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ジュリアは両手を叩きながら満足げな表情を浮かべた。ユリの着ている服はホワイトのプルオーバー、ピンクの長袖カーディガン、花柄のプリーツスカート、ブラックのニーソックス。ブラウンのレディースブーツを合わせたコーディネートだった。
「そ、そうですか?なんか……動くたびに太ももがチラチラ見えるので……なんか……私、恥ずかしいです……」
「そこが良いんだよ。私が男だったら一発で悩殺されちゃう」
「……悩殺?」
ユリはジュリアの言った言葉の意味がよくわからず聞き返す。
「冗談、冗談。でも本当、ユリの雰囲気にピッタリだよ」
ジュリアは店員に「これ一式買います」と言い値札を外してもらった。
二人がレジに行くと女性店員はユリの着ていた制服を店の袋に入れながら、値札をバーコードで全て通し「合計で会計、二百ユロなります」と告げる。
中級試験昇格で受け取った給付金は百ユロだ。
「代金は私が立て替えとくから大丈夫!」
店から出ると、ユリがジュリアに謝った。
「あの……ジュリアさん。洋服のお代金はいつか必ず返しますので」
「気にしないで、その内でいいからさ。出世払い期待してるよ」
「……出世払い?」
「んー、偉くなってお給料が上がった時でいいって意味、かな」
ユリは合点がいった様子で頷いてみせる。
「ジュリアさんもスカート買ったんですね」
いつの間にかジュリアはデニムパンツから、フレアタイプのロングスカートに着替えていた。
「そうそう!ユリが試着している間に私もスカートが欲しくなって。つい買っちゃった」
二人が会話に花を咲かせながらショッピング通りにある中央広場にやってくると、アンナが不貞腐れた様子で座っていた。
「……ジュリア先輩。どこに行ってたんですか?あたし、とっても寂しかったです……」
アンナは恨めしそうに二人をにらむ。
「あぁ、ごめんアンナ。服はもう買ったの?」
「まだ買っていません!!」
アンナが哀愁に満ちた声をあげた時、ジュリアのポケットから携帯の着信が鳴り出した。
彼女は協会から支給された携帯電話を取り出し電話に出る。何度か通話先の相手とやり取りした後、彼女は電話を切った。
「ごめんね!ユリ。今、本部から応援要請がきて西のメシナの中心街で、野良ピクチャーズが暴れて警察が手を焼いているみたいなの。悪いけど私、これから現場に急行するね」
彼女の言う野良ピクチャーズとは、国家が設立した正規のピクチャー協会に属さない描画具現者を指す。
そうした能力者が起こす犯罪を警察と連携して取り締まるのも、協会員の重要な職務になっていた。
高レベルの野良ピクチャーズになると軍隊ですら手に負えないからだ。
ジュリアは依頼者の氏名、住所、約束時間が書かれた紙をユリに手渡した。
「アンナ!あなたは私の代わりにユリに同行して。何かあったら必ず支部長に携帯で伝えるように。私からも連絡しとくから!」