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翌日、島では毎年恒例の聖ロザル祭が始まった。島の各都市ではオペラの野外コンサートや演劇などの催しが開かれ、街中のいたるところにイルミネーションが飾られた。
街の大通りでは、この島の聖人を模したとされる山車が一週間かけ島中でパレードする予定となっている。
その日の朝、朝食を食べた後ユリとアンナはカスミの部屋で浴衣の絵を描いていた。デザインはカスミの部屋にあるパソコンから画像を検索してプリントしたものを参考にしている。
カスミの部屋にあるパソコンは彼女が描画で具象化したものだった。彼女はインターネットや情報処理にとても強く、部屋の本棚には演算やコンピューターについての本がぎっしりと並んである。
寮の決まりで自室にパソコンを置くのは原則禁止となっていたが、カスミはこっそりとジュリアや教官にバレないように自室でパソコンを創っていた。
その事を知っているユリとアンナは、カスミから「黙っといてな」と硬く口止めされていた。
「ねぇ、ユリ。この柄なんて可愛くない?」
アンナは複数の浴衣の写真を床に並べている。その中の一枚に水色の生地に白色の雲と朱色の金魚のデザインをした浴衣があった。
「綺麗な模様ですね。きっとアンナに似合うと思います」
「でしょ?決めた。私はこの浴衣にする!」
ユリの後押しが決め手となり、アンナはさっそく、画用紙に選んだ浴衣を描き始める。
「はや!もう決めたんだ。うちはこれにしよ」
カスミが選んだのは黒、白、黄緑がかった色のストライプに葉っぱの模様をあしらったデザインの浴衣だ。
「ユリはもう決めた?」
「はい、私はこれにします」
ユリが選んだのは、白地に薄いピンクと紫色の花があしらわれた浴衣だった。
「良いやん!ユリのイメージにぴったり。あ、そうや二人とも、せっかくやし下駄も作ろうな」
カスミは黒縁メガネのフレームをくいっと上げると、二人に下駄と呼ばれる日本の伝統的な履物の写真を見せた。
「下駄は足を乗せる木板に接地用の突起物が付いてて、竹の皮なんかを布で覆った鼻緒に足の親指と人差し指を挟むんや。私が参考に創るから、浴衣作った後で二人も描いてな」
彼女達は、それぞれ選んだ浴衣を描いて具現化した後、カスミの下駄を参考にして同じものを創る。




