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神様のプロデュース  作者: 江古田景
7/7

エピローグ

おしまいです。

 エピロゴス

 

 

   

 舞台に立つ、という事を、演劇用語で「板の上に立つ」と言うそうだ。

私は体験をして思う。なるほど、その言葉は言い得て妙だと。

 言葉を使って、このニュアンスを説明するのは、難しい。

 こんな言葉もある。「役者は三日やったら辞められない」

 これもそうだな、と思う。演じるとは、なんと気持ちのよい事だろうか。

 私が舞台の上で輝くまでに、様々な人間が、関与している。

 稽古。これは中々に大変だ。

 幼女の如き演出家に、散々イジメ抜かれた。私怨が混じっている気もした。

 冥界の底にいるような試練の日々を経て、舞台の仕込みが始まる。

 荒くれた青年が、現場を必至に取り仕切る。

 絵を描くのが好きな人間の指導で、板の上に魔法のように別世界が出現する。

 眼鏡をかけた男が、空間に音を響かせ、巨体の気の優しい男は、人間性通りの明かりを作った。

たくさんのひとたち。

無能だと思っていた男が、堂々と観客を誘導し、上演への期待を高める。

 幕が上がり、夢のような時間を過ごす。

 開かれた『エリュシオン』への扉を、私は見ないことにする。もう舞台は終わったのだ。

 そう、始まれば、必ず終わるのだ。

そしてそれは、本当の終わりではない。

 次の舞台のために、バラし、と呼ばれる後片付けをしなければならない。

 終演の高揚感に浮かれて、事故が起きやすいという。

 慎重に、祈るように、彼らは舞台を元に戻す。

 私が見ていると、不遜にも手伝えとぬかす無礼者がいる。

 平台、と言うものを持ってみた。これは、非常に重いものだと知った。

 全てが終わり、酒宴が始まる。

 皆、高揚を隠さない。

 無能な男は、幼女と仲睦まじく、席を並べている。

 少しだけ、淋しいような気もした。

 酒を煽る。ひとくち、ふたくち、みくち。

 おいしい。

こんなにも、酒が美味しいとは、知らなかった。

 無能な男を捕まえ、そう言うと、男は笑う。


 ここに居る誰も彼もが、笑顔を浮かべている。

 人の生は有限で、苦しみに満ちているというのに、まやかしの一夜を、楽しんでいる。

 愚かだと思う。哀れだとも思う。救いがたいとさえ思う。

 でも。

 

 人として死ぬのも、そんなに悪くはないのだろう。

おしまいですね。

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