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彼女の命と億万の命  作者: 春夫
9/13

戦闘について

「アオバとカエデ、どちらが勝つと思う?」


5人乗りの荒野専用車の上に乗るノアが中で休むイオリに尋ねる。

イオリは目の前で繰り広げられる高度な銃撃戦を眺めながら考える。

出した結論は至極単純。


「カエデ・・・ですかね。

本人の元の索敵能力は、プロのハンターが情報収集機器をフル活用したほどのものですよ。

いくら手加減しているとはいえそれは変わりませんし、射撃能力すらそれに左右される。

筋力は見た感じアオバのほうが上だけど相対的な能力で言えばカエデです。

それに見てくだいよ。

最大まで手加減してやっと俺とアオバは互角。

言わずともはっきりしてます。」


イオリは躊躇なく一番はカエデと言い切ってみせた。

確かにカエデの五感と、情報収集機器を使った索敵、つまりは空間把握力はハンターとしては素晴らしかった。そこはノアも同感している。


カエデは最低の精度、最低限の補助にしか頼っていないにしろ銃弾を見切り、相手の位置を正確に捉えるその力。

ノアにとってその実力に怖さは感じるが、ハンターの中では指折りの実力者になることは間違いないと容易く想像できた。


しかしそれは古代都市にて発揮されればの話である。


もしノアの想像以上の強さが彼女にある場合、前回の訓練にて彼女は手を抜いていたことになる。

機械系との戦闘を避けたのは大きな功績であるにしても、それができるなら生物型にも対応はできたはずだ。


勝手な行動をしたアオバを懲らしめるために使わなかったのなら納得はできるがノアが見ていた限りその素振りはなかった。

だからか、ノアは何かしらのリミッターがあると感じていた。


だが結局のところ彼女らの強さは見た通りだ。

武器がないイオリは考えないとしても、アオバとカエデなら、カエデのほうが強い。

興味本位でイオリに尋ねる。


「アオバが勝つにはどうすれば良いと思う?」

「・・・え、難しいこと聞きますね・・・。」


イオリは困惑の表情を見せるが、結論を出すために考える。

出した結論はとても淡白なものだった。


「今は無理なんじゃないですか?

今後アオバが数多くの戦闘を経験して、俺とカエデみたいに体内時間操作や瞬歩や近接戦闘を覚えるようなら・・・まぁ、数年後は確率はありそうですね。」


結局はどれだけ戦闘技術を上げられるかで勝ち負けは決まる。

カエデとイオリが、いつそれをつけたのか、それとも、元々あったのかは分からないが今は二人のほうが技術はある。


ノアは疑問に思う。


基本実力が離れている者との訓練は、劣っている方がより成長する。

逆に優秀な方はあまり成長しない。

たまに合わせるならお互いにとても良い経験となるがいつもとなるとそれは逆効果だ。

それは豪鬼もわかっていることだろう。


なのに豪鬼は3人をいつも一緒にしろとノアに命令した。


なぜだ?ノアは顔には出さないが頭の片隅にその疑問を持つ。

しかし言われたからには変えられない。

手元の書類に今後の訓練メニューを書き始めた。


「因みにイオリはカエデに勝てるのか?

そこまで客観的分析ができるんだと勝算ぐらいは思いついてるんだろ?」


とりあえず今日は先日完成した訓練メニューを進めよう。

ノアは雑談で時間を潰す。


「とりあえず武器が必要です。

こんな拳銃とナイフ一本とかじゃ勝てません!

少なくても刀!突撃銃!手榴弾!スタングレネード!ジャミングスモーク!

これがないと話にもなりません。」


けどその内容はイオリの怒りに触れた。

先程の戦闘の理不尽さに怒る。

しかし内容にノアがが疑問を持ったため、その怒りに行き場はなくなった。

イオリはノアの質問に呆れてしまったのだ。


「でもそれさえあれば何とかなるんだな。

意外とお前の中では簡単な類なのか?」

「んなわけないでしょ、カエデの阿呆ほど正確な予想力に、千里を見通す索敵や空間の全てを把握する知覚力。

あと忘れてるかもしれませんが、あれでもたくさんの戦闘技術を手にしてるんですよ?

