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二人の場所から離れた倉庫の影に、黒塗りのワンボックスカーが止まっていた。
ザキコフの部下が、二人に投げたのはスタングレネードだ。
起爆すると十五メートルの範囲で、激しい閃光と爆発音を生じさせ、一時的に動きを封じることが出来る。
「よし、対象の確保には入れ」
ザキコフが無線で、部下達に指示を出す。
「中佐、お待ちください!あれを……」
双眼鏡を手にした兵士が、愕然とした声で、ザキコフに向かって叫んだ。
ザキコフは、双眼鏡を部下からひったくると、スタングレネードが投擲された場所に目をやった。
デイジーとユリが居るはずの空間に、黒く光る物体が見える。
「あれは……まさか障壁か?」
ザキコフが呟くと同時に、双眼鏡の先に見えていた黒い物体が、ガラスのように細かく割れ、中からユリとデイジーの姿が現れた。
「あのガキ。描画具現者だったのかっ!」
忌々しげにザキコフが歯軋りする。
——想定外の事態。だが、こちらにも手駒はある。
彼は無線に呼びかける。
「ボルスキー。お前の出番だ」
——同時刻、ピクチャー協会支部の正門からやや離れた場所に、二台の黒いワンボックスカーが止まっていた。
辺りはすっかり日が暮れ落ち、電灯が道路を照らしている。
車内には黒のヘルメット。ゴーグル。フェイスマスクを着け、防弾チョッキにアサルトライフルを持った、完全武装の兵士たちが詰め込まれていた。
車窓から、スナイパーライフルで守衛室を監視していた兵士が、部隊長に報告する。
「隊長、妙です。守衛室に見張りの警官がいません」
「そんなはずは無い。事前の調査でも、守衛室には交代で常に誰か居ると報告を受けている」
部隊長は少し焦った。作戦のゴーサインが出ていたからだ。
やむを得ない。
「予定変更だ。これより総員、直ちに支部に突入する。ピクチャーズの連中には、出来るだけ気付かれ無いよう、最新の注意を払え。塀を乗り越えたら、お前達二人は最優先で守衛を始末しろ」
部隊長が、車内にいる兵士達に指示を伝える。
「行くぞ、ゴー!ゴー!ゴー!」
バックドアが開かれ、兵士達が無駄のない動きで、車外へ吐き出されていく。
十数名の兵士達は、正門付近の壁に体を張り付けると、ワイヤーを塀の上部へ投げ込んだ。
杭が塀の内側に引っ掛かると、兵士達は一斉にワイヤーをつたって、塀を登り始める。
彼等は、支部を囲む塀を乗り越え、敷地内の芝生に降り立った。
二人の兵士が、正門の内側にある守衛室に入っていく。
部隊長の無線に、守衛室に侵入した兵士が報告した。
「隊長、やはり見張りがいません」
「そうか、まぁ良い。このまま本館に侵入——」
部隊長が言いかけた時、すぐ傍の地面が爆発した。




