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彼女の命と億万の命  作者: 春夫
7/13

訓練

「え?また古代都市探索行くんですか?」


孤児院の食堂。

朝食のパンを齧っていたイオリたちは驚きの顔を見せた。


「お前何も聞いてなかったな?探索じゃない、訓練だ訓練。」


ノアは淡々と朝食を食べながら説明する。


「それと今回は古代都市までは行かない。

途中の砂漠の荒野で訓練する。

初めは互いに手合わせ。そして各自の弱点の克服用メニューをすすめる。

それぐらいだ。」

「質問いいか?」


ノアはアオバに箸で指差し、アオバに許可を出す。


「なぜ荒野なんだ?身体能力を鍛えたいなら、今までどおり家の広場ですればいいだろ?

それに荒野なら同業者からの襲撃の危険性がある。」

「危険性があるからだ。」


ノアはアオバの質問途中で答えを出した。

アオバはぐっと言葉を留める。

ノアはその様子をちらりと見て、答えを続けた。


「同業者の中には迷彩戦闘服を着ているものや、遠くから狙撃しようとしているものがいる。

基本ハンターってのは奪うのが仕事だ。

異宝、命、それをいつも天秤にかけている。

だから異宝を手に入れて終わりじゃないんだよ。

警戒心を高め、それを常に働かせ続ける。

もうここまで言ったのならする意味はわかるだろ。」


アオバは悔しそうに爪を噛む。

ノアの判断として、アオバに足りないものは警戒力に判断力。

つまりは油断してしまう心が駄目だと感じているのだ。


「荒野でやる意味は他にもある。

まず地面だ。都市内の土は基本柔らかく、足に優しいものになっているんだ。

それに比べ荒野は土の粒が細かすぎて足が取られることが多い。

たまにとても硬い岩が当たったりするから、足を鍛えるにはちょうどいい。」


アオバはなるほどと考え込み、カエデは特に何も思っておらず、イオリは面倒臭そうにテーブルに顎をつけていた。

ノアはその3人を見て呆れる。


「言っておくがお前らの筋力は全然足りてないぞ。そして何より脆い。

最初は足を中心に鍛えるからそのつもりで。」

「はい、質問があります!」


連絡を締めようとすると、イオリが身を乗り出してきた。


「なんだ?」

「荒野で訓練するのは別に文句はありません。俺も思ってたことですし。

けど、知っての通り注文中で俺には装備がありません!

俺は行かなくていいんですよね?やらなくていいんですよね!」


イオリは訓練にあまりいい印象を持っていなかった。

孤児院に来てすぐ、豪鬼に連れ回される地獄の日々。

古代都市故、気を抜けば死。油断すれば恐怖。

独りボッチでモンスターの群れをやり過ごしたこともある。

だからイオリは自衛の術を豪鬼から死にものぐるい盗み見た。

体術に剣術に銃術。知識に知恵。

豪鬼に出来て自分にできない技なら、基礎を改良に改良を重ねて最適化。

その苦労は凄まじく、言葉で語れるほど簡単なことではなかった。

だからこそ、彼は訓練を嫌う。

しかし立場的にも、彼の親切さ的にも訓練には参加しないといけない。


イオリは密かに期待していた。

装備がないから訓練には参加しなくていいかもしれないことに。


しかし彼の経験は語っている。 


「何言ってんだ、装備なくても行くに決まってるだろ。」


イオリの願いは叶えられることはない。

隣の二人の目が嬉しそうに光るのを見て、イオリは目の前の食事をがっつくことしか出来なかった。






ノアは面倒くさそうに運転し、それにイオリは億劫なまま揺られ、ほか二人は訓練を楽しみに車で揺れていた。


「・・・はぁ〜、なんで俺はこうも人に恵まれないんだろ。」


窓から変わらない茶色い景色を見てボヤくイオリ。

その瞳には光はない。

隣でカエデが笑いながら慰めていた。


「ほらほら、飴あげるから拗ねないの。

私のときは優しくしてあげるから。」

「あきらかに嬉しそうにしてなに言ってんの。

絶対に意地悪してくるつもりでしょ?

俺の予感が危ないことになるって大音量で囁いてるよ。」

「ん?キツくしてほしいなら優しく弄んでほしいあげるわよ?」

「普通に優しくしてくださいお願いします!」


怒るイオリにそれをすらりと自分のペースに持ち込めるカエデ。

まるで吠える犬に、なだめる飼い主。

前に座る二人にはやかましくて仕方がなかった。


「ふぅ〜ん・・・♪優しく・・・ね〜♪」

「え?なんで両腕掴むので?」


カエデはイオリに被さるように彼が身動き取れないように捕まえる。

あからさまに油断していたイオリはぬるりと抵抗できずに捕まった。


「そう言えばこの間の夜のお礼、まだしてもらってなかったのよね。

ちょっとだけ・・・泣いてもらおうかしら?」

「ぴゃぁぁぁぁぁぁっ///!!??!?!」


カエデはイオリの耳元でささやき、チロッと舐める。

イオリは驚きと急な身をくすぐられるような感覚に悲鳴を上げた。

その声に楓のスイッチは入る。


今度は首に吸い付き始めた。


「ちょっとっ///!や、やめて///!あっ///!」

「はぁ〜〜〜〜///♪もう可愛いなぁぁ〜〜///♪」


本格的に襲い始める。

鎖骨、耳や首を刺激して、自身の胸に引き寄せ甘い香りにイオリを酔わせる。

彼女の誘惑の手際はプロの娼婦を思わせるほどの素晴らしいものだった。

しかし前の席に座る二人にとっては鬱陶しくて堪らなかった。

そして耐えきれずにアオバが怒鳴る。


「てめぇら、うるせぇ!少しは静かに景色を楽しめんのか!」

「「あたり一面砂だらけの場所をどう楽しめと。」」

「俺に反論するときだけ息合わせんな!

