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——しかし、ユリを狙っている連中は、必ず次なる行動に打って出るはずだ。ハワードの第六感が囁く。
だが解っていても、後手に回るしかない歯痒さが、彼を苦しめてい
た。
ユリに四六時中、警察の警護をつけてもらえるか?否、何の根拠も無いと突っぱねられるのが落ちだ。
もしくは彼女に自分の推理を打ち明け、出歩かない様に仕向けるか。
いつ動くかも分からない相手に対して、そこまで過敏な不安をユリに押し付けるのか。
「出来ない……」
ハワードは無意識のうちに呻いていた。ワインをもう一本開けるか悩み、彼は自室を一周してやめる。
ユリに対して特別、愛着があるかと問われたら「違う」とはっきり断言できる。
別に彼女の為になどと毛筋も思っていない。自分への納得性を欲しているだけだ。
ハワードが今回の件に固執している理由は、自分の国で地下に潜り好き勝手に蠢いている連中が気に入らない。
その一点のみだった。
自分は所詮、木っ端役人であり、巨大な官公庁という組織の中での駒に過ぎない。
特にしたいこともなく、そこそこの大学に入り、四年間陸軍に在籍し、退役した後に受けた公務員試験に合格し、内定を貰った内務省の上司による命令でピクチャー協会支部長という役職に就いているだけだ。
粛々と、日々の責務をこなすだけの存在でしかない。
だが、自国を愛する気持ちというのは人並みくらいに持っているつもりだ。
その自国内で、何かが起きようとしている。そんな胸騒ぎがしてならない。
不意に、ユリの様子が気になったハワードは、支部長室にある電話に向かって歩き出した。




