シーズン1 彼らの帰宅
四人の男女が、ひび割れた道路を駆けている。
全員なりふり構わず全速力だった。
理由はごく単純。
後方には2m近くの背中から銃を生やした狼が襲ってきているのだ。
数は5。それに対し四人の人間。
その上、一人の武装は黒刀に、なんの変哲もない安物の改造済みの拳銃。
2人目の武装はサバイバルナイフに変わらず、同じ拳銃。
これに関しては、過去の滅亡した高い科学技術を誇る文明の跡地を舐めているとしか思えない。
実際、この白髪の少女は黒刀の少年を盾にするかのように位置取っていた。
しかし今、どうこう言っても詮無きこと。
事実、この中で一番防御力が低いのは彼女だ。
黒刀の少年はそれを分かってか、文句を言わずに少女を守ろうとしていた。
3人目に至ってはあまりに舐めきっていた。
一見武装はしっかりしている。
連射可能で反動が少ないことで有名な対生物用突撃銃。
それに貫通性を高めた大口径対物ライフル。
銃弾も特注品で恐らく金属装甲を装備していない危険区域c以内のモンスターなら難なく倒せるだろう。
向かってくる狼は丁度危険区域cからきた防御力がほか個体より弱いがアクロバティック能力の高さが危険とされる『プレテンス・ウルフ』。
倒すとなれば余分なほどの装備だ。
だが問題がある。
当人の筋力、そして身長だ。
この三人はまだ満11歳の子供。
走りながら大経口ライフルを自由に扱えるほど、体が育っていないのだ。
実質、ここで動けるのは黒刀の少年と、最後の一人180cmの身長を持つ青年だけだった。
「イオリっ!てめえ、近接得意だろうがっ!
さっさと駆逐しろよっ!」
重装備の少年が黒刀の少年『イオリ』に怒鳴る。
イオリは少しでも体力を温存させるために、静かに呆れながら返答した。
「アオバ、お前、馬鹿か。
俺みたいなチビがあの犬の動きを容易に捉えることなんてできるわけ無いだろ。
本当に出来ると思ってるんだったら、一度その脳味噌にあの犬どもに頼んで穴開けてもらってこい。」
「犬じゃなくて狼よ。」
「カエデ、今はそこにツッコまないの。
頼むから安全なルートを早く見つけて。」
「りょ。」
白髪の少女・『カエデ』はニコニコと微笑んで、それを承諾する。
彼女はカチューシャとして取り付けている機械を彼女の皮膚感覚、聴覚、視角の拡張と処理速度を広げ、一定範囲を探る能力を補助するために起動し始めた。
「てめぇがいつまで経っても雑魚だから苦労してんだろ、イオリ!
今回は前衛になってんだからちゃんとやれやっ!
そして噛み千切られて時間稼ぎやがれ!」
普通なら、これで彼女が安全な帰宅路を探し出し、無事彼らのアジト・孤児院『アガサ』まで帰れるはずだった。
が、予想外の追いかけっこ。
アオバはストレスに耐えられずいた。
「あぁ、確かに今回、俺は前衛を担当してるよ。
あいつらと一対一で戦うのは俺の役目だろうさ。俺の仕事だろうさ!
だから囮にもなって噛み千切られるのは俺のするべきことなんだろうなぁ。
けどな・・・それはまともな後衛が機能してたらの話なんだよ!」
「あぁっ!?俺が悪いってのかよっ!」
二人は残りの二人を気にせず、しかし足は止めずに言い争う。
「当たり前だろ。勝手に一攫千金狙って前に出て、危険区域bから余計な化け物連れてきたバカを、どうやってまともな後衛と思えばいい?
お前のせいでこっちは徹甲弾すべて失って散弾銃は木っ端微塵。
唯一の銃は壊れかけの改造済みの拳銃。
お前さえ勝手しなかったら壊れることはなかったんだよ!
責任とってアイツらの餌となって時間稼いでこい。」
目にまでかかる前髪を揺らしながらも、アオバに悪態をつく。
基本、彼は自己評価が低いため、どんな人にも敬語で接するがアオバに対しては長い付き合いで何故か敵視されているため、敬意のかけらも持っていなかった。
「はっ!あれはお前が俺の指示を聞かなかったからだろうが!
あんな目の前にあって、少し行けば手の届くところにあるのを取りに行かないなんてハンドーじゃないっ!
と言うかな!お前が俺に従ってたらモンスターは来なかったし、異宝は手に入ったんだよ!
