有罪は間違いないけれど
翌日、川本と慎吾はファミレスで待ち合わせをした。
「メールの犯人が分かったわよ」
「えっ」
「西本和典」川本が静かに語ると
「ま、まさか……」慎吾の驚きは尋常ではなかった。
しばらく考えた彼は
「でも、たまたまその喫茶店にいただけかもしれないですよね」
小さな抵抗をしたが
「4回も続けて?」川本に切り返されると
「……」彼は俯いてしまった。
「何か心当たりはないの?」
「全くないです」
「お金の貸し借りはないわよね」
「はい、ないです」
「じゃあ、女性関係はどう?」
「えっ、どういうことですか?」
「うーん、例えば、二人で同じ女性を好きだとか、あなたが彼の彼女を奪ったとか……」
「そ、それはないです。彼女は誰とも付き合っていなかったですから……」
「今、付き合っている人がいるのね」川本の目がきらりと光った。
「は、はい」
「教えて、なんて人なの?」
「経理課の栗田玲奈です。でも、もう別れると思います。あれから連絡していないし、向こうからもないですから……」
「そうなの…… 」
(でも、こんなことになって遠ざかる女なんて、別れて正解よ)川本はそう思ったが言葉にはしなかった。
「……」
「それから、もう一つ大事なことがあるのよ」
「何ですか?」
「西本和典の母親は、吉田由紀子なの」
「ええっ!」
慎吾は目を見開いた後、俯いてしまった。
「でもね、西本はおそらく母親が事件に絡んでいることは知らないと思うのよ」
「そ、そうなんですか……」静かに顔を上げた慎吾が川本を見つめる。
「うん、当時、母親も事情聴取されたりしたはずだけど、マスコミなんかは【Aさん】って書いて実名は避けていたし、もし、知っていたら、彼だって事件のことには触れたくないはずなのよ」
「確かに……」
「おそらくは偶然なんだろうけど、あなたもそこは気を付けて、吉田のところに行っても、会社の名前と西本の知人だということは絶対に言わないでよ」
「は、はい……」
「でも、西本がどうしてこんなことをしたのか、そこがわからないのよ」川本が首を傾げると、慎吾も小さく唇をかみしめ、一点を見つめたが何も思い浮かばなかった。
「ところで、メールが届き始めた頃、何も変わったことはなかった?」川本が尋ねると
「うーん、あのメールが3課に届いた頃、休みの前の日だったかな…… だから5/11の火曜日だったかな、代休の日に、食材を買いに行って帰ってきたら、お祖母さんが、びしょぬれになって…… 」
彼はその時の状況を説明した。
「その彼女は、本当にお父さんから電話があったの?」
「嘘は言わないと思いますよ、だって何のために?」
「そんなどこの誰だかわかんないようなお祖母さんをお風呂に入れてあげようとしていたんでしょ」
「ええ」
「そんな人の世話なんてしたくないでしょ」川本が眉をひそめると
「そ、そうなんですか!」慎吾は驚いた。
「絶対にそうよ、まあ、その子に限らず、若い子なら仕方ないかもしれないけどね」
しばらく沈黙があった。
「それで、その栗田玲奈からも話を聞いてみたいんだけど、いい?」
「えっ、でも、迷惑はかけたくないんで……」
「なんで迷惑になるのよ、あなたがこんなことになっているのにメール一本よこさないんでしょ。気の毒だとは思うけど、もう終わっているわよ」
「ええ、それは仕方ないと思います」
「じゃあ、いいじゃない。お父さんの真実とは別に、こんな卑劣なことをするやつを許すわけにはいかないのよ」
「……」
「もしかしたら、その栗田玲奈が仕組んだ可能性だってあるわよ」
「えっ……」
「あなたの父親のことを知ったものの、別れが切り出せなくて、西本に相談したのかもしれないわよ」
「そ、そんな……」
「可能性の問題よ、関係なければそれでいいのよ。だけど、消せるものから消していかないと、理由が分かんないのよ」
「わかりました。思うようにしてください」
「その女にまだ未練があるの?」
「いや、結婚を考えてはいたんですけど、親父のことを話さなければって考え始めると、なんかどうでもよくなったりして……」
「そうなの……」
しばらく沈黙の後
「あのー、変なことを聞くんですけど、川本さんって、おいくつなんですか?」
「えっ、歳のこと?」
「はい……」
「あなた、私のこと、年上だと思っているんじゃないでしょうね」
「えっ、年下何ですか」
「そんな訳ないっしょ、29よ、あなたより4つ年上よ」
「えっ」
この頃、二人の会話から少しずつではあるが、堅苦しさが消えて、川本は時々冗談を交えるようになっていた。
しばらくして二人が店を出た時だった。
「彩子、久しぶり」声をかけてきたのは無二の親友、桜井奈々だった。
「おう、奈々、何してんの? 」
「あんたこそ、何してんのよ」
「私は新しい彼とデートよ」彩子が慎吾を見て微笑むと
「はあっー、無理があるわね、私は桜井奈々、彩子のストーカーよ、君は?」彼女が慎吾に微笑んだ。
「えっ、俺はストーカーじゃないです」
「はあー、名前よ、名前」
「あっ、はい、戸田慎吾といいます」
「ふーん、何歳? 」
「30歳です」
「ふーん、君、なかなか言うね」
慎吾は不思議な人だと思ったが、それでも、さすがは川本弁護士の友達……! なぜかそう思ってしまった。