後、てめぇらが楽しめなくても俺は楽しんでんだ!

少しは静かにしてろ!」


スッキリしたのか、前に向き直るアオバ。

彼は密かに外の世界を夢見ている。

噂でしかないが、昔は色とりどりの自然が彩り、鳥のさえずり、多くの生き物は生存する緑で覆われる世界だったらしい。

人々が作り上げた幻想的で神秘的な建造物がありながら自然も生きている。

故にいつも見ている景色でも想像が広がって楽しくあれるのだ。

別に今も大きな水溜りや植物が多い場所もあるにはあるが、それは北部や南部の遠い都市にある。

子供が容易く行ける場所ではなかった。


後方の二人はそれを知っているから、アオバが嘘を言っていないことが分かる。

そして自分たちが悪いとも自覚している。


「怒られちゃったわね。」

「まぁ、あれだけ騒がしくしてたらね。」


しかしカエデは力を緩めない。

一切やめる気がない。

掴む力が緩まないことに、イオリは危機感を感じる。


「あの、なんで離してくれないの?」

「え?やめてって言わないからてっきり続けてほしいんじゃ?」

「ワァオ、思考の歪み具合が予想を超えちゃった。」

「じゃ、いただきます。」

「律儀になればいいってわけじゃないよ///!

あっ///、やめてっ///!」


今度は音を小さく、けど体を絡ませて、長く舐りイオリを刺激する。 

イオリが抵抗に突き離そうとするが、掴まれる力と抑えられる力は優にイオリの全力を超えていた。


「こら、静かに喘ぎなさい。

じゃないと怒られるわよ♪」


イオリは流れ込んでくる快楽に流されないために、声を我慢するで精一杯だった。

しかし、カエデのほうが一枚上手。

イオリの弱い箇所をときに優しく、ときに痛く、ときにくすぐる様に刺激する。

イオリの声は漏れ出していた。


前の二人は鬱陶しく感じるが、これは注意しようと終わらないと知っている。

気にしないことに集中した。


そんなカオスな車内のまま目的地につく。


そこは何もなく、見晴らしのいい荒野の中だった。


「「・・・ついた。」」

「んん〜〜〜〜っ!スッキリっ!」

「・・・。」


子どもたちは三者三様に車を降りる。

イオリだけ消耗しているのは言うまでもない。


ノアは車の上に座る。

子どもたちを上から見下ろし、各自に一つの書類を投げ渡した。


「早速始めてもらう。

時間は30分。相手に参ったと言わせれば勝利。

武器は各自用意したものを使うが、銃弾に関してはこのゴム弾使う。

言っておくがゴムと言えど当たれば激痛が走る。

そのうえ、俺がたまに狙撃するから頑張って避けろよ。」


車の中には3つ、ゴム弾が入って箱がある。

一人一つ。それが彼らの武器だった。

ノアの話を聞き、イオリは絶望の顔をする。

装備のない彼にとって、ノアの言った内容は死の宣告だったからだ。


その様子を見てノアは流石に可哀想に思う。


「イオリ、お前は装備がないからこれだけは使っていい。」

「へっ?・・・ナイフ?」


ノアはイオリの足元へナイフを投げる。

刃渡りは20cm程度。

刀に慣れているイオリにとって不満のある一品だった。


「小刀ないので?というか近接武器はガチもん使うんすか?」

「あぁ、そっちのほうが危機感出るだろ。」

「俺だけ危険度が上がるんですよ!

アイツらの性格知ってますよね?

俺を痛めつけるなら容赦なんて一切しませんよ!」

「あぁ、だから頑張ってくれ。」

「少しは俺に優しくしてくださいっ!」


イオリは確信する。

ノアは豪鬼と同じなのだと。


ノアは真面目だが、やるとなれば徹底的にやる。

妥協の一つも許さない。

環境が一人だけ違えど、一人だけ実力が違えど容易くルールを変えない。


豪鬼は遊び心あるがノアと同じ。

するなら徹底的に。


訓練において、ノアの都合など一切視野に入れてはくれなかった。


「・・・銃は貸してはください。

拳銃で十分です!お願いします!」


イオリは近接武器に関しては何を行っても無駄だと理解する。

しかし近接武器がゴミなら遠距離武器は手に入れなければならない。

イオリは恥など捨てて、地面へと頭をつけた。


ノアは仕方ないなとつぶやき、手元の拳銃を渡す。


「よっしゃぁぉァァァァァ!!」

「「チッ。」」


喜ぶイオリに、舌打ちする二人。

ノアは何故今まで仲違いせずにここまで来れたなと感心してしまった。

ノアは準備をし始める三人を観察する。


アオバトカエデはいますぐにでもイオリに飛びきそうなほど殺気を放っていた。


ノアは初めの組み合わせを決める。


「最初はカエデ、イオリ。お前たちだ。」


カエデの舌なめずりはイオリの恐怖を促進させた。

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