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天井にいくつか取り付けられた、蛍光灯の一つが明滅している。
蛍光灯が照らす、広さ五十平方メートルの空間には窓一つない。
空間は、灰色のコンクリートで囲まれていた。
隅の方で、ネズミが走り去っていく。
壁と同じ色と素材で出来た地面には、折り畳み式の銀色に光るテーブルや椅子がいくつか置かれていた。
その脇に衛星アンテナ、爆薬やアサルトライフルなどが収納された木箱が置かれている。
テーブルの上にはレーダー探知機やらパソコン、通信機器などの機材が載せられ、白の迷彩服を着た男達がモニターを見ながら、何かを口走っていた。
総勢三十名の戦闘服を身に纏った兵士達が、無駄のない動きで各々の役割をこなしている。
部屋の片隅にある、白色のボードには顔写真が貼り付けられ、黒や赤のマジックペンで、矢印と文字などが書き込まれていた。
写真に映っている人物はユリだった。
その他にもジュリアやクラーク、ピクチャー協会支部の建物などが撮られていた。
ボードの近くに、口髭を生やした鋭い眼光の男が、腕組みしながら椅子に座っている。男の元に迷彩服の兵士が近づき敬礼した。
「ザキコフ中佐。予定通り対象のユリ・フローレスがこちらに向かっています。報告によると、対象は十七時前後には到着するとの事であります」
ザキコフと呼ばれた男は、眉間にしわを寄せながら頷く。
「ようやく、今日でこの穴蔵生活ともおさらば出来るわけだ」
ザキコフは尊大な仕草で、机に置いてある葉巻を手に取り火をつけた。
「で、例の死神は?」
「手はず通り、島の西部にある、パニトラの街におびき寄せることに成功しております」
彼らは、ピクチャー協会支部の通信を全て傍受していた。
チルア陸軍の依頼を装って、ジュリア・ベネットをユリ・フローレスから引き離すことが狙いだ。
当然、確保対象であるユリにも、一般人に偽装してピクチャー協会へ依頼を出している。同日、同時刻に。
「ピクチャー協会支部に送った部隊は?」
ザキコフは煙を燻らせながら、部下に確認する。
「アルファチームは、既に協会支部付近で待機しており、こちらのゴーサイン待ちです」
支部に派遣したチームはいわば足止めであり、対象のユリを確保した後、こちらのオメガチームと合流する段取りになっていた。
ザキコフは、太々しい笑みを浮かべる。
——全て予定通りだ。抜かりはない。アグリジェ港湾局、沿岸警備隊の担当者に賄賂を渡し拒否した人間は、家族を人質に取ると脅して従わせた。
万全を期すため、島の主要な通信施設も、作戦開始と共に爆破させる算段である。




