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ピクチャー支部の執務室で、ハワードはジュリアと携帯で話していた。
彼女の電話によると、チルア陸軍から依頼を受けた、新種の中性子爆弾の不発弾が埋まっているとされる現場は、只の空き地だったと言う。
「ね、妙じゃありませんか?確認のため支部長からチルア陸軍に連絡して欲しいんです」
ジュリアは空の上にいた。足元には白色の羽毛に黄色いくちばし、とんがりした黒羽を優雅に羽ばたかせたオワシが、バニトラ市街の上空を、旋回するように滑空している。
その時、地上で爆発が起きた。
ジュリアが爆音の聴こえた方角を見ると、通信施設らしき建物から黒煙が立ち上っている。
同時に、支部長との通話が途切れた。
「……あれ?」
ジュリアは、スマートフォンでニュース速報アプリを開いた。
ダメだ。ネット回線も繋がらない。
それなら、とラジオアプリを開く。雑音に混じって音声が聞こえた。
内容を聞くと未確認ではあるが、チルア島内にある軍、警察、民間の通信施設が同時に爆破されたらしい。
ジュリアは思考を巡らせる。
もしかして私はミスリードされたのかも知れない。
島の各地で爆発が起きているなら、ピクチャー協会支部も心配だ。
だが、ジュリアは冷静だった。
支部には、あのクラーク教官がいる。きっと大丈夫だ。
——それよりも、自分を誘導した人間達の狙いはユリなんじゃないか?私の勘が正しいとすれば、取るべき行動は一つ。
ユリの動向は常に把握していた。今日は島の南方にある、アグリジェの港に出向いているはずだ。
デイジーと一緒に。
彼女は空中で素早く円を描いた。淡く光るその円は、ジュリアの頭から靴の先まで一瞬で包み込み、透明の膜を形成する。
すると、今まで風に揺れていた彼女の金糸の髪がサラサラと肩に
落ちた。
ジュリアの創り出した障壁が、風圧や空気抵抗を一切遮断している。
しかし、自身が呼吸する為の酸素だけは『通行を許可』していた。
「オワシちゃん、全力で飛ばして良いよ」
彼女がオワシの羽を撫でると、彼は一声鳴いた後、その巨大な翼を羽ばたかせる。
「デイジー。私が行くまで、お姫様のこと守ってあげてね」
ジュリアは祈るように呟いた。




