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ジュリアは指で、空中に鳥のようなシルエットを描きだした。
空中に描かれた模様は、光を放ち輪郭を形成しながら徐々に大きさを肥大させ実体化していく。
数秒後、彼女の目の前には、通常の十倍以上大きい鷲が立っていた。
焦げ茶色の翼。白い羽毛に覆われた頭。黄色いくちばしの大鷲は蒼天を仰ぐと、甲高い鳴き声を発した。
広場にいた人々が騒つく中、ジュリアは大鷲に手を伸ばす。
大鷲が首を下げると、彼女は頭を撫で「オワシちゃんお願いね」と言いながら『彼』に飛び乗った。
オワシは、一声鳴くと大きな翼を羽ばたかせ始める。
彼の翼が巻き起こす風は、ヘリのメインローターが回り離発着する際に発生する風圧のようだ。
「ユリ、無理しなくていいからね!」
ジュリアが言うと同時に、オワシはもの凄いスピードで上空へ上がり西の方角に飛んで行った。
「相変わらず凄いね。ジュリア先輩。紙に描写して具現化することも省略できちゃうんだから!!」
畏敬を込めた口調でアンナが呟く。
ジュリアを含め準特級以上のピクチャーズは、空中に図形を描くことで、紙とペンを用いなくとも描画具現能力を発動することが出来た。
それを実現し得る理由は、極めて高いイマジネーションに依拠するが、紙に描いて具現化した時に比べ、その精度と持続時間は大幅に低下する。
それでも、突発的な事故などに際して、時間を短縮して能力が使える利点は、欠点を補って余りあった。
アンナはジュリアのことを、心底尊敬していた。
それはもはや、崇拝に近いレベルに達している。
——でもジュリア先輩はあたしに冷たい。ユリには、あんなに優しいのになぜに!?どうして?こんなに慕っているのに……。いや、焦りは禁物だ。そうよ、アンナ・オルティース。これから先が本当の勝負。ジュリア先輩の愛を勝ち取るまで、あたしは諦めない!!
彼女の血走った瞳と、はぁはぁと興奮している様子をユリは不思議そうに眺めていた。
渡された紙に書かれてある住所は、今いるショッピング通りから五キロ程離れた場所にあった。
約束の時間は十八時と書かれている。ユリの見ている紙をアンナも覗き込んだ。
「ああ、この住所らへんって割と所得の低い人が暮らすエリアじゃん。ジュリア先輩、治安のこと心配していたのかな?どっちみち、まだ十六時前だし歩きがてら行こうよ!この距離なら徒歩で一時間かからないし。ていうか、まだあたし洋服買えてないからね!!」
「ええ、そうしましょう」
アンナの提案に、ユリは笑顔で応じる。