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「凄い!初めて人を具現化出来ました!」
少女は嬉しそうに、茫然自失なデイジーの手を握りしめた。
「——具現化?」
「あ、申し遅れました。私の名前はユリ・フローレスといいます。近く中級試験があるので、それに向けて描画具現の自習をしていました。自分が思い描く、理想の人ってイメージで描画したんですが……。イメージ通り素敵な人が具現化出来て、とても嬉しいです」
少女は琥珀色の瞳を細めながら、屈託の無い微笑を浮かべる。ユリと名乗った少女の言葉がデイジーの胸を不思議と疼かせた。
「名前、そうだ!名前を決めましょう」
「……名前」
デイジーはおうむ返しする。
——そうだ。俺は自分の名前も分からない。
彼女は部屋を見渡すと、机の上に置かれた花瓶に目を留めた。
「私……デイジーっていう花が大好きなんです。特に白いデイジーが。だからあなたの名前はデイジー・ホワイト。そうしましょう!」
「デイジー……」
ユリがつけた名前を反復する。理由は分からないが、何故か無性に嬉しくなった。自分に名前がついたことが。彼女が名付け親になってくれたことが。
それから数分間、ユリは描画具現能力について、色々と教えてくれた。彼女の話に、俺は黙ったまま耳を傾ける。話を聞いている内に俺は、自分が本当に具現化された存在なのだと思う様になった。
だが、そうだとすると浜辺に打ち上げられていた事、大工仕事に就いていた空白の説明が、つかないとも感じた。それでも俺は、このユリという少女に、創られた存在なのだと思いたくなった。
理由が二つある。一つ目は自分の記憶喪失と彼女に、何か関係性があるような気がした事。二つ目は、この少女と接点を持ち続けたいという、欲求が沸き起こった事。
デイジーが口を開く。
「俺はユリに具現化されたんだな?分かった。名前はデイジー・ホワイトでいい」
ユリは嬉し顔で「はい」と答えた。と、部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「少し待っていて下さい」
言い残すと、ユリはドアの方へ歩き出した。
デイジーは、とっさに、えも言われぬ後ろめたさを感じ、部屋の窓から地面に降り立つと、ピクチャー協会を囲む塀を乗り越え走り去っていった。
そして——寒冬を越え、桜花が咲き誇る四月の春。デイジーは初仕事に向かうユリを追いかけ、偶然を装って、噴水の前で再会を果たす。
『さぁ、ユリ。俺の永きに渡った答え合わせが、終焉を告げるよ』




