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過去を覗いてしまった男  作者: 此道一歩
13/25

推定、川本彩子

 その後慎吾は、何もする気にならなかった。

 2~3日、のんびりと過ごした後、彩子のことが気になって、事務所を訪ねてみると留守だったが、鍵はかかっていなかったので、中に入って待っていると10分ほどして彼女が帰って来た。


「どうしたの? 何かあったの?」彩子が驚いて尋ねたが

「いや、特には…… 」

「何もないけど、貧乳女をいじりに来たの? 」彼女が微笑んだので、慎吾は安心した。

「そ、そんなつもりは…… 」

「当り前よ、そんなつもりで来たんなら、ぶん殴るわよ」

「せ、先生」

「先生って言わないでっ」

「す、すいません、あの彩子さん、……」

「ちょっと待ってよ、彩子って…… 」

「ええっ、それも覚えていないんですか?」


 彼が状況を説明すると

「覚えていないのよ」

「ええっ、でもそれって、飲む前の話ですよ」

「酔ってしまったら、その前も1時間くらいも記憶が断片的になるのよ」

「それってすごいですね」

「何がすごいのよ、ほんとにもう」

 彩子は、秘密を知られてしまった慎吾と話すことは気が楽だった。

 仕事柄、いつも気を張っている彼女にとって、自分を飾らないで誰かに向き合うということは、ある意味、安らぎにも似ていて、彼女にとってそれは、とても心地よい時間でもあった。


「でも、彩子さん、あっ、彩子さんて呼んでもいいですか?」

「いいわよ、なんとなく、そんなこと言ったような気がする」

「いままで、外で飲んだことはないんですか?」

「うーん、できるだけ飲まないようにしているし、絶対に一杯で止めてたのよ…… あっ、あんたが勝手に2敗目を注文したからでしょ、そこはなんとなく覚えているのよ!」

「そ、そんな…… 気を遣ったつもりで」

「あんたのせいよ、ほんとにもう、たった二つしかない私の秘密を二つとも知られてしまって…… もう死にたいわよ」

「そ、そんな大したことじゃないですって…… 」

「なによ、もう!」

「他に知っている人はいないんですか?」

「酒癖が悪いのを知っているのは何人かいるけど、胸のことを知っているのは二人だけよ」

「元カレと?」

「親友よ、なんでこんな話になるのよ」

「いやー、なんか、潔癖で隙がないと思っていた彩子さんの秘密を二つも知ってしまって、うれしくて……」

「馬鹿みたい」

「もしかして、元カレと別れた理由って、ほんとうはそれですか?」

「そ、それって、どっちよ」

「うーん、胸」

「あんた鋭いわね」彩子が顔をしかめた。

「でも、胸が小さいのが嫌だなんて言う男は別れて正解ですよ」

 慎吾は嬉しそうだったが

「嫌って言われたわけじゃないのよ」

 彩子は遠くを見つめた。


「えっ、じゃあ、どうしてなんですか?」

 「うーん」彩子は小さく唇をかみしめて、眉をひそめた。


「あの人は明らかに巨乳が好きだったのよ、それが分かったから、別の理由を作って別れたのよ」

 彼女はまだ思いを引きずっているようだった。

「ええっ、彩子さんが身を引いたってことですか?」

「そんなかっこいい話じゃないけど……」

「でも、その人は川本彩子っていう人間に惚れてたんじゃないですか?」

「そんなきれいごとじゃ済まないわよ」

「き、きれいごとですか?」

「そうよ、だっさー、週に一度交わるとして1年に52回、20年で1000回以上、交わるのよ、その男はそのたびに小さな胸だなー、もっと大きなのに触ってみたいなーって思うのよっ」

「ぷっー」慎吾は吹き出してしまった。

「それって、かわいそうでしょ、どうにもならない欲望と戦いながら生きていくのよ、私だったら絶対に途中で、どこかで胸の大きな人と遊んで来なさいって言うのよ」

「まっ、まさか」

「言うのよ、ぜったい言うのよ、私は!」

「信じられない」

「だけど、そうなったら、なんかおかしいでしょ」

「た、確かに……」

「だから別れたのよ」


「なんか彩子さんて、すごい人ですね。だけど、そこまで相手のことを考えていたら、恋愛なんてできないでしょ」

「だからしていないわよ」

「あっ、だけど、俺が秘密を知ったことで、外で飲めるチャンスが増えたじゃないですか、だいたい飲みに行ってうまいもの食ったら、絶対に飲みたくなるでしょ、俺がいつでも付き合いますから」

「何言ってんのよ、そのたびにあんたにキスしているのかって思ったら、酔いがさめてしまうわよ」

「あははは、でも、あそこの居酒屋、おいしかったですね。特に、串カツは最高でしたね」

「確かにね、私はあさりバターが最高だったわよ」


 慎吾は、事件以外のことで、彩子とこんなに話すことができてとても楽しかった。


「ところでさ、この前、芝山健二の話が出ていたじゃないの……」

「はい、中杉の甥ですよね」

「この前、話してくれた状況からすると、後ろからお父さんに睡眠薬をかがせたのは芝山だと考えるのが自然よね」

「そうですね、俺もそう思います」

「なんとなく、現場での様子がわかるような気がするよね」

 彩子は、また慎吾に何かが起こって、もっと具体的なことが分かればいいのにと少し期待していた。


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