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愛はすべてを越えて・・・

 今日は夏休み前の最後の登校日だ。

 とは言うものの、登校した俺が行くのは教室じゃない。行くのは医務室だ。


 学院の医務室は意外と広いんだよね。教室ふたつ分はあるから、ちょっとした病院というところかな。その中の奥まった場所のついたてで仕切られた区画が、俺たちの居場所と言うわけだ。


 いま俺たちと言ったのは、言い間違いでも何でもないよ。

 俺の他に… あと2人いるんだな。医務室通学をしている生徒がね。

 いわば、こいつらが俺の同級生になるのかなぁ……


 で、だ。俺の隣で黙々と地図をながめているドワーフが、同級生1号だ。


 彼の名前はアイゼンって言うんだが、こいつは地理学に限定すれば学者並みの知識がある。だが他の科目はからっきし。成績は普通ってとこかな。

 そんなアイゼンが入学出来たのは、社会科の試験で唯一の満点を取ったのと、設問の不備を見つけて、答案用紙の余白にそれを書き込んだからだ。


 そしてこいつは『鉄』だ。

 新聞やテレビで犯罪者──実際に逮捕者がいる──予備軍扱いしているから、俺も『鉄』には良い感情を抱いていなかったが……

 こいつは、良い『鉄』らしい。


 実はドゥーラの警察署員が逮捕した『鉄』なんだが、実際に奴らを罠を仕掛けて逃げ出せなくしたのは、あいつの仕業だ。その時に作った罠を見た本職の猟師が、を慌てて役所に連れていって狩猟免許の試験を受けさせたらしい。

 試験に受かったかどうかは知らん。


 あいつは、興味のない事はとことん無視をするからなぁ。

 ぶっちゃけ不愛想な奴だし、コミニュケーション能力に至っては、皆無どころかマイナスレベルだ。

 だから医務室に回されたんだろうなぁ……


 俺は鞄から、クリアーした課題──ギリ間に合わせた──を取り出すと、机の上に並べ始めた。机の上には、すでに次回の分が用意されている。

 この課題はどこでやっても構わない。医務室でも、図書室でも。

 もちろん家に持ち帰っても、だ。


 俺は新しい課題を鞄に押し込むと、窓の外に目をやった。

 中学校はコンクリート製の永久校舎だったけど、この装飾過多の古い木造校舎には、そういう物は一切使われていない。壁板をめくれば、そこには断熱材やらパネルヒーターが詰め込まれているらしいが。


 それだけに、そういう時代を知らない俺でも、ノスタルジックな気分になるんだよなぁ。それに加えて医務室にある机や椅子に、懐かしさを感じるのもだ。

 木製の机と椅子は、古い時代の名残りなんだろうね。


 だからカチコチと、ゆっくり時を刻んでいる大時計も年代物だ。

 100年もの間、休まずにカチコチ、カチコチ動き続けている。

 作った人は…… まだ生きているよ。エルフ族は長生きだからなぁ。

 三英傑に会った事がある人がいても、決しておかしな事じゃない。


 そして同級生2号だが、こいつはハーフエルフだ。

 ふぅぅ、よかった。あいつ、今日は来ていないのようだな。

 なら家に帰らなくても良いな。ここで課題をちょいとやっておくか。


「そんな事は無いとも、愛しの疾風クン」「わあああっ!」


 いっ、いつの間に現れたんだ、こいつ。


「いや、普通に戸を開けて入ってきたんだが?

 キミは考え事を始めると心の中に沈み込む癖があるからねぇ」

「なんだって? お前が、普通に?」


 こいつが同級生2号、ラガッツァはエルフ族とヒト族のハーフだ。

 彼の爺さんはテチス海沿岸に住んでいたけど、あの戦争とパンデミックのせいで故郷を離れたんだそうだ。その娘が旦那さんを現地調達して今に至る、と。

 テチス海も北側の住民は大らかと言うか、奔放と言うか……


 ラガッツァに言わせると、ハグやキスはエルフ族の慣習だそうだが、あいつのハグとかは何かが違う。

 だから、ラガッツァが近くにいる時は、とにかく油断しちゃダメだ。

 そう自分に言い聞かせていると、表情が険しくなってしまうんだが……


「そんなキミの姿も美しい……」


 ラガッツァはそう言うと、するりと距離を詰めてきた。

 いつもなら、このタイミングでするりと躱せば事なきを得るんだが、今日は運が悪かったようだ。

 奴は、俺の身体を椅子から持ち上げると、がっちりと抱きしめたんだ。


「何か間違ってないか? 俺は男だぞ?」

「愛があれば性別なんて」


 こいつのヤバいのは、こういう所なんだ。

 だから、こいつは医務室に隔離…… 押し込まれたに違いない。

 おい、ちょっと待て! 顔が近いっ。

 そういう不毛な事はヤメレ。


 やめろおぉおお……

いくらなんでも木造校舎なんて古臭いものを…… とは言わないで下さいね。

文化財扱いされている校舎があると聞いた事があります。

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