無惨!家電量販店が新型ゲーム機の予約で悪事を働いた時
これは、
人気ゲーム機の新型機の発売を利用して、一儲けしようと目論む、
家電量販店の店長をしている男の話。
秋も半ばを過ぎて、年の瀬が近付く季節。
人気ゲーム機の新型機が、
発売されるという発表が行われた。
その新型ゲーム機は、発売前から大人気で、
予約受け付けが開始されるやいなや、
すぐに完売してしまう程の盛況ぶりだった。
その新型ゲーム機で遊ぶ日を心待ちにするファンたち。
しかし、
そんなお祭り騒ぎに乗じて、
一儲けしようと目論む人たちがいた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!
当店は、新型ゲーム機の予約受け付け中ですよ。」
都市部に店を構えている、ある家電量販店。
その家電量販店では、
発売予定の新型ゲーム機の予約受け付けを行っていて、
たくさんの人たちが店を訪れていた。
人気ゲーム機の新型機とあって、
予約を希望する人は後を絶たず、
その家電量販店では、
抽選販売のための予約、抽選予約として予約を受け付けていた。
つまり、
予約の手続きをしても、必ず買えるとは限らないのだが、
それでも人々は、抽選予約のために行列を作っていた。
行列しているのは、店頭に並んでいる人たちだけではない。
インターネットでも抽選予約の受け付けを行っていて、
そこにもたくさんの申込みがされていた。
そんな行列を見て、
その家電量販店の店長をしているその男は、笑顔を噛み締めていた。
「抽選予約だというのに、この人気ぶり。
新型ゲーム機をもっとたくさん入荷できれば、売り上げが伸ばせるのになぁ。
なんとかして、この人気を売り上げに結び付けられないだろうか。」
その店長の男は、笑顔半分の難しい顔で考え込んだ。
その家電量販店では、
抽選予約を受け付けるにあたって、条件を設定していた。
予約を受け付けるに時に、まず避けたいのは、
買ったものをそのまま他所に転売することで利益をあげようとする、
転売屋による買い占め。
転売屋は人気商品しか買っていかないから、販売店側の利益は薄い。
また、買い占めによって買えなかった人たちからの苦情の原因にもなる。
家電量販店にとっては、頭の痛い相手だった。
それを防ぐために、以下の条件が予め設定されていた。
予約受け付けは、抽選予約として受け付ける。
住所氏名などを登録した人たちの中から後日に抽選して、
当選者のみ予約を受け付けて販売する。
登録は、一世帯につき一人に制限する。
これらはよくある抽選予約の条件で、
これによって、
1人で何度も申し込むような転売屋を、
ある程度は防ぐことが出来るはずだった。
1人で何度も申し込む人がいると、
他の人は抽選で不利になるのだから、
転売屋を防ぐための予約条件の設定は、他の人たちにも歓迎された。
しかし、
人間とは欲が出るもので、
予約に条件を課しても良い、ということになると、
それを利用して儲けに繋げられないかと、考える人たちが出てくる。
その店長の男も、そんな1人だった。
「抽選予約なら、
新型ゲーム機の在庫一台につき、
もっとたくさんの買い物客を呼び寄せられる。
それを売り上げに結び付けられないだろうか。
・・・そうだ。
正直に抽選する必要は無いんだ。
例えば、常連さんの当選確率を上げてやればいい。
それから、
ゲームソフトや周辺機器を一緒に買ってくれる人の当選確率も上げよう。
事前にそれを告知していれば、不正な抽選にはならないだろう。
それなら、
うちで発行してるクレジットカードを持ってる人も当選確率を上げよう。」
そうして、
あれやこれやと条件を追加していくうちに、
抽選予約の条件は膨大なものになっていった。
最終的に、
その家電量販店での新型ゲーム機の予約条件は次の通りになった。
予約は抽選予約。
条件によって当選確率が変わる。
まず、会員証は必須。
会員証は、予約受け付け当日発行OK。
当店発行のクレジットカード機能付き会員証なら、当選確率さらにUP。
こちらも予約受け付け当日発行OK。
当店での購入履歴があると、当選確率UP。
過去1年間の購入金額が1万円分増える毎に、当選確率さらにUP。
こちらは、抽選結果発表前日までの購入分が有効なので、
抽選予約申し込み後に買い物をしてもOK。
その分、当選確率UP。
新型ゲーム機本体だけではなく、
周辺機器やゲームソフトを一緒に予約すると、当選確率UP。
