メール事件の犯人はわかったけど
一方、川本彩子は、慎吾が動き出したことで一安心すると、その翌日、思い切ってカフェ・ローゼで店長に話を切り出した。
事情を聴いた店長は
「いいですよ」いとも簡単に了承してくれ、彼女は拍子抜けしてしまった。
「でも、オーナーには内緒にしてくださいよ。個人情報ですから、不味いことになります」
「もちろんです。でも、どうして……」彼女が首を傾げると
「怪しい奴がいるんですよ。絶対あいつです。来るたびにモバイルを抱えて来て、ごそごそやっているんです。この前なんか、女の子が声かけてコーヒーを置いたのに、自分が必死でパソコンで何かしてて、コーヒーをこぼしたんですよ」
「それで……」
「大きな声でね、『黙って置いていくな』って」
「最悪ですね」
「女の子が、『こちらに置いておきますね』って言った時、あいつは小さく頷いたんですよ」
「何かに一生懸命になっていたんでしょうね」
「まっ、とにかく見てください」
「4/7、13時、…… こいつですよ」店長は、録画を再生ると、その男を指し、13時前後の5分間をコピーした。
「それから4/21、13時…… ほら、いるでしょ」再び再生を始めると店長は嬉しそうに13時前後の5分間をコピーした。
「それから…… 」
結局、5/6、5/11、の両日もその男はそこに映っていた。
川本は、会社に急ぐと、すぐにお客様相談室に向かい、その男が営業一課の西本和典であることを知らされた。
「こいつ、いったい何者なのよ」川本が顔をしかめると
「……」担当の浅井は俯いてしまった。
「浅井さん、何か心当たりがあるの?」
「この人、戸田さんと仲がいいはずですよ……」
「ええっ! 」
「……」
浅井は、栗田玲奈が西本から言い寄られて困っていたこと、その栗田が今は戸田慎吾と付き合っていることを知っていたが、( まさか! )と思い、口には出さなかった。
「だけど、何か、あるんでしょうね」
浅井に違和感を持った川本が、彼女に目を向けると、彼女は目を反らしてしまった。
「この西本の家族は?」
「それは人事課じゃないとわかんないです。理由がなければおそらく教えてはくれないと思うのですが……」
川本は、すぐに社長室に向かうと、状況を報告した。
「おそらく、この西本が犯人であることは間違いないです。でも、決定的な証拠はありません。この録画を見せても、『たまたま、ここにいただけ』と言われればそこまでです。もう少し、調べてみたいです」
直ちに人事課長が、資料をもってやって来たが
「彼は一人住まいで、緊急連絡先としては、吉田由紀子、実母となっていますね」
「よ、吉田由紀子!」川本は耳を疑った。
「名古屋ですか?」
「いえ、携帯ですからちょっとわからないですね。もう今頃は、何かあった時の緊急連絡先を聞くだけで、それ以上のことがなかなか難しいんです。家族でもいれば、扶養の関係なんかで資料はあるんですけど……」
「その番号を教えていただくことは可能ですか?」
「それは、かまいませんが、もし、電話を入れられるのであれば、くれぐれもわが社からの情報であることだけはご容赦いただきたいのですが……」
「もちろんです」
会社を後にした川本は考えていた。
戸田君のお父さんの事件と、なんか関係があるの?
いや、西本は、事件のことは知らないのかもしれない。
母親が関係していたことを知っていれば、いまさらその事件を表に出すようなことはしないはず。
名前が違うのも気になる。
吉田は、静岡にいた時から吉田姓……
息子は静岡にはいなかったの?
彼女は、その夜、静岡県警の安藤に電話を入れ、吉田由紀子の母親が西本姓だということを知って、少し状況が見えてきたように思った。