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デイジーが当惑した声を絞り出した時、前方を走っていた男達に漆黒の悪魔が凄まじい速さで襲いかかった。
二人のうち、年配の男が頭から血を流している。どうやら、もう一人の男を助けようと庇った拍子に、怪我を負ったようだ。二人の男は肩を乗せ合いながら、もと来た道に引き返し始めた。これ以上、岬に近づくのは危険すぎると判断したのだろう。状況を鑑みても賢明だと思う。
恐らく、年配の男が一人だったなら引きはしなかったはず。だが、もう一人の男を庇いながら進むのは、明らかに分が悪すぎる。
——だが、俺は……。死んでも引き返すわけには行かない。もし岬に居るのがユリならば尚更だ。
デイジーは地面に降り立ち走り出したが、途中で漆黒の悪魔に妨害された。超音速のスピードで襲いかかる鉤爪や牙を、刹那の差でデイジーは避ける。
禁術によって高められた動体視力と反射神経のお陰だが、それでも避けきれず体のあちこちに裂傷が残る。
傷から、血が滲み出た。
「くそっ!」
彼は神経を集中させる。悪魔がこちらに突っ込んできたのを見計らって、カウンターの蹴りをお見舞いした。蹴りの威力にもんどり打ち、倒れ込んだ悪魔は陽炎のように居なくなった。
「もう襲ってくるなよ……」
次、襲ってこられたら対処出来る自信がない。
岬から放たれていた眩いばかりの光が、いつの間にか消えている。
「——ユリ!」
肩の傷を抑え、岬に向かって歩き出した時、空から轟音が降り注ぐ。音の正体は、硝煙を吐きながら落下してくる戦闘機だった。
——まずい。あの位置だと岬にぶつかる。
デイジーが地面を蹴り到達するより早く、戦闘機が岬にある平屋に激突した。
炎上する戦闘機と、倒壊した平屋の傍にユリが倒れていた。デイジーは彼女の元に駆け寄ると、体を抱き起す。
「ユリ、ユリッ!」
声を掛けても、彼女はピクリとも反応しない。ユリの胸に、耳を乗せたデイジーは愕然とした。心臓が止まっている。さっきの爆風のショックか。
いや、彼女の衣服から血が染み出している。機体の破片がめり込んだのかもしれない。
「そんな……嘘、だろ……」
軍隊で習った救命処置をユリに施す。首を持ち上げ気道を確保して息を吹きこみ、手の平で心臓マッサージを行う。
「ダメだ……呼吸が戻らない……」
絶望感が彼の思考を支配する。
——嫌だ、嫌だ、嫌だ。彼女が、ユリが死ぬなんて絶対に死んでも嫌だ!!
「どうすればいい?どうすれば……」
その時、ある禁術のことを俺は思い出した。
『生流転換』だ。
それは叔父の家で、こっそり読んでいた禁術書に書かれていた術で、教わったことも無ければ、使用した事など一度もない。理由は分かる気がする。この術を使用する対価は、自身の生命の半分を必要とするからだ。
仮に俺が百歳まで生きれたとして、五十年分を術の代償として失う。




