が変なのは今に始まった話じゃないけど、今回は特におかしい。
なにか深刻な悩みを抱えているみたい。
友達として彼女にしてあげられる事は、愚痴を聞いてあげる事くらいかな。
私だけだとアレだから、早見──すーちゃんの家に遊びに行きましょうか……
すーちゃんの家なら、少しくらい大きな声が出ても問題ないし。
で? なんでそんなに暗い顔をしてるのよ。
──私… お兄ちゃんから、オンナとして扱われてないような気がする……
……いやいやいやいや。
ちょっと待ってよ。
いくら彼女がブラコンなのは知ってるけど、そこまで行ったら拙くない?
ここはひとつ冷静に。というより、アレだから話題を替えようか……
「そう言えば、あーちゃんの推し…… ダイナマイン… だっけ?」
「それを言うならダイナマイト☆デュオでしょ?」
おっ、すーちゃん、ナイスタイミング!
最近デビューしたばかりの2人組ユニットだけど、あの姿は尊いの一言よね。
「2人のために仏壇を買うって言ってたけど…… どっちを呪うのぉ?」
「ぶっ! 仏壇ちゃうわい!」
あれはねぇ、仏壇メーカーが推しを崇めるため専用に売り出した物なの。
それも本物の神棚と同じ素材と技法で作られているという、推しへの祈りを捧げるための神聖なステージなの。
だから、あれは仏壇じゃなくて、推し壇って言うの!
ちなみに推し壇のお値段は標準タイプで1両5分という高価なもの。
私の毎月のお小遣い30文をまるまる貯金しても、1年近くかかるかな。
そしてどこまでも豪華に作る事が出来る特注品になると、それこそ青天井……
それが、飛ぶように売れているらしい。
「……で、本当に買うつもりなのぉ?」
ええと…… 注文しちゃいました。
来週くらいには着くんじゃないかな。ヒノマル運輸は国鉄とタイアップしているから中身は確実に大丈夫だけど、時間が掛かるのが欠点なのよね。
今日注文して明日には…… という運送会社もあるけど評判はイマイチ。
荷物の扱いが雑で、中身が壊れている事もあるらしいって。
え? 推し壇の代金? 1両5分なら、小学校に入学以来、こつこつ貯めていたこども銀行の貯金があるから楽勝、楽勝。
「ふっふっふ。お年玉を全額貯金していた私に死角は無いのよっ!」
私たちはすーちゃん──早見さんの部屋で適当にくつろぎながら、こんな感じの話に興じていた。そして話題はいつの間にか、お兄さんの話題に戻っていた。
「……ねえしーちゃん。疾風さんはどんな人がタイプだと思うぅ?」
「やっぱり胸… じゃない? ダイナマイト☆デュオのロビンちゃんみたいな」
じーっと私を見ながらしーちゃんの視線は……
「胸…… だよね?」「そう言えば惑乱さんもおっきい… わよねぇ?」
「いやだから、今の私には伸びしろがたっぷり残っているって!」
ぱたぱたと両手を振り回すしーちゃんって、なんか可愛い。
そういえば、伸びしろと言えば…… ちろっとすーちゃんにアイサイン。
「……やっぱり、男の人は胸が大きい人に憧れると思うのよねぇ」
目の前に座るすーちゃんが自分の大きな胸に手を当てて、ほんわかと笑みを浮かべてくる。男子があんたの胸を崇拝してるのは、よーく知ってる。
たしかにでっかいからね、あんたの胸。
「それは人によると思う。すーちゃんは規格外だよねぇ」
あー、ミニクッキーがおいし。
ねえねえしーちゃん。歴史は繰り返すって言うじゃない。
貧乳はステータスと言われていた時代の再来は近いかも。
「ぐ…っ、気にしてる事を。あんただってつるぺ…… あーっ!
もしやあんた…… 盛ってるでしょ?」
「うんにゃ、それはない!」
そう言い訳をしているしーちゃんの身体は私の身体の下。
いつもすーちゃんに襲われてたのは伊達じゃない。ワザってね、盗むのは意外と簡単なんだからね?
彼女お体に馬乗りになった私は、にんまりと笑みを浮かべた。
抵抗しないと思ったらしーちゃんの両手は…… すーちゃんが抑え込んでいる。
ぬふふふふ、やっぱり気になってたのね。
「少しは育ってきたかのなぁ?」
にゅふふふ…… 解剖ごっこの始まり、はじまりぃ。
こども銀行と言うのは、かつて存在していた金融機関です。
小中学校の児童生徒による自主的な運営機関で、地元の銀行や郵便局と連携していましたが、20世紀の終焉と共に廃止となった制度だとか。




