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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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12

 ピクチャー支部の執務室で、ハワードはジュリアと携帯で話していた。

 彼女の電話によると、チルア陸軍から依頼を受けた、新種の中性子爆弾の不発弾が埋まっているとされる現場は、只の空き地だったと言う。

「ね、妙じゃありませんか?確認のため支部長からチルア陸軍に連絡して欲しいんです」

 ジュリアは空の上にいた。足元には白色の羽毛に黄色いくちばし、とんがりした黒羽を優雅に羽ばたかせたオワシが、バニトラ市街の上空を、旋回するように滑空している。

 その時、地上で爆発が起きた。

 ジュリアが爆音の聴こえた方角を見ると、通信施設らしき建物から黒煙が立ち上っている。

 同時に、支部長との通話が途切れた。

「……あれ?」

 ジュリアは、スマートフォンでニュース速報アプリを開いた。

 ダメだ。ネット回線も繋がらない。

 それなら、とラジオアプリを開く。雑音に混じって音声が聞こえた。

 内容を聞くと未確認ではあるが、チルア島内にある軍、警察、民間の通信施設が同時に爆破されたらしい。

 ジュリアは思考を巡らせる。

 もしかして私はミスリードされたのかも知れない。

 島の各地で爆発が起きているなら、ピクチャー協会支部も心配だ。

 だが、ジュリアは冷静だった。

 支部には、あのクラーク教官がいる。きっと大丈夫だ。

 ——それよりも、自分を誘導した人間達の狙いはユリなんじゃないか?私の勘が正しいとすれば、取るべき行動は一つ。

 ユリの動向は常に把握していた。今日は島の南方にある、アグリジェの港に出向いているはずだ。

 デイジーと一緒に。

 彼女は空中で素早く円を描いた。淡く光るその円は、ジュリアの頭から靴の先まで一瞬で包み込み、透明の膜を形成する。

 すると、今まで風に揺れていた彼女の金糸の髪がサラサラと肩に

落ちた。

 ジュリアの創り出した障壁が、風圧や空気抵抗を一切遮断している。

 しかし、自身が呼吸する為の酸素だけは『通行を許可』していた。

「オワシちゃん、全力で飛ばして良いよ」

彼女がオワシの羽を撫でると、彼は一声鳴いた後、その巨大な翼を羽ばたかせる。

「デイジー。私が行くまで、お姫様のこと守ってあげてね」

 ジュリアは祈るように呟いた。



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