第一幕 勇者ハロルド
ある平和な国に、突如魔王を名乗る魔物が現れ、その軍勢は国を荒らし始めた。困り果てた国王は、伝説の勇者を募ることにした。
そこに現れたのは、一人の勇者だった。
第一幕 勇者ハロルド
「国王陛下!勇者ハロルドが城に到着いたしました!」
謁見の間に兵士の力強い声が響く。声の主である兵士は、王の緊張を和らげようと努めている。
「おお、ついに来たか!謁見の間に通すがよい…」
王の言葉に、兵士はかしこまって一礼し、廊下の奥へと消えていく。
やがて、勇者ハロルドと名乗る男が謁見の間に現れた。王は威厳のある声で迎えるが、内心は「また一人…」という諦めと、「今度こそ」という淡い期待が混じり合っていた。
「勇者ハロルドよ!噂は聞いておるぞ!」
内心は「誰だコイツ?」と首を傾げていた。しかし、それ以上に、76人目にしてようやく現れた勇者への、藁にも縋るような期待があった。
「お前が魔王を倒すための支度金と装備を用意しておいた。そこの宝箱に入っておる。取るがよい…」
ハロルドは無言で宝箱を開け、中身を受け取ると、恭しく一礼する。その素っ気ない態度に、王はわずかに苛立ちを覚えるが、すでに魔王討伐の旅に出た勇者たちへの膨大な出費を思い、早く旅立ってほしいと強く念じた。
「勇者ハロルドよ!さぁ、旅立つのじゃ!」
ハロルドが謁見の間を後にすると、王は兵士に問いかけた。
「行ったか…?」
「はい…行ったようです…」
「で、今ので何人目だっけ?」
「76人目でございます、陛下。」
「支度金と装備を毎回用意して、さんざん金使ってるのに、なんで誰も魔王を倒せないんだ?!っていうか、なんで毎回一人で魔王に挑もうとするんだ?パーティを組むとか、他の方法もあるだろう?!」
王の苛立ちが爆発する。それは勇者たちへの怒りだけでなく、魔王という理不尽な存在と、それに立ち向かうすべを持たない自分への無力感からくるものだった。
「陛下、落ち着いてください…」
兵士がなだめようとすると、王はなぜか虚空に向かって話し始めた。
「あ、最初に勇者ハロルドが主人公だと思った?そこのモニターの前のお主!主人公はわしじゃから!そこんとこよろしくね!(ヤケクソ)」
兵士は王の精神状態を深く心配した。王の心が悲鳴をあげているように感じられたからだ。
「陛下、どなたと会話を?」
兵士の怪訝な視線に、王は我に返った。
「いや、何…どうやら疲れておるようじゃな。今日は休むとしよう…」
こうして、「勇者ハロルドの冒険」は、「王様の憂鬱」へと物語の主軸を移した。