それにてめぇはもうまともな武器はその刀しかない。
だからてめぇがアイツらの野糞になってこいっ!」
異宝、それは滅んだ過去により創り上げられた、滅びても朽ちらず存在する高文明の残り物のこと。
それは現代では再現不可能で、高性能な武具やアクセサリー、服や機械など、物によっては高価に取引されていた。
彼らは名目上、それ等を求め、それ等があるとされる古代の都市『古代都市』を探索する『ハンター』。
が、現在、古代都市の旧人類が残した人を襲う化け物や機械『モンスター』に襲われている最中。
ハンターや現代都市の者たちからすればモンスターすらも異宝の一部。
討伐に赴くことも彼らの商売の一つだが、イオリたちには荷が重くモンスターの討伐は後回しにしていた。
「・・・はぁ〜、これなら始めから異宝じゃなくてモンスター狙いできたほうが良かったわ。
命令違反者と異宝探索は本当に無謀だよ。」
「あんな間近の異宝を狙わない未熟なハンターなんてこっちから願い下げだ!
トレジャーハンターならトレジャーハンターらしく俺の支持に従ってろ!」
モンスターを狙うものは『モンスターハンター』
異宝を狙うものは『トレジャーハンター』として、ハンターは分けられている。
イオリは好戦的ではないため、トレジャーハンター志望。
アオバもどちらかといえばそちらなのだが、異宝を前にして動かないイオリに不満を持ってしまった。
そして命令違反。
モンスターに追いかけられるこの結果は、二人の意見の不一致によるものだった。
古代都市には現代の解析技術では解明できないほどのモンスターが数多くいる。
それこそ鍛え抜かれた大の大人でさえあっさりと死んでしまえるほどの強さ。
それをわかっいるのにハンターを志望する三人。
彼らを鍛えるために、孤児院の院長の理不尽な命で、3人を訓練として古代都市の探索へと駆りだした。
つまり今回の訓練の建前は実力向上。
イオリは今訓練のリーダしての役割がある。
だからどんな異宝があろうとも危険な領域までは足を突っ込まないと決めていた。
しかしアオバが欲を優先した結果、彼らは命の危機に陥った。
どんな策略があったとしてもそれは変わらない事実。
だからイオリとしてはアオバにキレていて、アオバはイオリにキレていた。
「お前ら!言い争いしている場合か!
口動かす暇があるならこの状況を打開する作を考えろっ!」
「・・・。」
「・・・チッ。」
その監督役として任命された青年『ノア』は、走りながら後方に銃撃し、二人の口喧嘩を叱責で止める。
二人も現状では無駄だとはわかっていたのだろう。
走ることに集中し始めた。
「で、どうする気?まさかサリアン城塞都市につくまで、この追いかけっ子を続ける気なの?」
カエデは二人より早く走りながら、アオバには目もくれずイオリに話しかける。
サリアン都市とは城壁に囲まれた中央から外側に向けて裕福な貴族の住む『貴族街』通称『裕福層』、『庶民街』通称『一般層』、『貧民街』通称『貧困層』、最後に『スラム街』と『工業地帯』と『ハンター専門区域』となっている。
一応、中央部では一番デカい都市である。
四人の住む孤児院『アガサ』はその貧困街に位置している。
そしてそこまで、四人のいるところから約45km。
体力的に逃げ切れる可能性は10%ぐらいしか存在しなかった。
イオリは自分の頬を叩き、気合を入れ直す。
「ノアさん、一つ聞きます。
今回、貴方はお目付け役。
この逃避行に手を貸すことはないんですね?」
「そうだな。基本的にはお前らが命の危機に陥るまでは手を出さない。」
「了解です。」
イオリの雰囲気が変わる。
それを少年少女二人は感じ取り、さっきまでの喧騒を静めた。
それにノアはいつも驚かされる。
3人のスイッチの切り替え後のその気迫。
無意識のうちだがそれはハンターのそれだった。
「・・・カエデ、敵の増加、そして俺が捉えていない敵の位置だけ報告してくれ。」
「了解。」
カエデは片手の拳銃をしまい、背中にしまってあった情報端末を手にした。
空にいくつかのドローンを展開する。
「アオバ、せっかく上等な武器持ってんだ。
接近してでも撃ち殺すこと。
一応言っとくけど、間違っても俺に当てるなよ。
俺を殺した場合、お前の枕元に化けて出てやるからな。」
「・・・チッ、了解。」
イオリはアオバが殺気をモンスターに向けるのを見て密かにため息をつく。
このアオバの気持ちの入れ替えの速さある種の才能。
そこは認めなければならない。
その上、彼の戦闘技術が絶え間ない努力により磨かれている。
それを知ってるからか、実力は認めざるおえなかった。
だからこそたちが悪い。
イオリは完璧にアオバのことを嫌いになれないでいた。
「いつもどおり、3秒数えたら殲滅を始める。
各自走りながら覚悟しろ。」
3人とも、足並みを揃え一列になる。
最後尾にイオリ、真ん中にカエデ、最前列にアオバ。
「3・・・2・・・1・・・。」
月光により黒い銃が光る。
三人の目は後方の化け物へと向いた。
「散っ!」
イオリは刀を抜き、自分よりでかい狼へと斬りかかった。