第六幕 北の地にて
「この前の勇者ハロ…なんだっけ?大ザルの首を献上してきたやつ。」
「勇者ハロルドでございますな。」
「あいつ、どうしてる?そろそろ魔王の島に渡ったか?」
「今は北の村にいるようです。」
「北の村?魔王の島と逆方向じゃないか?!何してるんだ、あいつは?」
王は、勇者の突拍子もない行動に、頭を抱えた。
「どうやら、魔王の島へ渡る洞窟をゴーレムが塞いでいるようで、そのゴーレムを眠らせるアイテムを取りに行ったようです。」
「なるほど!なかなか賢いではないか!」
王は、勇者が少しでも成長してくれたことに、喜びを感じた。
「いえ、ゴーレムにワンパンされて一度死んだようです。」
「え?それ、わし聞いてないぞ?!」
「申し訳ございません、85人目の勇者の謁見の最中だったもので、私の独断で処理いたしました!」
王は、大臣の独断に驚きながらも、その判断を信頼した。
「…いくらかかったんだ?」
「実は教会から貰った無料クーポンがございまして…」
大臣は、王の負担を減らすために、日頃から様々な工夫を凝らしていた。
「なにそのお得なクーポン!詳しく聞かせてくれ!」
「は!実は教会の方で、蘇生と埋葬を合わせて3回行うごとに無料クーポンが貰えるキャンペーン中だったようで…」
「なるほど!それを使ったのか?!」
「は!」
「奴のポケットマネーは?」
「もちろん、半分回収しております。」
「よくやった!」
「ありがたきお言葉!」
王と大臣の間には、信頼と、国を守るという共通の使命が芽生えていた。
「で、死んで学習してアイテムを取りに行ったのか?」
「それが、その後もゴーレムに戦いに行こうとしたので、我々の方で入手していた情報を何度も何度もリークいたしました!」
兵士の報告に、王は再び頭を抱えた。勇者ハロルドは、賢くなったのではなく、ただ情報を与えられただけだったのだ。
「なるほど!しかし、そんな学習能力のないやつに無料クーポンを使っちゃってよかったのかなぁ…?」
「申し訳ございません!」
「あ、いや。お前は悪くない!悪いのはあの勇者ハロなんとかの頭だ!」
「で、アイテムは入手できたのか?」
「それが…今は温泉に入っているようです。」
「は?!温泉?!」
「陛下!魔王が現れる以前に、皆で北の村に温泉に行ったではないですか!」
「そうじゃった!あの温泉は腰に効くんじゃよな…また行きたいのう、大臣…」
この時、王は心の中で、いつか魔王を倒し、国民と平和な温泉旅行に行く日を夢見ていた。
「陛下、今はなりませんぞ…」
「分かっておる!分かっておる!」
「そうじゃ!」
「いかがされました?」
「あそこ温泉旅館の店主に、勇者の飯を若干減らすように言っておいてくれ!」
「かしこまりました。早馬を使います!」
「妙計でございますな!」
「うむ。許さんぞ!勇者…じゃなかった魔王!」