こちらは、同じ商品を何個買ってもOK。
その分、当選確率UP。
当店独自の長期保証サービスに加入すると、当選確率UP。
保証サービスは1年毎の更新で、更新費用は5年分まで前払いOK。
その分、当選確率UP。
自分が作った条件を確認して、その店長の男は首を傾げた。
「ちょっと条件を増やしすぎたかな。
・・・まあいい。
新型ゲーム機は人気商品だから、
多少条件を増やしても、予約する人は減らないだろう。」
そうしてその家電量販店では、
抽選予約の受け付けにそれらの条件が追加された。
それから数日後。
その店長の男が心配した通り、
利用者から反発の声が上がっていた。
インターネットのソーシャルネットワークサービス(SNS)上では、
人々がお互いに発言をやり取りできるのだが、
そこではその家電量販店への苦情や不満が溢れていた。
「あの店で新型ゲーム機の抽選予約の申込みをしようとしたら、
会員証が無きゃダメだって言われたよ。
おかげで、
他に買い物する予定もないのに、会員証を作らされた。」
「私なんて、
クレジットカードまで作らされたわ。
年会費がかかるから、クレジットカードなんて作りたくなかったのに。」
「俺は、延長保証を5年分も前払いさせられたよ。
新型ゲーム機にはメーカー保証があるし、
コントローラーなんて、壊れたら修理するより買い直した方が安いのに。」
「これって、
法律で禁止されてる、抱き合わせ販売じゃないのか?」
そんな発言を見ていて、その店長の男は腹を立てていた。
「どいつもこいつも、好き勝手言うなぁ。
人気商品の在庫を確保する苦労も知らない癖に。
そもそも、
抽選予約の条件は、転売屋対策のために始めたんだぞ。
つまり、悪いのは買い物する側じゃないか。」
これ以上、店の悪口を言われて、
売り上げが落ちてはたまらない。
その店長の男は、
SNS上で、その家電量販店に否定的な書き込みをしている人たちに対して、
それを止めるように警告するメッセージを送っていった。
「抽選予約の条件は、
転売屋対策のために設定されたものです。
あなたは、その条件に納得して申し込みをしたのですよね。
だったら、文句を言うべきではない。」
抱き合わせ販売ではないかという書き込みには、次のように反論した。
「新型ゲーム機を販売しているのは、うちの店だけではありません。
条件に納得できないなら、他の店で買えばいい。
周辺機器やゲームソフトなら、他の店では在庫が余っているところもある。
それから、
延長保証は、商品を安全に使うためのものです。
商品を安全に使えることは、誰にとっても利益になるはず。
それでも不要なら、最短の1年後の更新時に解約すればいい。
だから、
この販売方法は、抱き合わせ販売にはあたらない。
もしもこれ以上、
うちの店の悪口を書いたら、
その時は、弁護士などに相談させてもらう。」
そんな警告半分脅迫半分のメッセージを送ると、
苦情や不満を書き込んでいた人たちは、
すぐに書き込みを削除して、口を閉じていった。
その店長の男は、
その家電量販店に不利な情報が削除されたのを確認して、満足そうに頷いた。
「簡単に黙らせることが出来たな。
事情を詳しく知らない連中が、
店の悪口なんて軽々しく書き込むもんじゃない。」
そうしてSNSでは、
表面上、その家電量販店の悪口は無くなった。
しかし、人の口に戸は立てられない。
その家電量販店の悪い評判は、文字に残らない形で着実に広がっていった。
そんなことがあってから、抽選予約の抽選結果発表の日になって。
その家電量販店の店頭とインターネットサイトで、当選者が発表された。
たくさんの条件が設定されていたにもかかわらず、
新型ゲーム機の人気から、申込みをした人は多く、
その競争率は数十倍にもなっていた。
つまり、
当選したのは、申し込みをした人の中で数十人に一人だけ。
落選したたくさんの人達は、がっくりと肩を落とし、
当選した少数の人たちもまた、不満そうな表情をしていた。
インターネットのSNS上では、
またしても、その家電量販店への不満が噴出していた。
「やっぱり落選だったか。
この店、新型ゲーム機の入荷数に対して、
抽選予約を受け付けた数が膨大なんじゃないかって、
あっちこっちで噂になってたものな。」
「その話をSNSに書き込んだら、
削除しないと訴えるって、店の人に脅されたよ。」
「俺は当選していたけど、
そのために、
不要なものをいっぱい買わされたよ。
