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ユリがジュリアの方を見ると、いつの間にか彼女も傘を具現化している。
ジュリアが創り出した傘は、どんな原理が働いているのか分からないが、空中に浮遊しながら雨粒を弾いていた。
その間にも雨は止むどころか、ますます勢いを増していく。
「凄い雨……。傘、さしてても足元がずぶ濡れだよ」
アンナが泣きそうな声をあげた。
ジュリアがため息交じりに、右手で四角の図形を空中に描く。
図形は閃光を放ち、ジュリアの周囲にいたユリ達の周りに広がると、ビニール式のテントに形を変えた。
「さすがジュリア先輩!感謝の極みです!」
傘をたたみながらアンナが、傍に居たローランドを押しのける。
「これだけ大きいテントだったら、全然濡れへんわ!」
カスミも安堵したように傘を下ろす。
突然、電柱に設置されたスピーカーから花火大会の中止を告げるアナウンスが流れた。
観客達からブーイングや落胆の声が飛び交う。その様子を遠目で見ていたジュリアが、ゆっくり立ち上がった。
「ねぇ、みんな。いい事思いついたんだけど、ちょっと耳貸してくれるかな?」
ジュリアはユリ達を集めて、何やら作戦会議を開いている。
「えぇーっ!?そんな事、ジュリア先輩は出来るんですか?」
彼女の案を聴いていたアンナが奇声を発する。
「やった事ないから正直上手くいくか分かんないけど、何だか面白そうじゃない?」
彼女はニコニコと微笑んでいる。
「でも俺ら花火なんて具現化した事ないっすよ」
ロンが頭をかきながら言う。
「トオル。あなたなら花火の構造、分かるわよね?」
いきなりジュリアに指名されたトオルは、前髪に隠れそうな瞳で彼女を凝視したが、やがて首を縦に振った。
「……花火は火薬と金属の粉末を混ぜて包んだもので……。その火薬を球状に成形した『星』を詰めて紙製の玉を円筒発射機の底に——」
「それを、今からみんなにレクチャーして貰えるかな?私はこれから、この雨雲を《《どかす》》から」
ユリ達はジュリアの突拍子もない作戦に、しばし呆然としていた。
が、彼女がテントから出て行くのを見ると、一斉にトオルの元に集まって花火の説明を受け出した。
ジュリアは外に出ると、雨に打たれながら、右手の人差し指を空中で回転させ始めた。
指先が燐光を放ち、徐々に風を生み始める。
彼女は瞳を閉じ何かをイメージしながら、なおも人差し指を回していた。
そして目を開けると同時に指を前方に指し向ける。
ジュリアの指先から放たれた渦巻き状の光線は前方の海上で竜巻へと変化し、空を覆う黒い雨雲にそそり立った。
トルネードは凄まじい突風を生み出し、ユリ達を覆っていた天幕を吹き飛ばす。