武器がない丸腰の状態だったら古代都市の中枢部へ行くほど馬鹿だってだけです。」

「流石に過大評価過ぎないか?」


ノアは、イオリのカエデヘの評価のデカさに苦笑する。


「俺がそう思ったってだけですよ。

まぁ、もっと簡単に言うなら・・・ノアさんも経験ありますよね。

圧倒的にデカくて硬くて馬鹿ほど砲台取り付けてる機械型のモンスターとの遭遇。

その時ほど武器があればなぁ〜って思ったことありますよね。

それと同じで、俺にとってはカエデはそのデカブツです。」


ノアは古代都市を愚痴りながらも駆け抜けた日々を思い出す。

彼にも多く死にかけたことがあり、生き残るために何度も強い武器を求めた事もある。


「なるほど・・・確かに武器は・・・大事だな。」


彼とて武器に救われたハンターの一人。

自分の肉体だけに頼るようなハンターではない。

だから武装の重要度は理解していた。

感慨深い想い出の数々。そして強い武器に憧れた日々。

ノアはイオリの言う事に同意してしまった。


「わかってるじゃないですか!なら貸してくださいよ!

あの二人と武器無しで闘いたくないんですっ!」

「駄目だ、お前は武器に頼りすぎてるところがある。

それだと万が一武器を壊したあとに何も出来なくなってしまう可能性があるからな。

だから慣れろ。武器がなくても戦えるようにしろ。」


が、判断は冷静。

イオリの申請は思考の余地なしで却下された。


「ゔっ・・・考えてくれてるのに全然嬉しくない・・・!

と言うか、俺好き好んで戦闘してるわけじゃありませんからね!