冷静になってみると、不要なものを買ってしまって後悔してる。」
「転売屋対策だって言うけど、
不要なものを抱き合わせ販売しても、
その分、転売価格が上がるだけじゃないのか?」
そんな客たちの不満を他所に、
その家電量販店の売上は過去最高。
その店長の男だけが、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
その日の夜。
その家電量販店の営業時間が、もうすぐ終わる頃。
外はとっぷりと日が暮れて、客の数もまばらになり、
そろそろ閉店作業を始めようかという、その時。
突然、
その家電量販店の扉が乱暴に開けられた。
それから、
大柄な男たちが多数、ドカドカと乱暴に足を踏み入れてきた。
店内に入ってきた男たちの姿を見て、
その家電量販店の店員たちは慌てふためいた。
丁度その時、
その店長の男は、店内の事務所で売り上げの計算をしていた。
過去最高の売り上げを眺めながら、ニヤニヤと顔を綻ばせて時、
防犯カメラに映る映像から、店内の異変に気がついた。
「なんだ?あの男たちは。
大方、抽選予約の結果に文句でも言いに来たんだろう。
しかたがない、私が応対に出るか。
そういう連中の相手は、慣れているからな。
すぐに追い返してやる。」
そうして、その店長の男は、
事務所から出て、売り場へと向かっていった。
相手はどんな文句を言ってくるのか、それにどう反論するか。
その店長の男は、そんなことを考えながら、
毅然とした表情になって、つかつかと売り場に向かって歩いていく。
そうして売り場に出てみると、
そこに広がっていた光景を見て、その店長の男は仰天した。
「な、なんだ!?あいつらは。」
その店長の男が仰天するのも無理はない。
そこに立っていたのは、鬼たちだった。
鬼のような形相をした男たち、ではなく。
文字通りの鬼だった。
赤鬼だったり青鬼だったり、
頭に角を生やし、大柄な体は全身が筋肉の塊の様。
筋肉質なその腕には、棘だらけの大きな棍棒が握られていて、
その姿はまさしく、鬼そのものだった。
そんな鬼たちが大勢、
その家電量販店の売り場に入ってきて、
恐ろしい形相で、店の中をギョロギョロと睨みつけていた。
そんな様子を見て、その店長の男は腰を抜かしそうになっていた。
その店長の男は、
SNS上では、相手を半ば脅迫して黙らせることができた。
しかし、その時とは違って、
店の中に入ってきた鬼たちには、
言葉による脅迫などは通用しそうも無かった。
その店長の男が、膝をガクガクと震わせながら言葉を漏らす。
「なんなんだ、あいつらは。
あれじゃまるで、本物の鬼みたいじゃないか。
鬼がどうして、うちの店にやってきたんだ。」
そうしている間にも、
その家電量販店の売り場では、
大勢の鬼たちが店の中を引っ掻き回し始めていた。
在庫の棚をひっくり返したり、冷蔵庫の扉を壊して中を覗いたり。
その様子は、何かを探しているようだった。
そんな鬼たちの様子を見て、
その店長の男は、本能的に危険を察知した。
姿勢を低くすると、
誰にも見つからないように、そっと事務所に戻ろうとする。
しかし、それは時既に遅かった。
鬼たちの一人が、
逃げようとするその店長の男に気がついて、
大声で呼び止めてきた。
「おい、お前!
お前が店長だな!ちょっと待て!」
その店長の男は、その呼びかけには応じず、
振り返らずに事務所に向かって駆け出した。
その様子に他の鬼たちも気がついて、大声で怒鳴りつける。
「あれだ!
あいつが店長だ!
逃がすな、追いかけろ!」
鬼たちの怒号が恐ろしくて、
その店長の男は、ちょっとだけ後ろを振り返ってしまった。
後ろを振り返って見えた光景。
それは、
大勢の鬼たちが、目と歯を剥いた恐ろしい形相で、
ドカドカと床を踏み鳴らしながら、
襲いかかってこようとするところだった。
「ひっ・・・!」
その店長の男は腰が抜けてしまって、その場にへたり込んでしまった。
すぐに鬼たちに取り囲まれる。
鬼たちが恐ろしい形相の顔を近付けて、その店長の男を次々と怒鳴りつけた。
「お前がこの店の店長だな!
新型ゲーム機の抽選予約を受け付けるのに、
よくも抱き合わせ販売をしてくれたな!」
「俺は、新型ゲーム機の本体だけが欲しかったんだ。
それなのに、あれやこれやと不要なものを売りつけやがって!」
「何が延長保証だ!
どうせ条件が厳しくて、保証なんて適用されないんだろう!
