読書/コナン・ドイル 著 シャーロック・ホームズ『緋のエチュード』(緋色の研究)
物語は二部構成になっている。第一部はワトソンとホームズの出会い。互いに独身でルームメイトだったこと、ホームズの人となりを紹介。そして殺人事件が発生、捜査が開始され、犯人を捕まえる。第二部は犯人の犯行動機だ。アメリカ大陸の黄金狂時代、モルモン教徒の町で起きた事件を描き、被害者女性の婚約者だった男が、加害者を追ってロンドンまでやってきて標的を仕留めるに至る経緯「犯行の動機」である。
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〈第一部 事件〉
英国陸軍軍医ジョン・H・ワトスンは、アフガニスタンの戦場で負傷し祖国に帰還するも、祖国では無為に時を過ごすのみであった。そんな折、家賃節約のため家賃を折半してくれるルームメイトを捜していたところ、知人からシャーロックホームズを紹介された。下宿先はハドソン夫人が営むベーカー街221Bの家だ。ほどなく殺人事件が起き、スコットランド・ヤードのグレグスン警部がホームズを訪ねてきた。
被害者は殺人被害者イーノック・ドレッバーという男だった。殺人現場は部屋の一室で、身なりのいい男が死んでおり、床にドイツ語でダイイングメッセージが書かれていた。ホームズはワトソンと第一発見者の巡査に状況を聞き、現場に居た無関係の酔っ払いこそが犯人だと、同行しているワトソンに言った。被害者は毒殺されており、現場の床には結婚指輪が落ちている。早速、ホームズは、犯人像を赤ら顔の大男とプロファイリング。落とし物を見つけたから取りに来るようにと、新聞広告に出す。すると老婆に変装した男が現れ、指輪を受け取った。そしてまんまと尾行していたホームズを巻いてしまう。
そんな折、グレグスン警部は、犯人を逮捕したとホームズにドヤ顔で報告した。警部が捕らえたのは海軍将校で、殺人被害者ドレッバーが秘書のスタンガスンと一緒に暮した下宿先の子息だった。警部が言うには、ドレッバーは家のメイド、令嬢にモラハラ・セクハラを散々しまくった。男が金払いがいいので黙殺してきた未亡人だが、あまりにも無礼なので、ついにブチ切れる。男は引き払う際、令嬢の腕をつかんで引きずった。このとき未亡人の息子である将校がたまたま帰ってきて、男をぶちのめし追い出したのだった。
犯行の動機は殺人被害者ドレッバーのサイコパス言動にあると結論づける。ところがそこへ、レストレイド警部がやってきて、ホテルに宿泊していた秘書ジョゼフ・スタンガスンが刺殺された状態で発見されたとホームズに報告した。
捜査内容を整理したホームズは、ワトソンと二人の警部を従え、辻馬車を呼ぶ。そして御者こそが二つの殺人事件の真犯人だと紹介した。御者の名前は、ジェファースン・ホープという。
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〈第二部 犯行の動機>
逮捕されたホープを診察した医師ワトソンは、彼が余命いくばくもないことを知る。そのホープは、ただの殺人鬼として裁かれて死ぬのは嫌だと、犯行の動機を語りだした。
第一の被害者・変態紳士イーノック・ドレッバーと、第二の被害者ジョゼフ・スタンガスンは、北米大陸ソルトレイクシテイ出身のモルモン教徒だ。ホープが二人を殺害したのは以下の理由による。
北米大陸の砂漠地帯で、ジョン・フェリアと孤児のルーシーは、開拓民仲間を疫病で失って途方にくれていた。現在地が判らず、水や食料もなく死を待つだけ。そんなところを宗教指導者ブリガム・ヤング率いるモルモン教団の一団が、通りかかり保護される。彼らは迫害を受け、新天地を求めて砂漠を横断していたところだった。理想の地にたどり着いた一行は、教会を建て、そこを中心にソルトレイクシティを建設する。ブリガム・ヤングは人一倍働くジョン・フェリアに目をかけ広大な土地を与えブリガムは期待に応えて富裕となる。そして孤児ルーシーを養女に迎えた。成長したルーシーは、すばらしい美女になった。あるとき美少女ルーシーは、馬が牛の群れに迷いこんだとき、勇敢で機知に富むジェファースン・ホープ青年に助けられる。やがて二人は恋仲となり、ルーシーが養父ジョンにホープを紹介すると、気に入られ結婚が承諾される。
青年が一旗あげるため西部の鉱山に出稼ぎに行っている間、宗教指導者ブリガム・ヤングが、ルーシーに、ドレッバー青年かスタンガスン青年いずれかとの結婚を迫った。モルモン教徒は一夫多妻制なので、両者にはすでに大勢の妻たちがいてハーレムをなしている。――可愛い娘をそんなところにやるのは嫌だ――だが宗教指導者に逆らえば死あるのみ。ジョンは手紙を出して密かに土地勘のあるホープ青年を呼び戻し、ルーシーとともに街の脱出と砂漠の横断に成功した。逃避行に成功したと油断していた青年。彼が狩りに出かけている間に、追って達はキャンプを襲撃。養父ジョンを殺害、養女ルーシーをさらって町に戻った。狩りからキャンプに戻ったホープ青年は、ジョンの殺害とルーシーの誘拐を知る。
ルーシーは、ジョンを殺した功績を認められたドレッバーと結婚させられた。だが自分を河合がてくれた養父の仇のハーレムに監禁同様に押し込まれた彼女は、間もなくストレス死する。その葬儀の際、ホープは、ルーシーの亡骸の指にはめられた結婚指輪を抜き取り、復讐を誓う。
ホープは、ドレッバーとスタンガスンを度々襲撃したので、二人は町を離れ、北米大陸からさらには欧州各国を点々とした。そして遂に二人がロンドンに滞在したことをつきとめたホープは、辻馬車の御者となって二人の居所を見つけると、首尾よく二人を殺害した。一人目のドレッバーは毒殺、二人目のスタンガスンはナイフを構えて抵抗したので、ナイフで渡り合い、殺害した。
事件後、復讐を果たしたホープは、スコットランド・ヤードに連行収監・裁判待ちのところで獄死した。事件解決の手柄は二人の警部のものとなった。しばらく経って、真相を知るワトソンは、不遇な親友ホームズのために、捜査記録を世にだすことにした。
物語は、第一部がポオ的な探偵小説、第二部がゾラ的な犯罪小説風味の構成になっているのが興味深い。
ノート20211117