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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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 ジュリアはユリを掴みながら、屋根の端にある出っ張りに、足を引っ掛けた。

「セ、セーフ……」

 ジュリアの安堵も虚しく、踏ん張っていた瓦の出っ張りが崩れ落ち、二人は空中に投げ出された。

「きゃああああぁぁぁ!!」

 ユリが大声を上げる。

 ——ここは三階。地面は芝生だけど、このまま落ちたら無傷では済まないだろう。

 ジュリアは瞬時に判断し、落下しながら人差し指で正方形を描く。

 彼女が描いた図形は微光を帯びながら、二人の落下地点に高速で移動し、救助用のエアクッションに姿を変えた。

 二人はクッションに軟着陸すると、そのまま仰向けに寝そべった。

「ユリ、ごめんね。ちょっと調子に乗りすぎた」

 ジュリアが舌をだして苦笑いした。

「いえ、以前にもデイジーと似たような事をしました。まるで遊園地に行ったようでした」

「彼、早く帰ってくるといいね」

 彼女の言葉に、ユリは元気良く「はい」と答える。

「あ、ユリ。見て!流れ星だよ」

 ジュリアが夜空を指さした。

 流星は、短くも光の線を曳きながら虚空を横切っていく。

 ユリは両手を胸に合わせた。

 ——デイジーの怪我が一刻も早く良くなります様に。

 彼女は流れる星に願いを込めた。



 青白い月の光に照らされた薄暗い病室で、デイジーは目を覚ます。

 目覚めていても夢と気づかないような、深く長い幻夢を見ていた気がする。

 額には大量の汗が滲んでいた。

「……そうか。そうだったのか」

 しばらくの間、彼はベッドから身動き一つとれずに、海馬の中を駆けずり回る思考と格闘していた。そう、まるでパンドラの箱を開けたかのように、デイジーの頭に全ての記憶が蘇った。

 ——ユリに打ち明けるべきだろうか?彼女はその時、どんな顔をするのだろうか。だが、どの道避けては通れないだろう。


『俺はもうすぐ、いなくなるのだから』



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