買い替えたほうが早いじゃないか!」
「当たりもしないのに、無駄に買い物させやがって!」
鬼たちは、
手にしていた大きな棍棒を振り上げて、
その店長の男がへたり込んでいる周囲の床に、何度も何度も振り下ろしていく。
鬼たちが一通りの文句を言い終わる頃には、
その店長の男の周りは、穴だらけになっていた。
鬼たちが、顔をくっつけんばかりに近付けて凄む。
「お前!黙ってないで何か言ったらどうだ!」
怒鳴りつけられて、
その店長の男が必死に口を開く。
「わ、私は悪くない!
ちょっとは難しい条件にしたが、
それでも申し込みしてきたのは、そっちじゃないか!
条件を受け入れたのだから、私は悪くない!
嫌なら、他の店で買えばいいんだ!」
その店長の男は、
口に泡を吹きながらまくし立てた。
そう言い返された鬼たちは、棍棒で床を叩く手を止めた。
鬼たちは反論せず、
その顔からは、怒りの形相がスーっと消えていく。
そして、
無表情になった鬼たちが、
先程までとは違って、静かに話し始めた。
「そう・・だな。
確かに俺達は、条件を受け入れて抽選予約の申し込みをした。
だったら、文句を言う筋合いは無いのかも知れない。」
鬼たちは無表情にそう言った。
どうやら話が通じたらしい。
その店長の男は、ホッと胸を撫で下ろした。
命までは取られずに済みそうだ。
・・・そう思ったのだが。
目の前に立っていた鬼が、無表情のままで言葉を続けた。
「わかった。
申し込みについては、俺たちも反省しよう。
だが、お前には、
代金を支払ってもらう。」
その店長の男は、
何を言われているのかわからず、
愛想笑いを浮かべて聞き返す。
「代金・・・ですか?
うちの店は、買い取りはやってないんですが・・・」
目の前に立っていた鬼が、歯を剥いてニヤリを笑った。
「お前が払うのは、お前が買った恨みの代金だ!」
その鬼は、くわっと目を見開くと、
持っていた大きな棍棒で、
その店長の男の顔を薙ぎ払った。
それから数週間が経って、いよいよ新型ゲーム機の発売日。
その店長の男が勤めていた家電量販店は、
悪評が立って、急速に売り上げを落とした結果、
同業他社に買収されて、
看板と店長が新しいものになっていた。
そうして、
新しくなったその家電量販店の事務所で、
新しい店長が、傍らに立っている鬼と親しげに話をしていた。
「急遽、
この店を新しくすることになりましたが、
新型ゲーム機の発売日に間に合って、本当に良かったですよ。
なんとか、新型ゲーム機の在庫は確保できたので、
予約していたお客さんたちに、商品を渡すことが出来ます。」
その新しい店長は、
店を新しくするのにあたって、
新型ゲーム機の抽選予約の条件を撤廃した。
抱き合わせ販売も、全て取り消しにした。
既に買われた無関係な商品は、返品を受け付けた。
抽選予約に落選した人たちにも、
入荷次第販売するという条件で、新たに予約を受け付けた。
そうすることで、
抽選予約に当選した人にも落選した人にも、納得してもらうことが出来た。
その家電量販店は、返品の費用などで損をしてしまったが、
それがきっかけで人々の信用を得て、常連さんも増えたのだった。
そんな報告を聞いて、
新しい店長の隣にいた鬼が、満足そうに頷いた。
「それでいい。
販売店は、生産者でも消費者でも無いからな。
入荷したものを順番に売る、それだけでいい。」
新しい店長も、頷きながら返事をする。
「私もそう思います。
それにしても、前の店長は愚かですね。
抽選予約に条件をつけるなんて、消費者の恨みを買うだけなのに。
販売店の売り物の中で、一番価値が高いものは、
他でもない、
その販売店自身だということに、気がついてなかったのでしょうね。
目先の利益に目がくらんで、
一番価値が高い売り物の価値を下げてしまうなんて。」
「全くだ。
まあ、そのおかげで俺たちは、
この店を安く買うことが出来たんだけどな。
俺たちにとっては、良いカモだったよ。」
鬼は歯茎を剥き出しにして下品に笑った。
それから、
看板と店長が変わったその家電量販店は、
売り上げを着実に増やしていって、
いつしか、
新型ゲーム機の抽選予約の時の売り上げ記録を、
更新するまでに成長したのだった。
終わり。
新型ゲーム機の抽選予約にまた外れたので、この話を書きました。
人気商品の販売に条件をつけたり、
抱き合わせ販売をする小売店は、今でもなお存在します。
新型ゲーム機が品薄である主な理由は、
需要が供給を上回っているという、単純な品不足だと思います。
しかし、
小売店が、その立場を利用して、
消費者に不利な条件で商品を買わせたとすれば、
それは別の問題であろうと思います。
お読み頂きありがとうございました。