ラジオを作ってみた
夏のホラー2022参加作品です。
私の名前は吉岡早苗。「吉岡鉄工所」の社長の次女で高校1年生です。
小さな町工場なのですが、私はとても気に入っています。
時々旋盤やフライス盤を使って金属を削って遊んでいます。
旋盤なんて100分の1の精度で削れま……せん。
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ある時、工場の隅に古く色あせたB5くらいの大きさの紙を見つけました。
「何だろう?」
何故だか気になったので、拾いました。
何か書いています。
「ん、○○ラジオの作り方」
○○の部分はよく読めませんでした。
「なになに、あら、割と簡単に作れるのね」
作ってみることにしました。
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「えっと材料は……あるね」
小さな工場ですが、材料は色々とあります。
「まずは…【絶縁体に銅線4を300回巻く】か。4は4ミリじゃないな。0.4ミリだろう」
絶縁体を探してキョロキョロと工場を見回しました。
「角材でいいか」
5センチ角の角材があったので、電動ノコギリで30センチくらいの長さに切りました。
そして切った角材に銅線を巻きました。
くるくるくるくるくるくる
くるくるくるくるくるくる
「ああ目が回る」
くるくるくるくるくるくる
くるくるくるくるくるくる
「あ、300回だった」
うっかり数えるのを忘れていて、がっくりしました。
気を取り直して、今度はしっかりと数えて巻きました。
「できた…」
少しぐったりしました。
「【完成したコイルの表面をやすりがけする】ああ、皮膜を取るって事ね。くるくる巻いたのがコイルだろう」
ごしごしごしごしごしごしごしごし
ごしごしごしごしごしごしごしごし
粗いサンドペーパーで巻いた銅線の表面を削りました。
「次は【薄い鉄板を赤くなるまで焼く】ね。厚み0.8ミリ4センチ角の鉄板があるから、それを使おう」
鉄板をガスバーナーで赤くなるまで焼きました。
「こんなもんかな」
程度が分からないので、全体が赤くなったところでやめました。
「えっと【炭素の棒に針金を差し込む】か。炭素…炭素、えんぴつでいいか
」
えんぴつを削り、ぐりぐりと針金をえんぴつの芯の中に差し込みました。
「【スピーカーに図のように配線する】お父さんの古いスピーカーがあるので、それを使おう」
スピーカーを取りにお父さんの部屋に行きました。
「お父さんこのスピーカー貸して」
「いいぞ」
忙しそうにしていたので、スピーカーを持ってすぐに出て行きました。
「えっとこの図のように配線か、このコイルにした銅線の残りの片方が…アンテナかな?もう一方の鉄板に繋がっている線から分岐しているのはアースだろう」
そして、コイル、焼いた鉄板、針金を刺したえんぴつ、コイルの上に乗せる針金、スピーカーを書いてある図のように配線して、接続部は半田付けしました。そしてえんぴつの先が、鉄板に着くように固定しました。
「電源もないのに、こんなのでラジオになるのかなぁ…」
疑いながらも、いろいろ試してみました。
コイルに接触している針金の位置を変えたり、固定したえんぴつの先の位置を変えたり、アンテナの形を変えたり…
かれこれ3時間…
「やってられるか!」
全く反応しないので、工場の隅に放ったらかしにして、ぷんぷん怒りながら部屋に帰りました。
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夜中2時頃、工場の隅…
『ザザ…ザザ…ザ……がけくずれが……ザザ……ザ…ザザ』
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翌朝…
「おはようお母さん」
「おはよう早苗、今朝コンビニので近くで崖崩れがあって、通行止めになるって、さっき町内会の人から電話があったわよ」
「えええ、学校遠回りじゃん」
このラジオは、鉱石ラジオをヒントにした創作です。