報告
「さて、報告を聞こうか。」
ノアは偉そうな声を聞き、面倒臭そうに顔を歪めていた。
両隣には多くの小さなな異宝が並べられている棚。
ノアの目の前には高級な黒い椅子には似合わない筋骨隆々な男が座っている。
その男の名は豪鬼。
高ランク帯のハンターOBの、暇つぶしにと孤児院の院長をしている、ノアが幼少期からお世話になったせいでここで働く原因となった男である。
ノアは豪鬼から指示された仕事の成果をため息混じりに報告する。
「まずは成果から。
特にめぼしい異宝はなし。
が、彼らの努力によりモンスターとの戦闘は前半は極力避ることに成功。
後半はランクCのモンスター5体と遭遇。撃破に成功。
被害はイオリの装備品。
・・・大まかなところはこんなとこですね。」
ノアは一つの書類を眺めながら、豪鬼に今訓練に関する結果を報告した。
豪鬼は自身の端末で、ノアから送られた子どもたちの戦闘シーンを見ている。
それが豪鬼にはとても面白い映像だったのだろう。
彼は機嫌が良さそうに鼻歌を歌っていた。
「なるほど、じゃあ、今度はお前の評価を聞こう。
全体と個人、どちらとも話してくれ。」
「全体としては5段階評価中2。
連携は素晴らしかったが身勝手な行動を取る仲間。
逃走中に言い争う無神経さ。
他にも色々ありますが、正直なところ戦闘時の協力しか褒めるところはありません。」
豪鬼はノアの評価を聞いて、まぁ、そうだろうなと納得する。
笑いながら納得しているので、ノアはこの結果になるとわかっていたのだと確信した。
だが何か言うこともない。
全ては過ぎたこと。
ノアは個人の評価へと移る。
「まずはアオバの評価から。
体力、筋力、射撃能力とともに子供としては群を抜いていますね。
戦闘の才能はあるでしょう。ハンターの素質は俺よりある気がします。
・・・が、自己顕示欲が強いのがマイナスですね。」
豪鬼はウンウンと頷きながらノアの評価を肯定する。
豪鬼の手元にあるアオバの顔写真の載った書類にある言葉が記入された。
その言葉は『ビギナー』。初級者を意味する言葉だった。
「なるほど・・・よし、これでやっとアオバには真っ当な訓練が施せるな。」
「彼の自己顕示欲はどうするので?
ハンターになるにしても、欲深かったらそれは死に繋がりますよ?」
ノアの不安も最もだった。
今訓練において、アオバの欲に従った行動は、事実、最後に死ぬかもしれない状況を生んだ。
それが続くのならアオバもすぐに死ぬ可能性が高い。
もし死ななくても、同行するハンターには必ず被害は出るだろう。
ノアの直感では彼は死ぬはずだと囁かれていた。
だがノアのそんな心配を尻目に、豪鬼は笑いながら大丈夫だと話す。
「そんなことハンターやっているアオバが一番わかっているさ。
あいつは我儘でも賢いやつだからな。
ハンターを目指している時点で、命の覚悟は出来ているんだろう。
今はわからないだろうが訓練見てたらお前でもわかるようになる。
それに・・・俺たちがするのは教育だ。
アイツらの命の保証じゃない。
自分の体験したハンターとしての生き方を教えるだけだ。
そこを勘違いしてのめり込んだら大変なことになるぞ。」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだ。」
ノアはわかるようなわからないような反応を示す。
豪鬼は教育者としてはまだまだだなぁ〜と苦笑いをした。
だがそれは豪鬼にとってはどうでもいいこと。
仕事をして死ぬも、欲を優先して死ぬもそれは本人の自由。
豪鬼のするべきことはただ本人の進む道を照らしてやることだけだった。
「ま、お前も餓鬼たちを観察してたらわかるようになるさ。」
「今回みたいな面倒はもう嫌なんですが?」
「それは諦めろ。俺に恩を返すからと俺の仕事をすると言ったお前が悪い。」
ノアには豪鬼にたいして育ててもらった恩を感じている。
故に孤児院で働くことをその恩返しとしているのだ。
だから豪鬼のアドバイス、そして指示は、最初は否定しても大抵は聞くようにしていた。
「さ、続けてくれ。」
「了解です。」
しかし豪鬼と対等に接し始めてから、彼の苦労を少しだがわかるようになっていた。
面倒くさいと感じることもあるため、ノアはため息が癖となっている。
「次はカエデですね。
戦闘能力に関してはあまり言うことはないです。
