13
凄まじい轟音に、守衛のジャックは本館三階にある仮眠室から飛び起きた。
時計の針を見ると、勤務時間はとうに過ぎている。
何の音だという疑問とともに、寝過ごしてしまった事実に、彼は慌てふためく。
交代要員のリアンが、三十分前に「交代だぞ」とジャックに告げ、自室に戻っていった記憶が蘇る。
「マズイッ!やっちまった……」
急いで守衛服に着替え仮眠室を出ると、ピクチャー支部の職員達が何か叫びながら、階段を降りていくのが見える。
その中にはハワード支部長の姿もあった。
「何の爆発だ!」
ハワードが窓から正門の方を見ると、雪が降り積もった敷地から、炎と煙が立ち込めている。
「ハワード!」
廊下の向こうから、クラーク教官がハワードに声を掛けた。
「どうやら、わしの予感が的中したようじゃ。こんな事もあろうかと、トオルに頼んで支部の敷地周辺に、地雷を埋設しておいたんじゃ。奴ら、まんまとハマりおったわ」
彼の後ろに黒川トオルの姿が見える。
クラークは彼の頭を豪快に撫でた。
「ちょっとっ!今の話、本当ですか?」
発狂するような叫び声が聞こえる。
声の主はアンナで間違い無い。
そこには、ネグリジェ姿のアンナとカスミ、ついでにローランドの姿があった。
アンナは、ずかずかとクラークとトオルの前までやって来ると、凄い剣幕でまくし立てる。
「地雷って!他の奴はともかく、もし私が踏んで爆発したらどうすんの?」
——うわぁ、この人。何気に今、凄いこと言ったよ。その場にいた一同の心情がシンクロした。
クラークの後ろに居たトオルが、慌てて弁解する。
「だっ……大丈夫。僕が教官に言われて設置していた地雷は『ピクチャー協会支部に悪意を持って不法侵入してきた者』にしか反応しないように創った非殺傷用の地雷だから——」
それを聞いたアンナは幾分、安心したのか激怒という名の剣を鞘に収める。
「やるやん、トオル」
「でかした!」
ロンとカスミが彼を賞賛した。
ハワードは驚いた表情でトオルを見つめた。
——まさか、これ程までの子とは。
自分の意思を複雑に創り出したモノに付加することは、描画具現能力における高等応用技にあたり、レベルで言えば上級か、下手をすれば準特急に該当する。
トオルは隠キャ——じゃなかった、引っ込み思案な性格で一見、あまり良い印象を持たれないかも知れない。
だがこの子は、それを補って余りある潜在能力を持っていた。
クラーク教官は、いつからその事に気づいていたのだろうか。
「ハワード、考え事は後じゃ!今は、この支部に奇襲をかけようとした連中を追っ払うのが先じゃろ?」
クラークは、ハワードの胸中を見透かしたように言った。
ハワードは頷き返す。確かに彼の言う通りだ。
部屋の中から、テレビのニュース速報が聴こえてくる。
《先ほど島内で……複数の爆発が起き、軍と警察が対応にあたっていますが……テロ攻撃なのか、事故なのかは現在、判明しておりません——》
ジュリアやユリ達の安否が気になるが、今はクラークの助言通り眼前の事態に対処しなければ。
「クラーク教官、何か作戦がおありですか?」
ハワードが尋ねると、クラークは自信たっぷりに答えた。
「わしが今から本館、別館全体を包む障壁を張る。協会員ならびに生徒達は、わしの張る障壁の外にありったけの重火器を創ってくれ。ただし射程は敷地内で留める事。奴らを撃退することに専念するんじゃ」
クラークは指示を出した後、ハワードの方へ目線を向けた。
「——で、よかったかの?ジョン・ハワード支部長」
ハワードは黙って頷く。同時に、彼がこの支部に居てくれたことを、心から感謝していた。
「みんな、ビル・クラーク教官の説明は聞いたね。全責任は私が持つ。みんなでこの家を守るぞ!」
彼の言葉に、周りにいた子供達が一斉に「おぉー!!」と叫んだ。




