終章 2
「本日はピクチャー協会をご利用いただき、誠にありがとうございました。またのご依頼をお待ちしております」
ピンクのカーディガンにベージュのシャツ、白いロングドレスを身に纏った少女は、青年に背を向けた。
「ユリ・フローレスさん!」
青年が私の名前を呼ぶ。
「母さんにもう一度会わせてくれて、本当にありがとう」
彼女は一瞬、表情を固めたがすぐに微笑を浮かべ、軽く会釈で返す。街に繋がる小道から、エメラルドグリーンに輝く海が見える。私は立ち止まって、ふと湧き上がった想いを口にする。
「デイジー。彼は立ち直ってくれるかな……」
ユリは晴れ渡る青空を見上げる。透き通る空に、白い絵の具で線を引いたような筋雲が流れていた。
「ねぇ、デイジー。私、ちゃんと出来てるかな」
何処からともなく、眩い光を放つ天使の羽根が、ひらひらとユリの周囲に舞い落ちる。
彼女は目の前に落ちてきた、その羽根を掴み両手を胸に当てた。
『デイジー。私、生きるよ。あなたが私に託してくれたこの命で。生きて、生きて、生きて、その先にどんな悲しみや苦しみや苦難があったとしても生き抜いて……そして……もし来世があるのだとしたら、また貴方と巡り会いたいよ……』
祈るように握られた、彼女の両手に涙がこぼれて落ちた。
世界は美しい。春に咲き誇る花も。夏に波しぶきをあげる海も。秋に葉を赤く染める木々も。冬の空に輝く星や月も。
そう、幸せはいつだって自分のすぐそばにある。気づかないだけだ。死と時間の経過は、生きとし生けるもの全てに平等に訪れる。
だからこそ、限られた命を無駄にしないよう一日一日を精一杯生きたいと願う。そう、願いたいんだ。
噴水の前にあるベンチに、黒髪の少女が座っていた。彼女は何気無く視線を道ゆく人達に向ける。皆、それぞれに希望を、怒りを、喜びを、苦悩を内に秘めながら各々の人生を生きている。
外観からは分からない。人の心は視えないから。でも感じることは出来る気がする。
物思いにふける彼女に、茶色の髪をした少年が声をかけた。少女は嬉しそうに彼の傍に駆け寄ると、手を繋いで歩き出す。そして、楽しそうに何かを話しながら雑踏の中に消えていった。
彼女の座っていたベンチの傍に、花壇が置かれている。
花壇に植えられた雛菊の花が、春の風に吹かれ、ゆっくりと揺れていた。




