命を貰う
私のベッドの周りを見知らぬ人達が見渡している。「わぁー」 声を出そうとしても出ない。その中に白い髪の背の低いおばあさんの後ろ姿があった。杖を持ち見知らぬ人々の長みたいに見えた。私は死んだのか。迎えに来たのか。
春の暖かな日、私は倒れた。意識を取り戻したのは手術室の中だった。「一時間遅かったら命はなかった」と言う。その時は簡単な手術だったが、1ヶ月の入院だった。退院と同時に医師よりこの後も手術は必要との事。手術はそれなりのリスクがあるようだ。
五ヶ月後に二度目の手術が決まった。看護師から「家族の方も呼んで下さい。」と言われた時は「私は生きる為に手術するので主人だけで大丈夫です。」県外に居る子供達を呼んだ所で心配させるだけだ。
六時間の手術は無事に終わった。ICUにいる。見知らぬ男女に囲まれながら。「誰、誰なの。」 後ろ姿のおばあさんは、亡くなった祖母なのか。祖母だったら顔を見せるはずだ。ましてあんなに小さくない。白髪だらけでもない。だが怖さはない。見下ろす人達も、怖い顔をしてない。一体私はどうなるの。
「ビー」と言う音とともに目が覚め人々はいない。体中に管が何本もあった。生きてる。「大丈夫ですよ」看護師の声。「無事に終わりましたよ」口の管で答える事は出来なかったが助かったんだとほっとした。ICUから出て一般病棟に行った。六人部屋でお年寄りが多かった。退院も間近にある、おばあさんと話ていたとき、白い髪のおばあさんと、見下ろす人達の話をしたら「良かったね。おばあさんを見ると助かる命なんだよ」素直にお年寄りの言う事は信じる事にした。