表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去を覗いてしまった男  作者: 此道一歩
15/25

一事不再理

 慎吾は、翌日思い余って、川本に連絡を入れ、事件の詳細を説明した。


「まるで見てきたようだけど、そこは言えないのよね」

「はい、すいません。こんなに良くしていただいているのに隠し事をしてしまって、本当に申しわけないです」

「ううーうん、そんなことは気にしないで、だけど、お父さんが言っていたとおりね。ただ、お金は最初からはいっいなかった」

「はい」

「その事実を芝山は知っていたけど、吉田は知らなかった」

「はい」

「わかった」

「でも、真実がわかっても何もできない。悔しいです」

 

 しばらく沈黙があった。


「そんなことはないよ。答えがわからずに、答えを導こうとするよりも、わかっている答えに導く方が簡単でしょ」

「そ、そうなんでしょうけど……」

「だって、考えてごらんなさいよ。芝山がそこにいたっていうことは、総務課長の証言はおかしいっていうことよ。彼が偽証したか、何か細工があったということでしょ」

「でも……」

「何を心配しているの?」

「仮に、総務課長が偽証していて、それを白状したとしても、一度判決が出ている以上は駄目なんでしょ」

「一事不再理のことを言っているのね」

「はい…… なんか、そんなことを聞いたことがあります」

「確かにある刑事事件の裁判で、確定判決がある場合には、その事件について再度、実体審理をすることができないという大原則があるわ、でもね、再審請求っていう手もあるのよ」

「その一事不再理っていうのがあっても、再審請求はできるんですか?」

「被告人にとって、有利になる新たな証拠事実が出てきて、それが判決を覆すだけの価値があれば再審請求ができるの」

「そうですか……」

「再審請求の道は狭いけど、お父さんの無実を証明することだけに限定すれば、方法はいろいろあると思うのよ。事実が一つずつ明らかになった時、必ず道は見えてくる。だけど、前に進まなければ道は見えない。恩師の言葉よ、私はそう信じている」

「でも、何も証拠がない…… 」


「正直言って今のままでは苦しいかもしれない。だけど、前に進めば、きっと何かある。何か出てくるよ、今は信じて進むしかないと思うの。だから、がんばろ?」

「はい…… 」

 彼はそう答えたものの、川本だって、どうにもならないって思っているんじゃないのか…… そんないら立ちが渦を巻き始めていた。


 その後、川本は、当時の総務課長に面会し、愕然とした。

 あの日、社長室に呼ばれた総務課長は、

「もう上がってくれ、私は甥の芝山に、社会人としての在り方を話しているんだ。もう少し時間がかかるから、遠慮しないで上がってくれ」と言われたらしいが、こんなことは珍しく、また芝山の姿を実際に見たわけでもない。スクリーンに影があったので、そこに芝山がいると思っていたらしく、裁判でここをつかなかった弁護士のお粗末さに言葉がでなかった。


 ただ、一方で、川本も、慎吾の新情報に触れては見たものの、こんなことでは、何もひっくり返すことはできない、何か欲しい、もっと明確なものが何か欲しいと焦っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