公けにされた真実
10日後、臨時株主総会を招集して、挨拶を済ませた後、新社長中杉裕也は、母、陽子を伴い記者会見を行うことにした。
この情報を耳にした柿本弁護士は、激しい剣幕でまくし立ててきたが、
「これ以上、あなたとお付き合いするつもりはありません。年度末までの契約料はお支払いいたしますので、以後、わが社には顔を見せないでいただきたい」と中山が対応すると
「わかった。名田法律事務所を敵に回すということだな」柿本はどすを聞かせてみたが、
「内の頭取から所長に一連の報告を済ませたところ、所長はお詫びをされたそうですよ」
「な、なんだと……」柿本は慌てて引き上げていった。
記者会見当日、13時、その冒頭、中杉社長は就任のあいさつを済ませた後、7年前の横領事件の概要について説明した。
「当時、わが社は、裁判の結果を信じて、この横領された3000万円につきまして、橋本貴文さんの奥様に対して賠償請求を行い、お支払いいただいたところでございますが、この非礼をお詫び申し上げますとともに、ご遺族であられます戸田慎吾様に、法定利息を上乗せしたうえでこれをお返しすることといたしました。無実の罪を背負ったまま亡くなられました橋本貴文様、そしてそのことで心の支えを失い亡くなられた奥様、さらにはその遺族であられます戸田慎吾様に、心よりお詫び申し上げますとともに、お二人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。」
ここまで説明すると、二人は立ち上がり深々と頭を下げた。
「どういうことですか、橋本さんは冤罪だったのですか!」
中山が手を回していた週刊誌の記者が声を上げた。
「はい、疑う余地はないと考えています」社長がしっかりと答えると
「いきさつを説明いただけますか」別の者が手を上げた。
「はい、先日、戸田慎吾様の代理人であります川本彩子氏から、当時の3千万円横領事件にかかる新事実をお知らせいただきました。それによりますと、事件はわが社前社長であります中杉一郎が企てたもので、裁判に置きます橋本貴文様の証言がすべて真実であったこと、さらには当時のアタッシュケースには最初からお金が入っていなかったとのことで、これは、当時、現場で橋本さんが会ったという女性が告白されたもので、添付された証拠は疑う余地もなく、ここに至った次第であります。
中杉一郎は既に代表取締役社長を解任され、母、陽子ともすでに離婚いたしてはおりますが、当時は紛れもなく母の夫であり、私の義父であり、わが社の代表取締役であったことは事実で、当時家族でありました私共の罪が許されるものとは思っておりません。
亡くなられたご夫妻の無念、そしてただ一人の遺族として冤罪の父の罪を背負って生きて来られて戸田慎吾様のご苦労を思うと、胸が張り裂けんばかりの思いでございます。今後は、どのような形で償いをさせていただくことができるのか、戸田慎吾様にお詫びを申し上げた上で、思いをうかがってまいりたいと考えております。」
これは、川本が用意した原稿であった。
「どうしてこのような記者会見をされたのですか? 考え方によっては直接、戸田さんと協議すればよかったのではないですか?」再び、息のかかった記者が質問すると
「戸田さんの代理人によりますとすでに再審請求もなさっているとのことでございましたが、正直申し上げて、この結論がいつ出るのかわかりません。さらに、橋本さんの無罪が明白であっても、その扉が開かれない可能性もあります。こうした中で、私共が至急になすべきことは、まず橋本様の冤罪を世間にお知らせすること、そしてご遺族にお詫び申し上げるとともに、我々の責任を果たしていくこと、これが喫緊の課題と結論したところであります。ご遺族のお気持ちを考えますと、このままずるずると橋本貴文様の冤罪が明確にされないまま、賠償問題を決着するべきではないと考えた次第であります」
この記者会見は大成功であった。中杉開発の現社長は、一言も言い訳をすることなく、その責任を果たそうとしていることが称賛され、その矛先は、中杉一郎と、証言を覆した証人Aに集中したが、
「この二人については、現段階でこれ以上のことは申し上げられない状況にあります。この事件については、橋本貴文様の無罪は疑う余地がありませんが、法的には、裁判で有罪が確定し、現段階では再審請求の扉が開かれているわけではありまん。私共は、橋本貴文様の無罪をお知らせするために皆様にお集まりいただいた次第で、後のことは司法にお任せしたいと考えております」
総務部長の中山がきれいに切り返した。




