読書/江口之隆 著 『西洋魔物図鑑』
1996年、全278頁。著者は、『世界魔法大全Ⅰ 黄金の夜明け』を主に担当し、シリーズのいくつかに携わった翻訳者だ。『魔物図鑑』は、魔物を、絶対神に反逆して星々に逃亡した天使(元の神)=天魔、竜やドワーフといった地球の精霊=地魔、人の霊が絡んだ人魔と分類している。
『魔法大全Ⅱa 魔術・理論と実践』において、著者アレイスター・クローリィーは、西洋魔法思想は、遠く古代エジプトの世界観からユダヤ教、新旧キリスト教会会派を主体とし、さらにインドのヨガ、中国易経の影響も受け、また日本の神道についても触れられていた。クローリーは、聖書にあるような神に対抗するような組織的な悪魔の存在を否定。刹那的に人間に悪事を働く野良精霊といったニュアンスで悪鬼(悪霊)としている。
著者は、クローリーの影響を受けているのか、「天・地・人」道教の世界観を下地にしつつ、実をいうと神と悪魔の地位は逆転しているという見解を持っている。
個人的に興味を持ったのは、130頁「第二次創世記戦争」、162頁「魔法猫」、163頁「猫の王様」、220-226頁「吸血鬼」だ。
「猫の王様」は漫画『魔法使いの嫁』でも紹介されている。日本にも猫又の長「猫王」伝説があり、幼少のころ、福島県猫魔山近く・中山峠でそれらしい巨大な黒猫を見たことがある。『魔物図鑑』における「猫の王様」はごく普通の町中・村落にいる飼い猫が通力を得た魔法猫の一種だが、日本の猫王は、ビッグ・イアの形状に近い。ビッグ・イアは、黒魔術師が召喚する大きな猫の使い魔で、暗殺に使う。そのあたりは、中国で流行った猫術に近い。
「吸血鬼」は、心霊吸血鬼、元素霊吸血鬼、不死系吸血鬼といった、ダイアン・フォーチュン『魔法大全Ⅳ 心霊的自己防衛』に影響された分類を述べている。心霊吸血鬼はモラハラ・クレーマーな人間で、他人のオーラを壊して回る。壊された者は同族になる。元素霊的吸血鬼は、魔術師が作り出した使い魔が栄養分補給として人間の精気を吸収するものだ。不死系吸血鬼も人間(但し魔術師)で、意識的にターゲットの人間から精気を奪う。西洋では秘術で具体的な方法は明らかにされていない。代わりに東洋における仙術・密教の「房中術」を例に挙げている。
昔、鎌倉東慶寺で「元素霊的吸血鬼」というものに遭遇して失神しかけたことがある。リアル吸血鬼は基本、人の殺害にまでは及ばないようだ。
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