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煙みたいに残る Smoldering  作者: 梅室しば
二章 荒天の縞狩高原 
11/23

血痕

 一時間ほどが過ぎた頃、部員の一人が面を着けたまま抜け出てきて、汐子に何か伝えた。汐子は頷くと、首から提げていたホイッスルを唇に当てて鋭く鳴らした。

 部員が、構えていた竹刀をぱらぱらと下ろして、汐子の方に顔を向ける。

「稽古、止めて下さい。血が落ちているようなので掃除をします。誰か、怪我をしている人がいるはずなので、各自確認をお願いします」

 汐子の言葉で、部員達は片足立ちになって足の裏を確認し始めた。

 汐子は、壁際を歩いて利玖達の方にやって来ると、ちょうど利玖の隣に置いてあった救急箱の(かたわ)らに跪いて、消毒用アルコールのスプレーや、血を拭き取る為のキッチンペーパーを取り出し始めた。

「手伝います」

 利玖が立ち上がって声をかけると、汐子は驚いたように顔を上げた。

「いえ、そんな。お手伝いに来てくださった方に、そこまでさせるわけにはいきません」

「部員さんの手当ては荷が重いですが、床の拭き掃除くらいは出来ます。汐子さんは、怪我をされた方を()てあげてください」

 汐子は躊躇っていたが、あまり長く稽古を止めておくのも申し訳ないと思ったのだろう。丁寧に礼を言って、利玖に道具を渡した。

「さあ、行きますよ。史岐さん」

「え、僕もやるの?」

「当たり前です」

「げ……。血とか、あんまり見たくないんだけど……」

 その間、汐子は救急箱の中を探って、脱脂綿と絆創膏を取り出すと、再び部員達の集まっている場所に目をやって、ぽかんと口を開けた。

「あの……、手当てをしますので、怪我をしている人はこちらに来てください」

 部員達が顔を見合わせる。

 やがて、彼らを代表して、梶木智宏が「誰も怪我していないみたいだよ」と答えると、汐子は眉をひそめた。

「でも、さっきわたしの前に、左の指からかなり血が出ている人が来ましたよね。裸足でしたし……」

「それ、誰?」

 日比谷遥が訊ねたが、汐子は答えない。

 こわばった眼差しで体育館を見渡すと、さっと青ざめた。

「あの……。一人多くありませんか?」

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