自衛は出来ますが、今回に関しては戦闘技術の確認はあまり出来ませんでした。
予想ではアオバと同じぐらいの射撃能力はありそうですけどね。
俺の見たところ彼女の一番強さは・・・観察眼と言うか直感が鋭いことですね。」
「ほう、それは探索にはとても役に立ったのか?」
「えぇ、嫌っているアオバですら彼女の指示には従ってました。
見た限り彼女の指示で5回もモンスターとの遭遇を避けていました。」
実際彼女の感はプロ並みだった。
子供としてはではなく、豪鬼も厄介だと思うほどカエデの直感は強かった。
「その上、索敵能力がピカイチですね。
情報端末一つに処理を任せて、光源分析可視化機、索敵ドローに加え脳機能拡張機器を並行使用していました。
戦闘時の様子からまだまだ余裕はある様子。。
もし機械が無かったとしても彼女の五感は冴え渡っていますし、ハンターとしては重要な人材だと思います。」
「ほう、これはこれは、いいことを聞いた。」
豪鬼はカエデの顔写真の載った書類に『索敵・優』と記す。
これでカエデの訓練方式は決定した。
豪鬼はノアに彼女の欠点を聞く。
すると、ノアは即答でこう答えた。
「集団には向かないことですね。
彼女はいくら集団で仕事をしていようと自分の認めた相手にしか情報を渡しません。
今回の訓練でイオリが頼まなかったら、アオバには助言していなかったでしょう。
その場合、最悪アオバもしくはイオリのどちらかが重症の傷を負うところだったと思います。
直感で危険と感じようと、一切助言しない。
態度も最低限って感じで、集団では反感を買うのは間違いありません。」
「はっはっは、やはりカエデはそんな感じか。
変わらんなぁ〜。イオリにはガンガン構っていただろ?」
豪鬼は見てきたかのように言う。
ノアもため息をついてそれに肯定した。
カエデはこの孤児院でもその美貌、そして頭の良さで目立っている。
が、性格に難があった。
小さい子供や人畜無害な人には普通に接するカエデ。
だが、彼女が嫌う人に対しては性格、言葉遣いが一層に悪くなる。
アオバがいい例だろう。
しかし逆に滅茶苦茶態度を良くすることもある。
それがイオリだ。
カエデはイオリに対すると驚くぐらいに態度が変わる。
イオリを無理矢理にでも甘えさせたり、逆に沢山甘えたり、からかいもして夜這いを仕掛けることもある。
イオリ自身はそれを迷惑がって毎日逃げているのが、今ではもうこの孤児院では笑いの名物となっていた。
「えぇ、外でも変わりませんでしたね。
一応言っときますけど、彼女はハンターとしてはパーティーまでが限界です。」
「わかっている。ハンター組織には入れんさ。」
ハンターにはチームを組むものもいる。
それがパーティーと呼ばれるものだ。
今では個人でやるよりパーティーで古代都市の探索、もしくはモンスターの排除をすることが多くなっていた。
安全性、確実性が段違いなのだから仕方もない。
今訓練でもイオリ、カエデ、アオバは、一つのパーティーとして探索に赴いていた。
そしてそれは今になって、パーティー以上のハンターの集団を表すものも出来ていた。
それが『ハンター組織』というものである。
それは多くのハンターを集まっており、一つの団体として成り立っているものである。
パーティーと違う点は、人数の多さと、参加すれば課せられることになる多くの条件があることだ。
その例として、組織に参加すれば、『どんな依頼でもの報酬の2割を組織へ還元する』、『装備品は組織と契約している企業から買う』、『パーティーメンバーは組織加入者にする』など多くの枷がかけられるのだ。
しかしメリットとして、『装備品の貸し出し』、『依頼の斡旋』、『生活の保証』、珍しいところでは『報酬を月々の給料化』するところもある。
しかし柵は増えても、ハンターとしてすることは変わらない。
逆に保証も安定性もある組織に加入するのが基本となっていた。
今では都市内のでハンター組織が戦力経済力の大幅上昇により、大企業と同じ力を得ることも珍しくはない。
そのため、普通職につけないハンターには好条件の職場であった。
「確かアオバとカエデには組織の加入申請がいくつか来てるんですよね?」
「あぁ、今のところどちらとも3つの組織から来てるな。
モンスター討伐を主軸としている武闘派の『ガレウス』。
都市からの依頼を斡旋して都市に恩を売りまくる『ファンクトン』。
