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彼女の命と億万の命  作者: 春夫
3/13

シーズン1 勝負

「なるほど、凄いな。」


ノアは3人の戦闘を見て感嘆の声を出す。

まずアオバの実力。

彼の狙撃能力はとても高いというわけではない。

しかし狙いは外れているとはいえ、一発も無駄にせず急所近くに撃ち込めている。

銃本来の貫通力も合わせれば確実にダメージは与えられているだろう。

己の射撃能力を介して、強めの銃を用意したと考えればこの中では一番自分の実力をわかっていることになる。


が、どれも前提としてイオリがモンスターをすべて引き受けていなきゃいけない。


正直な話、ノアは5年間彼と過ごしてきたが、彼の評価に強いなんて項目はなかった。

普通の少年だと思っていた。

しかし今視界に映る彼はどうだろうか?


まずプロ並みの殺気を出して、狼共のタゲを自分に向けさせている。

そして斬りかかる時、相手の機動力に追いつけないとわかれば、最低足は斬っている。

毛皮を気にしない彼の斬撃は子供にしては素晴らしいものだった。

それに加え、彼の動きには無駄がない。

最小の動きで最大の攻撃を。

正直、3人の中でイオリは一番戦闘能力は高いのだ。


しかしノアは疑問に思う。

イオリの前にいるのは、彼より体躯のでかい化け物。

同じ個体の殆どはの背の銃は飾りだとしても、パワー、スピードともに彼の何倍もあるモンスターだ。

恐怖しないのか?

いくら彼の戦闘技術がモンスターとの力の差を埋めているとしても、敵は容赦なく彼の命を喰らいに来ているのだ。

それにまだ彼は11年間しか生きていない。

死に恐怖しない理由がノアにはわからなかった。


「イオリ!後方の2体から熱源反応あり!

背のウェポンは武器である可能性が大きい!気をつけて!」


いや、ごく単純な話だった。

彼は残り二人の強さを信頼しているのだ。


カエデの索敵能力のおかげで不意打ちはない。

アオバ、そしてカエデの索敵の間の支援射撃のお陰で後方を気にしなくていい。


味方に命を預けることができるのはそれだけで一つの強さ。

総体的に言えば、恐怖しない強さを彼は持っていると評価できる。


「了解!アオバっ!中央のデカブツは後回し!

先に前衛2体、後衛2体を片付ける!」

「了解!」

「カエデ、索敵一旦中止!あの一体の足止め!俺と一緒に来い!」

「了解!」


イオリは片手の失った2匹の狼の攻撃を刀で同時に防ぎ、バク転して距離を取る。


その時、2体の狼の両端に鉄の球体が転がした。

モンスターはそれを危険だと感じ取るが、イオリに飛び込みで攻撃したため、体が空中にあり動かすことができない。

カエデとアオバはその球体が何なのかわかっていた。


時限式手榴弾。


1秒から30分と設定でき、二人は1秒に設定しているのを知っていた。

イオリは両足を曲げ、地面を力強く蹴れる構えをとる。


二人は瞬きを止めた。

0.1秒も油断できない。


鉄の球が爆発する。


重症の狼は本能に従った。

生き残る確率の高い隣の同種へ噛み付いて、イオリ達へと身を犠牲にして投げ込んだのだ。


「・・・くたばれ・・・犬っころ!」


イオリはそれを予想済みだったのか、一切驚かず、目の前の敵へと地面を蹴り凄まじいスピードで近づく。

ノアは目を疑った。

イオリのスピードはいつもより早かったのだ。

恐らく見た感じ特殊な呼吸術、そして筋肉の伸縮操作術を使って、飛び込む速度をいつもの倍にしている。

まさに投げ槍のようなだった。


モンスターは先程の十数分間の戦闘で、そこでイオリの刀撃速度、移動速度を脳内で決めつけていた。

故に速度の増したイオリを認識できない。

身を犠牲した狼は爆発の熱と爆風に視界が塞がれしまう。


イオリは2匹の駆逐を確信した。


「・・・ッ!」


前に出るのは、はじめの地面を蹴った勢いだけ。

前に出てきた狼の首は、体を宙で捻り、横から真っ二つにする。

抵抗で大きな口を開けていようとも、刀で狼の力を受け流し、肩を痛めようと首を斬りさいた。

重症の狼は脳天を一刺しにすれば終わる。

真っ直ぐに刀を指すだけだった。


基本、古代都市のモンスターは回復力が高い。

脳を傷つけようと再起不能にさせない限り動き続ける種もいる。

イオリもそれは知っていた。

しかし彼はそんなことを気にしない。


考えもせず、イオリとカエデは後方の3匹へと駆け出す。

何故完璧にとどめを刺さない?

