表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙みたいに残る Smoldering  作者: 梅室しば
一章 また初夏がやって来る
3/23

Now Loading

 それから、宿舎の場所や、簡単な日程の説明があって、正式に匠が代理コーチを引き受けるという話がまとまると、利玖はリュックサックを背負って立ち上がった。

「あれ、もう帰るの?」

 利玖は頷く。

「この後、人と会う予定がありまして」

「へえ、珍しいね。誰だっけ……、そうだ、阿智さんって子?」

「いえ」

 この予想は外さないだろうと思っていたので、匠は驚いたが、続く利玖の言葉に危うく口に含んだコーヒーを噴き出しそうになった。

「熊野史岐と食事をしてきます」

「うっ」

 むせる匠を見て、汐子の目がわずかに大きくなる。それは、彼女がこの研究室に来てから初めてはっきりと感情を(あら)わにした瞬間だった。

 約束の時間が迫っているのか、利玖は、コーヒーカップを持ったまま呆然としている匠を残してさっさと研究室を出て行った。

「えっと……」

 まだ椅子に座っている汐子と目が合うと、突然、匠は立ち上がった。

 研究室に備え付けの流し場に行って、蛇口に掛かった布巾を取り、水道水で濡らして絞ると、それを持って再び汐子の前に戻ってきて、実験台を拭き始めた。

「汐子さん、煙草は吸う?」

「いえ」

「あ、そう……」

 一定のリズムで左右に動いている自分の手を見ながら、これは一体どういう事か、と考える。ウェブページの読み込み中に表示される単純な円運動に近い物かもしれない。

「じゃあ……、悪いけど、ちょっとここで待っていてもらえるかな。暇だったら、その辺に貼ってある発表会のポスターとか、見ていていいから」

 汐子は、こくっと頷いた。

 匠は、すすいだ布巾を元の場所に掛け直すと、煙草とライターを持って研究室を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