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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
67/84

13

 凄まじい轟音に、守衛のジャックは本館三階にある仮眠室から飛び起きた。

 時計の針を見ると、勤務時間はとうに過ぎている。

 何の音だという疑問とともに、寝過ごしてしまった事実に、彼は慌てふためく。

 交代要員のリアンが、三十分前に「交代だぞ」とジャックに告げ、自室に戻っていった記憶が蘇る。

「マズイッ!やっちまった……」

 急いで守衛服に着替え仮眠室を出ると、ピクチャー支部の職員達が何か叫びながら、階段を降りていくのが見える。

 その中にはハワード支部長の姿もあった。

「何の爆発だ!」

 ハワードが窓から正門の方を見ると、雪が降り積もった敷地から、炎と煙が立ち込めている。

「ハワード!」

 廊下の向こうから、クラーク教官がハワードに声を掛けた。

「どうやら、わしの予感が的中したようじゃ。こんな事もあろうかと、トオルに頼んで支部の敷地周辺に、地雷を埋設しておいたんじゃ。奴ら、まんまとハマりおったわ」

 彼の後ろに黒川トオルの姿が見える。

 クラークは彼の頭を豪快に撫でた。

「ちょっとっ!今の話、本当ですか?」

 発狂するような叫び声が聞こえる。

 声の主はアンナで間違い無い。

 そこには、ネグリジェ姿のアンナとカスミ、ついでにローランドの姿があった。

 アンナは、ずかずかとクラークとトオルの前までやって来ると、凄い剣幕でまくし立てる。

「地雷って!他の奴はともかく、もし私が踏んで爆発したらどうすんの?」

 ——うわぁ、この人。何気に今、凄いこと言ったよ。その場にいた一同の心情がシンクロした。

 クラークの後ろに居たトオルが、慌てて弁解する。

「だっ……大丈夫。僕が教官に言われて設置していた地雷は『ピクチャー協会支部に悪意を持って不法侵入してきた者』にしか反応しないように創った非殺傷用の地雷だから——」

それを聞いたアンナは幾分、安心したのか激怒という名の剣を鞘に収める。

「やるやん、トオル」

「でかした!」

 ロンとカスミが彼を賞賛した。

 ハワードは驚いた表情でトオルを見つめた。

 ——まさか、これ程までの子とは。

 自分の意思を複雑に創り出したモノに付加することは、描画具現能力における高等応用技にあたり、レベルで言えば上級か、下手をすれば準特急に該当する。

 トオルは隠キャ——じゃなかった、引っ込み思案な性格で一見、あまり良い印象を持たれないかも知れない。

 だがこの子は、それを補って余りある潜在能力を持っていた。

 クラーク教官は、いつからその事に気づいていたのだろうか。

「ハワード、考え事は後じゃ!今は、この支部に奇襲をかけようとした連中を追っ払うのが先じゃろ?」

 クラークは、ハワードの胸中を見透かしたように言った。

 ハワードは頷き返す。確かに彼の言う通りだ。

 部屋の中から、テレビのニュース速報が聴こえてくる。


《先ほど島内で……複数の爆発が起き、軍と警察が対応にあたっていますが……テロ攻撃なのか、事故なのかは現在、判明しておりません——》


 ジュリアやユリ達の安否が気になるが、今はクラークの助言通り眼前の事態に対処しなければ。

「クラーク教官、何か作戦がおありですか?」

 ハワードが尋ねると、クラークは自信たっぷりに答えた。

「わしが今から本館、別館全体を包む障壁を張る。協会員ならびに生徒達は、わしの張る障壁の外にありったけの重火器を創ってくれ。ただし射程は敷地内で留める事。奴らを撃退することに専念するんじゃ」

 クラークは指示を出した後、ハワードの方へ目線を向けた。

「——で、よかったかの?ジョン・ハワード支部長」

 ハワードは黙って頷く。同時に、彼がこの支部に居てくれたことを、心から感謝していた。

「みんな、ビル・クラーク教官の説明は聞いたね。全責任は私が持つ。みんなでこの家を守るぞ!」

 彼の言葉に、周りにいた子供達が一斉に「おぉー!!」と叫んだ。



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