と、少しばかりの朝
1
僕が昔、あるバーで出会ったナマケモノは、その生物的ハンディキャップをものの見事に味 方につけ、酒を楽しんでいた。「いいかい、あたいは、こうして酒を飲んでいるときにだけ、まるで自分がアクション映画 のヒーローにでもなった気がするんだよ。だってあたいが一杯のカシス・ソーダを飲む間に、 多くのやつらが酩酊し、可笑しくなっていくんだからさ。」
そして、ナマケモノはゆっくりと目を閉じて、もうぬるくなったカシス・ソーダをちろりと 飲んだ。僕は隣で、五杯目のソーダ割を飲みながら、ナッツを齧る。確かにその通りだな、となんとなく思う。
けれど。けれど、ワイルドターキーのストレート が大好物のナマケモノがいたら、こんなにうまく事が運ぶだろうか?
2
寒風吹きすさぶ中、僕はずっとひとり歩いている。先ほど飲んだ六杯のソーダ割のせいで、膀胱が破裂しそうであり、僕は足を速める。そういえば、昔から僕は異様に尿が近かった。そのせいで、得したこともあれば、損したこ ともあった。得したこと・・・おもしろくない会食中に、自然に何度も席を外せること。損 したこと・・・映画館で映画を丸々見れたことがないこと。女の子を口説いている最中に、 いいところで我慢の限界が来ること・・。
「ところで何の話だったっけ?」僕がトイレから帰ってくると、ユリは僕にそう言って、少し首をかしげた。僕はとてもシャ イな人間だから、この日もあらゆる抽象的な例えを使って、脇から脇から彼女を口説いてい た。もしかしたら、口説いてさえいなかったのかもしれない。
「えーっと。」なんだっけな。確か、富士山をウサギが登頂するのに必要なウサギ的カロリーは、約何カロ リーで・・・。もういいか。「えーっと、あれだよね」「なぁに?」「とりあえず君を口説いてたところまでは、覚えてるんだけど。」
やっぱり頻尿は、得することの方が多いかもしれない。