ノアの疑問は目の前のアオバが答えた。

二人はわかっていたのだ。

アオバなら動きの止まったモンスターに数穴を開け絶命させるぐらい楽勝であることを。


これで残りの敵は中央の巨体の狼と、後方の背の銃を使うであろう2匹。

順調と思えた戦闘。


さすがの敵も抵抗してきた。


「何をっ!?」


中央の狼は強者のように尻を地面におろし佇み、片手で道路を叩き足場を揺らした。

イオリとカエデの足を止めるためだろう。


「カエデ!足を頼むっ!」

「後でマッサージお願いねっ!」


二人は高く飛んだ。

敵の攻撃を避けるためだ。

しかし壁は高い。目の前に巨大な力の壁残っている。

二人は生き残るために頭を回す。


イオリのとった選択は飛び越えるだった。


カエデはイオリに言われるがまま、彼の足裏を己の両足で蹴り飛ばす。

空中で全力で蹴り飛ばすとなれば、股関節を痛めるのは目に見えていた。

一つの怪我が命取り。

それでもカエデは、イオリの願いに従った。


イオリの目にはもう2匹の狼しか捉えてはいない。

彼の集中力がそれ以外を排除したのだ。

お陰で彼の体感時間が減速する。

走馬灯のようにすべてが遅く見える。


イオリの感が囁き始める。

2体の狼の背のミニガン、つまり機関銃が危険だと。

このままでは体に数穴が開く。


「・・・っ!」


イオリは黒刀を右の狼へとまっすぐ投げた。

空気抵抗の関係で、彼の刀が撃たれる前に狼たちの間の地面へと深々に刺さる。


刀を避けた狼はイオリを嘲笑い始めた。


苦肉の策として、唯一の武器を投げたのは自分たちを仕留めるためだと、勘違いしたのだろう。


『撃ち殺す。』


狼たちは体内で生成した銃弾を背の機関銃に装填を終え、銃口を再度イオリへと向けた。

そこで知恵のない狼は見た。

小さい二本足の猿の手には、鋭い刃を持つ武具にまで伸びているワイヤーが巻かれていることに。

仲間を2体も葬った人間が、武器もないのに最高の笑みを浮かべていることを。


こいつは危険だ。


本能が危険信号を上げるとともに、2匹は背の機関銃を目の前の脅威に放つ。


「ガウ・・・っ?」


が、片方の機関銃から銃弾が出ることはなかった。

そいつはこの世から永久退場する前、一匹の狼は見てしまう。

遠くにこちらをスコープ越しに狙うもう一人の人間を。

・・・負けだ・・・。

そう悟った瞬間、1匹の命は天へと帰ったのだった。


隣の狼は、仲間が撃ち抜かれて死んだことを音で察する。

が、悲しむ暇はない。激情に燃える暇もない。

今は目の前の敵を倒す。それだけに集中していた。

機関銃から銃弾を飛ばす。

が、数と速度に比例し反動が大きい。

4本足がないと支えられないほど最高出力。


「舐めるなっ!」


イオリはワイヤー引っ張り、狼の横っ腹へと降りた。

銃弾は避けれたがワイヤーで手を傷つけ、着地で足を痛める。

が、気にしている暇はない。

機関銃の攻撃を避けきれた今、やるべきは自己の治療より敵の排除。

地面から刀を抜き取った。


刹那、頭に電流が走るかのような感覚が走った。


一つの最低で最高の作戦が思いつく。

迷っている暇はない。

決断は瞬時に、対応は素早く。


「各自!自己防衛に集中!」

「まさかっ!てめぇっ!?」


イオリは刀を振りながら残りの三人に指示を出す。

アオバはイオリが何を始めるかに気づいた。

道路の端へとすかさず走り出す。


「カエデ!そいつを盾にっ!」

「もう!勝手言ってっ!」


カエデもイオリのすることを察し、モンスターの巨体に体を隠す。

準備は整ったとイオリは悲鳴を上げる体を無理矢理に動かし、目の前の狼の足を真っ二つにした。


それだけでは終わらない。


イオリは刀を回し、峰を下にし、上段の構えをとる。


「・・・お座りっ!」


狼は体を支えられず、上からの衝撃により地面に倒れてしまった。

その体につく機関銃の銃口が上から下へと向かう。

その先には・・・


「・・・グルぅっ!?」


中央にいた一回りでかい狼がいた。

毛皮と言い、見ただけで他とは格が違うのがわかる。

イオリはこいつは三人でギリギリやれないと思っていた。

けど目の前に丁度よくあの毛皮を撃ち抜き、ダメージを与えられる武器がある。

問題は弾数だが、数発とてスキができれば十分。


機関銃の弾数が空となった時に三人は即座に動き始めた。

各自がするべきことをし始めた。


イオリはまず右の狼の首を斬る。

そして目の前の敵へと足を進める。

カエデはイオリが来るまでの時間稼ぎをしなければならない。

痛みで唸る狼の顎を手元の銃で撃つ。

反撃しようと、狼は腕を振り上げた。

しかしそれは、アオバの脳みそへの狙撃により止められる。


ここからは物量。


二人は残弾数を気にせず撃ちまくった。


「ワオオオオォォォォォォぉぉぉんんっッ!」



狼は吠える。

気迫で、威嚇で、鬱陶しい人間共を止めるために。

のぞみ通りに、二人は止まった。

向かってくる銃弾は止んだ。


が、人間二人の表情に疑問が残る。

自分の下にいる雌は何故か勝ち誇ったような顔をしているのだ。


鬱陶しい、また腕を振り上げると・・・


「何吠えてる?・・・犬っころ。」


視界が反転する。

視界の真上には地面。

首をはねられたと認識したとしても時既に遅し。

最後の狼はその場に、敗者のごとく、無様に倒れた。


結果は出た。

実質、四人は戦場で生き残ってみせたのだ。

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