最近急に戦力拡大に勤しみ始めた『ナディア』。
どれも若手からしたら嬉しい報告なんだろうな。」
豪鬼は苦笑しながら手元のカエデの書類を指で叩く。
ノアは豪鬼の苦笑する意味がわかった。
「もしかしてカエデは・・・」
「全部、幹部の人たちが来ても足蹴りしてバッサリ切り捨ててる。」
ノアの予想通りだった。
恐らくしつこく感じたら、水でもかけて本当に蹴って追い出したのだろう。
ノアは呆れ半分のため息をついた。
「アオバはどうなんです?喜んで参加しそうですけど?」
「あぁ、だから一応教えはしたよ。。
アイツを組織へ引き渡すのは最速でも後2年後ぐらいにかかるだろうだが、入団する組織ぐらいはすぐ選びそうだな。」
アオバは自分の実力を高めるのが好きだ。
故に強くなれるなら、柵がつこうと組織の加入を躊躇なくする。
それもカエデと同様、用意に想像できた。
「ま、組織の話は勝手に当人に決めてもらうから俺たちは考えなくていいんだよ。
そりより最後だ。イオリの評価を聞こう。」
ノアは豪鬼を観察した。
豪鬼はイオリの評価にアオバやカエデ以上の反応は見せない。
いつもどおりの楽しそうに笑う姿。
(やはり贔屓は勘違いだったのだろうか・・・。)
ノアは疑っているのを悟らせないように、評価の報告へと気持ちを入れ替えた。
「イオリの評価ですけど・・・
正直驚きです。
射撃能力、体術、剣術共に子供としてはありえないほど強い。
通常訓練の時、俺が相手となった時も手を抜いていたってことなんですかね?」
「そうだな、適当だったのは本当だな。」
「本気ではないのは分かってましたが、あそこまでのものを隠してるとは思いませんでした。
もしかして豪鬼さんは気づいてました?」
「勿論、アイツとは何度も古代都市に行ってるからな。
気づかないほうがおかしい。」
それもそうかと、ノアは納得する。
豪鬼は探索面での評価も尋ねたが、ノアとしてはそれはアオバと同じぐらいで、一度集中すればそれが切れるまで凄まじい直感の持ち主になるとだけ伝えた。
「お前の中で子どもたちの中で純粋に強いと思うのは誰だ?」
「恐らくイオリでしょう。」
「お、自分より上だと?」
「恐らくです。彼が俺と同年代だったのなら、その年分の実力向上を考えると、負けている可能性のほうが高いと思ってるだけです。」
事実、ノアはあの戦闘を見てイオリに劣等感を抱いていた。
ノアが11歳のときは、イオリ程の戦闘能力を持っていなかったからだ。
そのせいでイオリがもし同年代だったと仮定するなら、実力は敵わなかっただろうと確信している。
豪鬼はそれもわかって、クククと笑う。
ノアはムカついたが反応するだけ無駄だと溜息をついた。
「そういえば、イオリはあれだけ強いのに組織から加入しろって言われてないんですか?」
「安心しろ、それは一切ない。
あいつ俺を隠れ蓑にして、自分の功績を俺に擦り付けてるんだ。
あいつの逃げの頭脳は恐らく俺を超えてる。」
「まぁ、良くも悪くも目立つのが嫌いですからね、彼は。」
「・・・これからは少し派手な技を中心に訓練してやるとするか。」
不気味に笑う豪鬼。
彼は趣味として人の嫌がらせがある。
訓練嫌いな子にはわざと何時間も訓練を続けたり、勝つのが好きな子には何回も敗北を叩き込んだり、ノアもその被害を受けた子供の一人だった。
この人も変わらないなぁ、とノアは呆れる。
だが仕事の依頼をされる対等な立場となった今、なんとなく彼の暇つぶしなのだろうとちょっとだが仕事相手に意地悪したくなる気持ちも分かっていた。
「まぁ、イオリの評価もそんな感じです。
何か他に聞きたいことは?」
ノアはさっさと帰りたいと面倒臭そうに手元の書類を全て豪鬼に渡す。
豪鬼はノアのその言葉に何かを思いついたような顔をする。
ノアは嫌な予感がするが、逃げようとする前に言葉は発せられた。
「最後の質問だ。
3人の中で・・・一番ハンターに向かわないものは誰だ?」
ノアは顎に手を当て、数十秒考える。
豪鬼は面白そうにその様子を見ていた。
豪鬼はノアにこの三人をぶつけると面白い現象が起きそうだと予感する。
暇つぶしの子供たちへのいたずら。
その対象はノアも変わらない。
ノアは悩みに悩んだ末、答えを出す。
「ハンターに向かわないものは・・・」
その答えは豪鬼にとっては予想出来たものだった。