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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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「ジュリアさん……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……」

 ユリを力強く抱きしめていた、ジュリアの腕がゆっくりと離れる。

 ジュリアは目尻を手の平で拭うと、冷静さを取り戻したように、新月のような淡く物静かな笑みを浮かべた。

 そしてユリの柔らかいほっべたを軽くつねりながら、愛おしさに溢れた声で「許す」と彼女に言った。ジュリアの唇から発せられた言葉にユリは、はにかみながら口角を上げ、微笑み返す。

 ユリの視界に、悠然と浮かぶ満月が映り込んだ。

「……あの、ジュリアさん。私、月を見ていると自然にドビュッシーの曲が頭に流れてくるんです」

「うん、いい曲だよね」

「本当、名曲ですよね。月のテカリ」

 ジュリアは可笑しそうに、くすくすと笑う。

「月ってテカってるんだ」

「あれ……違いましたか?」

 彼女の顔を、ジュリアは嬉しそうに見ている。いつものユリらしくなってきた。

 ジュリアはユリの問いを流し、感慨深げに星空を見上げる。

 彼女に同調する様にユリも天空を仰ぎ、よく通る声で歌を口ずさみ出した。

「キラキラまたたくー、夜空の星はー、まばたきしたらー、みんなは寝てたー」

 ユリの歌を聴いていたジュリアは、堪らずお腹を抱えて笑いだした。

「それだとお星様かわいそうだよ。みんな寝てたら瞬き甲斐が無いし」

でもユリの歌声は、本当に素敵だとジュリアは感じていた。

まるで美しい鈴のように、聴いていて耳ざわりが良い。

「私、また勘違いして覚えちゃっていました」

 ジュリアは再度ユリに抱きつきながら、彼女の脇と背中を指でなぞった。

「こいつぅ。本当、可愛いんだからっ!」

「ジュリアさん、やめて。くすぐったいです!」

 子猫のように戯れ合った拍子に、彼女達のお尻が浮き上がり、足が滑った。

「やばい!」

 二人は三角屋根の天辺から、一気に屋根の端まで滑り落ちた。



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