妙な爺さんに出会った俺
今日から夏休みだ。
期末試験はそこそこの結果に終わったが、大半の教科は甲を取っているから問題はないな。そして学校から出された課題は、早々にクリアーしている。
俺の場合、このくらいの事が出来なかったらヤバいだろ。
世間様…… ってほど広くないか、学院は。まあいい、医務室の先生の話や、校内に流れている噂だと、俺は医務室通学をしてる引きこもり予備軍だ。
大病を患っている事になっているから、周りからボロクソに言われる事とかは無いし、言われるような情けない成績を取ったつもりもない。
それでも言う奴はいるんだろうけど、学院に入学してまでも中学時代の悪名がそいつらの口を封じている。
うん、女子が勝手に言っていたアレだ。ナントカノキミってやつ。これは感覚的なものだけど、それでひとつの権力グループを形成していたらしい。
うん。構成員らしい奴と写真を撮ったら、あれやこれやと教えてくれたよ。
あいつは、良い情報源になってくれそうだ。今後も一緒に写真を撮る事にしたら、舞い上がっていたから、それはそれで良しとしよう。
その中学の時のような秘密結社っぽいモノが学院にもあるかも知れない。
でもさ、実際にそんなモノがあったら、ちょっと怖いぞ。
何が怖いんだ、だと? ……いいか? 一度しか言わないからな?
学院は男子校だ。
俺は複雑な思いを胸に、家路を急いだ。
それからはセミの数も順調に増えてきたようで、暑くてやかましい日が続く。
気象庁の長期予報だと、今年の夏も猛暑らしい。変な色の雲に遮られているから寒冷化が進むだろうと言っていた気象学者を樽の中に閉じ込めたい気分だよ。
樽にはちょっとだけ隙間を作ってだな、ホースで少しづつ水を流し込むんだ。
ふひひひひ…… って、やべぇこと考えんなよ、俺!
春からこっち、学校にほとんど行かずに家に引きこもっていたせいか、思考が妙な方向にズレる事があるんだよなあ。うん、良くない傾向だ。
少なくとも、病院では猫をかぶっていよう。
もし看護婦さんに知られたら。顔女をを怒らせたら…… いや、忘れよう。
あれは小学生のころの思い出したくもない何かだ。
「はーい、お待たせ。今回から種類が変わるけど、気にしないでね」
俺はいつものように簡単な診察を受けて、薬を受け取った。
種類が変わった薬ってのは、ベータ・ブロッカーという奴なんだがメーカーが変わっただけで中身が違う訳じゃない。
これまでと同じように1日に1回、1錠飲むだけだ。
でもジェネリックからジェネリックに変更というのも妙な気分だね。
帰りに図書館に寄って何か借りに行くか。
このあたりの事を知っておくのも悪くはない。知らないより知っておいた方が何かと役に立つってもんだ。
「……ふむん。君ぃ、夏休みの間だけでも儂に付き合わんかね?」
看護婦さんから薬を受け取った俺は、妙な爺さんに声をかけられた。
近所にこんな人はいなかったと思うんだけどなぁ。誰なんだろう。
なんとなく学者っぽいけど、なんか胡散臭いんだよね。
で、だよ。顔を見るなり儂に付き合えって……
爺さんの後ろにいる無口そうなクール系のお姉さんに言われたんなら、マジで悩んだかも知れないけどさ。
うん、一緒にいる年齢不詳の美人さん──ラノベで出て来るクール系キャラを地で行ってるんだよね。無表情なのがアレだけど、あの系はそんなもんだし。
それから、看護婦さんは爺さん…… いや、2人を複雑な表情で見ているけど、どうやら危険人物じゃなさそうだな。
なにしろあの看護婦さん、意外とやるからなぁ。
前にラリったヤクザがスーパーで暴れていたんだけど、一瞬で──それも素手で壁に──文字通りの意味で──埋めたんだ。
その現場に居合わせていた俺は、あの人には逆らうまいと心に決めたんだよね。
とはいえ、この爺に付き合うと碌な事にならなそうな気がするんだ。根拠があるわけじゃないんだ。交番に顔写真が貼ってあるわけじゃないし、看護婦さんも、あの爺に手を出さない。
だから… 強いて言うなら野生の勘ってやつだ。
そんじゃまあ、当たり障りのない断りを入れて、さっさと逃げ出す事にするか。
断るなら、やっぱりこれだろ。
「知らない人についていっちゃいけませんって、先生が言ってた」
ふっ、どうだ。これこそが完璧な回答ってやつだぜ!
だけど爺さんもしつこかったけどな。
「なっ、なんだとぉ?
きっ君ぃ、儂を…… この、松戸 才穎知らんのか」
「うん、知らない」
知らないものは知らないとしか言えないよ。
たぶん今年も猛暑に悩まされるんでしょうね。
エアコンのお掃除は、お早めに。




