【先に生まれただけなのに】 暇潰し
「まず適当な名前を考えるんですよ。
『はたなか こうたろう』とか『やまうち かなこ』とか適当な名前を」
少女は何がおかしいのか、その美しい顔に笑みを携えながら、オチの見えない話を続ける。
「――で、思い付いたら。思い付いた名前をひらがなで検索するんです」
あぁ、ひらがなでってところがミソですよ。
なんて楽しそうに語らう双子の片割れである少女は細い指を立てて宙に絵を描く。
「すると当然、沢山の検索結果が出てくる訳ですよ。畑中さんに羽田仲さん。八馬家さんに山内さん。漢字こそ違えど同じ名前の読み方をする人がずらりと。その人たちが経営や運営する会社のサイトやら、その人自身の経歴が纏められたプロフィールだったり、個人名義で作られたアカウントやらの候補が…」
「―――」
「そんな中から一人。たった一人の人に対象を絞るんです。まぁ、ここは名前が同じなら誰でもいいですね。社長でもフリーターでも誰でも」
泡が弾ける音のようにパッパっと笑う少女。
「選べたら次が肝ですね。その選んだ人の情報をあますことなく全て調べ上げるんです。あぁ、もちろんネット上にある簡単なものだけですよ。法に抵触するようなことはしません」
味噌だの、肝だの何を言っているんだ、彼女は。
「――私が片手間に思い付いた名前を持った人物の人生がどういったものなのかを調べるんです。どういった性格で、どういった経験を積んできて、どういった人生観を持った人物なのかを」
「…」
「思い付いつきの人間が、これまでに歩んできた道のり……その一生涯を追体験する事。それが最近の暇潰しですかね?」
「何か普通に怖いッ!」
「?」
「なにその、言ってる意味がわかりませんって顔。それはこっちの顔だよ。なんで最近の暇潰しを聞いた世間話が現代の怪談話になって出でくるのさ――えっ、君は何を目的としてそれを行っているんだ?」
「先生、暇潰しに意味や目的。ましてや理由なんかないんですよ、だって暇潰しなんですから。それに…これは受け売りですが、物事にそんな理屈ばかり求めてはいては…――」
笑顔だったり、能面だったり、恋する乙女かのようにコロコロと表情が変わる少女は敢えて言葉に溜めをつくり。
最後にキメ顔で言葉を締める。
「――人生が狭まっちまうぜ」
「誰だ、お前は」
「暇潰し評論家です」
「誰だ、お前は」