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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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 一番の脅威であるジュリア・ベネットが事に気づき、今からこちらに引き返しても、最低三、四時間は掛かるだろう。

 奴に介入されたら、この作戦自体が遂行不可能になる。が、その杞憂が消えた。

「中佐、一つだけ予定外のことが……」

 部下の兵士が、手に持った資料を見ながらザキコフに喋りかけた。

「なんだ?」

「対象に随伴ずいはんしている少年がおります。少年の姓名はデイジー・ホワイト。今年の四月頃から、ピクチャー協会支部に入所したようですが、経歴や素性は一切不明となっております」

 ザキコフは少し顔をしかめたが、すぐに表情を元に戻す。

「以前聞いた報告では、そのガキは描画具現者ではなく、通常の人間なのだろう?」

「はい、過去の報告では常人離れした運動能力を有しているとの情報がありましたが、描画具現者とは確認されていません」

 ザキコフは葉巻を美味そうに吸うと、煙を一気に吐き出した。

 予定に、予想外の出来事が発生することは、ままある。訓練と実戦の違いはそこだ。

 だが描画具現者でも無い、ただのガキなら何の脅威にもならない。

「何ならお前が遊んでやるか?なぁ、ボルスキー」

 明滅する蛍光灯の暗闇から、音もなく男が現れた。ボルスキーと呼ばれた男は返事をしない。

「相変わらず寡黙かもくな奴だ」

 ボルスキーは本国から派遣された、準特級のピクチャーズだ。

 万が一、ジュリアに介入された場合の足止めに使おうと思っていたが、最早その心配もない。

 ボルツキーには、拘置所にいるダグラスを毒殺させた。

 彼の具現化する『白蛇の毒牙(スネークアイズ)』は、噛んだ後すら残さず、タンパク質に偽装した毒性のナノマシンを注入できる。

 噛まれた相手は、数十秒で急性心不全を引き起こし死に至る。

 対象が死んだ後、ナノマシンは血管を流れる通常の赤血球に変化するため、検査しようが、いかなる毒も検出されない。暗殺に適した能力をボルスキーは具現化することが出来た。

 通信機器が置かれた机で、作業していた兵士が、ザキコフに向かって叫んだ。

「中佐。対象が間も無く、こちらまでやってきます!」

「総員、注目。手はずは分かっているな。二時間で終わらせる。この倉庫も爆破し一切の痕跡を残すな。対象を確保次第、他の部隊に連絡を取り直ちに総員撤収する。以上だ。直ちに配置につけ!」

 ザキコフが怒号のような声で、室内の兵士達にそう告げると、皆一斉に機材や武器を、倉庫内に駐車してある黒塗りのワンボックスカーに詰め込み出した。



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