彼の秘密 1
「ねぇ!ユリ、これ見て。あなたに凄く似合いそう!」
ジュリアはボーターのシャツを、店の前に置かれたワゴンから取り出し広げながらユリの体に押し当てる。
ユリ達は島の南東部にあるラクサ市街のショッピング通りに来ていた。ラクサは人口、約十二万人が暮らす都市だ。
街の広場や公園には芸術的な彫像や建造物などが多く立ち並び、高台から見える住宅の屋根瓦はどれも赤橙に美しく染まっている。
しかし大戦の影響はこの島にも及んでおり、街のあちこちで倒壊した建物が散見された。
また不発弾などを撤去する為に、チルア国軍がキープアウトと書かれたビニールテープを貼り付けた敷地の前に立つ姿が目に入る。
そんな中でも街の人々は、めげることなく壊れた建物の復旧作業に精を出し、お洒落な洋服を身にまとって街中を歩き、市場では店主が声を張り上げ客寄せをしている。
「うーん。ユリは童顔だし雰囲気が清楚だから、カジュアルな服よりフェミニンな洋服の方がいいわね」
ジュリアはボーダーのシャツをワゴンに戻した。
「ジュリア先輩!この服どうです?あたしに似合ってますか?」
アンナが隣店のショーウィンドウ前にかかっているハンガーから、赤いワンピースを自分の体に当てている。
「多分、似合ってると思うよ」
ジュリアは素っ気なくアンナに答えた。
「全然、気持ちがこもってない気がするのは気のせいですか!?」
アンナは金切り声を上げたが、ジュリアは完全にスルーを決め込む。
「うーん、これだけ沢山の洋服があると流石に目移りしちゃうな。ね、ユリ」
「そうですね。私はこのショッピング通りに来たの初めてだし、洋服も自分で買ったことないので、正直どれがいいのかも良くわかりません……」
「大丈夫!私、何度かここに買い物しに来たことあるから。ユリの初仕事にぴったりの洋服をセレクトしてあげる。あそこのお店に置いてあるマネキンの服装なんか、ユリの雰囲気に合いそうじゃない?」
ジュリアはマネキンを指差して、ユリの手を引っ張り店内に入った。
「いらっしゃいませ」
艶やかな服を着こなした二十代半ばの女性店員がユリとジュリアに声をかけてくる。
「すみません、お店のショーウィンドウに飾ってあるマネキンの服を、この子に試着させてあげたいんです」
「かしこまりました。試着室までお持ち致しますので、どうぞ奥へ」
店員は試着室まで案内した後、マネキンが着ていた洋服一式を試着室まで持ってくる。
「さ、ユリ。着替えてみて」
ジュリアが洋服を店員から受け取りユリに手渡す。ユリは試着室のカーテンを閉め、着用していた協会の制服からジュリアが指定した洋服に着替えた。
「き、着替えました……」
カーテンの奥からユリの声が聞こえる。
「見せて、見せて!」
ジュリアが声を掛けると、彼女がカーテンを開けて外に出てきた。
「ど、どうですか……?」
ユリは穴があったら入りたいとでも言いたげな表情をしている。
「凄く似合ってるよ!やっぱり私の見立てに間違いはなかった」