前回の訓練もアオバのせいだし、今までの探索も豪鬼さんがモンスター擦り付けてきたからだし。」

「古代都市は何があるか分からないんだ。

いくら否定しても武器は最低限しか渡さないからな。」

「鬼!悪魔!ドS!」


イオリの罵倒を適当にあしらうノア。

その頬は少し緩んでいた。

ノアはそれに気づいていないが、イオリはそれをはっきりと目で捉えた。

イオリは密かに吹き出す。

子供の前だと仏頂面だったり、変に真面目だったりするため子供達からはお兄さんではなく先生として認識されているノア。

しかし本心は子供大好きで、なんだかんだ言って子供を一番に考える優しいお兄さん。

そのギャップが庵にとっては少しツボだった。


「お、両者共、銃撃戦が終わったな。」


雑談が終わると、丁度良くアオバ達の銃撃戦が弾切れにより終了を告げる。

二人の間にはへニャリと曲がったゴム弾が数多く落ちていた。

ノアとイオリはそれを見逃さない。

本人たちの実力と弾の曲がり方から、アオバの撃った弾をカエデは当たりそうなものから正確に撃ち落としたのだと二人は理解した。


子供ではできない芸当。


今までの訓練からその強さの片鱗が見えてはいたがノアは不気味に感じる。

アオバは努力からの強さ、イオリは人間らしい強さ。

カエデは人間らしくない、才能一つでは片付けられない強さ。


ノアは少し悩み、手元の書類には実力不明と記入した。


すると、同時に戦況は変化した。


「あ、接近戦になった。」


アオバがナイフを持ち、カエデに攻める。

カエデはそれを両手に何も持たず対応する。

アオバのナイフを使った一挙手一投足を、体術でさばいているのだ。

手の甲、手首、前腕、二の腕。

弾き、抑え、掴み、流して、突く。

あまりの鮮やかさに美しくすらあった。

しかし車にいる二人はあることに気づく。


「・・・確か、ランク高い人は盲目の人いますよね。

なのに空間把握が出来ていたり、正確に射撃出来たり。

カエデは片目を閉じてますけど、あれはそういうのができるようになるためなんですかね?」

「・・・恐らく目だけに頼らず五感全てを使うことを練習しているんだろう。

アオバのフェイントを躱せているのは、あの余裕から見るに性格から読み取ってるんだと思うぞ。」


しかし、カエデも両目を開けないと耐えられなくなっていく。

アオバのナイフ捌きの速度と威力が上昇しているからだ。

見るからにわかる成長。

純粋に技術が上がっていた。

でもカエデとは確かな実力差があった。


「あらら、投げられる。」


イオリの呟きどおり、ナイフを突き出したアオバは地面へ投げつけられた。

突き出したては掴まれ、逆の手で腹を押され、アオバは体の自由を奪われ抵抗ができなかった。

地面に尻もちをついたアオバは後頭部に銃を突きつけられる。


「これは決着付きましたな。」

「・・・そこまで!」


イオリのつぶやきが聞こえたあと、ノアは二人に向けて叫ぶ。

カエデは銃をしまい、アオバの頭のうえにポンポンと手を乗せた。


「これで132勝0敗4引き分けね。アオバ♪」

「・・・イラッ!」


アオバに向ける笑みは不気味にそして見ていて苛つくものだった。

アオバは頬を引きつり、こめかみに力が入る。

しかし彼は冷静だった。

試合に負けたのは事実。

ゴム弾による痛みに我慢しながら静かに立ち上がった。


「・・・教えろ、何が悪かった?」


アオバはカエデに向き直り、真剣な目をして尋ねる。

カエデはクスリと今度は楽しそうに笑い、アオバの戦闘においての指摘をし始めた。


「まず銃撃戦ね。

君は愚直すぎる。

君の物量で攻める作戦は別にこんな広々とした障害物がない土地では悪い作戦ではないわ。

君のその狙撃の正確さがあるならいい手とも思える。

けど相手の弱点、つまりは脳と心臓しか狙わないのはアホ過ぎるのよね。

実力が均衡している、もしくは強い相手に対しては虚を突きなさい。」

「ついてるだろ?肩とか狙ったじゃないか?」

「あのね、そういうことを言ってるんじゃないわよ。

虚を突くってのはどれだけ相手の意識を搔い潜るって事なの。

折角両手に銃持ってるんだから弾を重ねたり、相手の視線が逸れた瞬間に銃口下げて足を撃つとか・・・」


カエデはアオバの体を指でブスブスと突く。

アオバは痛いのか疲れるたびに顔を歪めた。

だが、自分の得となる教え。

耐えながら聞いている。


「・・・嫌っていると思ってたがそうでもないのか?」

「カエデがアオバをですか?

・・・極端すぎません?あいつは結構人情に熱いですよ?」

「・・・俺が見た中ではいつも塩対応だったんだが?」


イオリはあぁ、なるほどと納得する。

すると、可笑しそうに笑った。


「嫌いな人だからといってカエデは見ないことはしないんです。

嫌いだからこそ観察して、認める所は認めて、直すべきところは直させる。

見捨てたりはしない、一見人付き合い悪く見えますけど関わっていけば優しいんですよ?

ま、要はツンデレですツンデレ。」


カッカッカと笑うイオリ。

故に後ろの車のドア越しで頬を大きく釣り上げ、不気味の笑みを浮かべているカエデには気づかなかった。

ガッと扉が勢いよく開けられ、腰をかけていたイオリは後ろへと倒れてしまう。


「わっ!?・・・ん?柔らかい感触?」

「イ〜オ〜リ〜く〜ん〜♪誰がツンデレかな?」

「あっ、」


イオリは顔を青ざめる。

逃げようと体を起こすが、背中を預けてしまっていたため抱き止められてしまった。


「いつから聞いていたので?」

「1から10まで全部♪」

「う、嘘だ!聞けるはずがないっ!」


ジタバタと暴れるが重心を奪われているため抜け出せない。

カエデは怯えた顔するイオリの顔を両手で包み込む。

そして目を見開いてイオリに悲鳴を上げさせた。


「実はね、私君に盗聴器仕掛けてるんだ。

だから・・・全部知ってるんだよ。」


カエデは自分の耳を見せる。

そこには一つの小型の無線型イヤホンがついていた。

イオリはすぐさま自分の服を弄る。

後ろ襟に小型の機械を発見した。

彼はそれをじっと見て、カエデに真顔で尋ねる。


「・・・ヤンデレ?」

「ふふっ、今後ツンデレとか思えないほどイジメてあげる♪」


車の中はとても騒がしくなる。


「ツンデレ扱いした事にそこまで怒るっ!?」

「違う違う、勘違いしちゃってることに怒ってるのよ。分かってくれている」

「怒るところそこっ!?あ、待って///そこは///!」


ノアとアオバは休憩と二人の醜態を見ないために、車から離れる。

いつものことなのでため息すら出ない。

揺れる車に書類をまとめるノア。

打撲痕のある体に塗り薬を塗るアオバ。


暇つぶしとしてアオバはノアに尋ねる。


「次は俺とイオリなのか?」

「まぁ・・・その予定だ。」

「歯切れが悪い・・・。」


目線を上にして、悩むような仕草をするノア。

アオバはなにか隠しているなと勘付き、疑惑の視線を送った。

ノアは観念し、話を進める。


「まぁ、来てないから言うか。

俺が訓練メニュー考えることになったのは聞いてるだろ?」

「豪鬼さんからちゃんと。」

「それで、数日前に作っていた時、あるところから連絡が来たんだ。」

「あるところ?」

「お前らも知っている人達だ。それは「プップぅ〜!」・・・噂をすればだな。」

「「「えっ?」」」


ノアの説明中、車のクラクションが鳴り響いた。

子供たち3人は音の鳴ったほうを見る。

そこには大型車の車が向かっていた。

それは彼らにとっては見覚えのある車。

「なんだなんだ?」とイオリとカエデは車から降り、ノアの方へと向かった。

3人は身を出して、目を細めて車内にいる人たちを見る。

顔が見えたのか、3人はそれぞれ嬉しそうな嫌そうな1複雑な表情に見る。

ノアは書類を片手に説明を続けた。


「今回、お前らとともに訓練をする組織『タミラス』の面々だ。」

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