8 あなたと一緒にいたい
動画を見る二人。
「……大宮が先輩狙ってたの、知ってます?」
肩に寄り掛かるように座っていた綾音が、突然口を開いた。
私は聞こえないフリをして、返事もせずに黙っていた。
「……あいつ、弓道部の女子全員。手出してたみたいで」
動画は基本、ベッド脇に固定されたスマホから撮られていた。
私が眠ったことを確認した彼女が、掛け布団を注意深く引き剥がしていく。
「剣道部も、全員マーキングしてたらしいんですよ」
彼女はまず、眠る私の唇に吸い付いた。
「……私も、声掛けられました。
『部員のこと知っておきたいから、ちょっと家に来ないか』って。
てかそれで気付いたんです。あいつが"同類"だって」
口を塞がれた私は、しかし未だ目覚める気配もなく。
綾音の手が、私の身体にそっと伸びていく。
やがて寝ている私の手指が、微かにピクッと反応し始めた。
ただ映像を観ているだけなのに、それを受けている最中のような感覚に襲われた。
「いや、もちろん断りましたよ?
でも私……怖くなって。
……『あいつが先輩みたいな美人、狙わないわけがない』って」
綾音はとうとう我慢の限界といった様子で、仰向けで眠る私に覆い被さった。
「……大好きな先輩を、取られるんじゃないかって……。
……それだけは嫌で……。
……だったら、先に……自分のモノにしたい、って……」
その声は、消え入るように掠れていき。
「……綾音……?」
私は驚いて横を見た。
ヘッドホンを外した彼女の目尻から、涙が流れていた。
真正面を向き、目を開けたまま。
……演技ではない。
彼女は私と目を合わせることができないのだと思った。
「こんなことして……ごめんなさい……。
もう、観なくてもいいです。
……全部、目の前で完全に削除します」
綾音がゆっくりとこちらを向き、私の目を見た。
……今更こんな事言うのも、なんですけど、と。
そこで私もヘッドホンを外した。
以前、聞きそびれたその言葉を、一言一句聞き逃さないように。
「……好きです。先輩。
恋人として……あなたと一緒にいたいです」
その時確かに、スッと胸の奥が晴れたような気がした。
私はとりあえず、返事を保留にして。
――薄暗い部屋の中、泣き崩れる後輩をそっと抱き寄せた。