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二人が依頼主の住所に近づくにつれ、倒壊したままの住宅や半壊した建物が目立ち始める。
「ここら辺は、まだ修繕工事がされていないんだな」
窓ガラスが割れたままになっている住宅の前で、粗末な服を着た子供達がボールを蹴って遊んでいた。風に乗って微かにカビ臭い匂いが鼻孔をかすめる。
「私も来たことが無いので分からないんですが、この島には大戦で国を追われた人々が難民として数多く住まわれていて……。その方達が住むエリアの住居などは、国が予算の都合か何かで支援を後回しにしていると支部長……いえ、ピクチャー協会の方が仰っていました……」
彼女の表情が曇っている。デイジーは言葉に詰まり、そのまま黙って歩き続けた。半壊した建物の窓から誰かの視線を感じた。
——こんな場所で暮らしている人がいるのか。彼が想いを巡らせていた時、視線の先に数人の子供が群がっているのが見えた。
よく見ると二人の少年が少女に向かって叫びながら、道端にある小石を投げつけていた。
「相変わらず変な歩き方するよな、お前。見ていて気持ち悪いんだよ!」
二人の少年のうち肩幅の大きい少年が、少女に向かって小石を投げる。
もう一人、ノッポの少年は隣で、その様子をニヤニヤしながら眺めていた。
「あなたたち、何をしているんですか!!」
ユリが張り上げた声に、少年達とデイジーの体が硬直する。
「その女の子が何かしたのですか?」
「な、なんだよお前、関係ねぇだろっ!どっか行けよ」
肩幅のある、いかにもガキ大将風の少年がユリを睨みつけた。
「関係なく無いです!」
「おい、君たち。女の子を虐めるなんてかっこ悪いぞ」
間にデイジーが割って入る。
「うるせぇ!ヒョロ男は引っ込んでろ!」
ガキ大将がデイジーに向かって吠えた。
聞き捨てならない台詞。——ヒョロ男って、ヒョロい男って意味だよな……。要するにモヤシみたいに貧弱そうって意味だよな?
デイジーは静かに腰をかがめると、道に転がった小石を拾った。
「なぁ、君たち。そのヒョロ男と、少しキャッチボールして遊ばないか?」
手に持っていた小石をデイジーは目にも止まらぬ速さで投げた。
風を切る音が二人の少年の間をかすめると同時に、炸裂音が後ろの壁から響いた。
少年たちが振り返ると、デイジーが投げた小石が《《煉瓦の壁にめり込んで》》いる。
少年達の顔が途端に真っ青になった。デイジーはさっきより少し大きめの石を拾い、空中に投げてはキャッチする。
「なぁ、面白いだろ?ヒョロ男とのキャッチポール——」
言い終わる前に、少年達が一目散に逃げていった。
「暴力はいけません!!」
突然、ユリが大気を震わすような声を上げる。
デイジーは金縛りにあった感覚がした。空中に投げていた石は地面へ落ちている。
「い、いや……口で言っても、アイツら分からなそうだったからさ……」
「それでも暴力はダメです!さっき投げた石が、彼らに当たっていたらどうするんですか!!」
道端に座り込んでいる少女に、ユリが駆け寄って行った。