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彼女の命と億万の命  作者: 春夫
12/13

依頼

「巡回依頼なんて3年ぶりだなぁ〜。」


城壁付近のある荒野。

そこにはイオリ、カエデ、サン含める十人のハンターが都市防衛のため巡回を行っていた。


「思い出に浸るのはいいけどここはもう都市外、油断は禁物よ。」

「分かってる。ちゃんと索敵は怠ってないよ。

逆に装備を試したいから張り切ってるまであるほどだから。」


三人はハンターランクの上昇のため、都市からの依頼を受けた。

それが都市周辺の巡回防衛。

モンスターによる城壁への危害を防ぐため、都市は3日に一度定期的にこの依頼を出す。

報酬は戦闘の有無に関わらず一定額が約束されている。

その上、討伐したモンスターのランクにより上乗せ有り。

運が避けれモンスターとも出くわさないことがあるので、お金も手に入り、命の危険性も少ない。

ハンターとしては都合のいい依頼だった。


「そういえばイオリの装備、充実しているな。

この前の訓練では見なかったが新調したのか?」

「まぁね、一週間前に買ったのが昨日届いたんだ。

突撃銃に散弾銃、拳銃に加えリボルバー、刀だって修理済み。

これでようやくまともな戦闘が出来るよ。」


イオリは黒の迷彩服の上に、ニックから購入した武器のすべて装着していた。

前までの訓練ではナイフや拳銃ぐらいしかなかったため、サンは久しぶりにイオリのフル装備姿を見る。

背の問題もあり、子供が背伸びしたようにしか見えないが、実際の実力を知っているサンは闘志が燃えていた。

しかしいまは依頼の最中。

ここで勝手に戦闘を始めるわけにもいかない。

今度はカエデの装備に目を向けた。


「カエデは変わらないな。いつも軽装備だ。」

「拳銃2丁にナイフ2本。グレネード5個に突撃銃1丁の何処が軽装備に見えるのよ?

危険極まりない装備だと思うでしょ?」

「まぁ、それもここみたいな荒野や古代都市ではって話だ。

俺やイオリは近接戦を得意としているが、カエデはそうではないだろ?

刀や斧みたいにゴツい獲物を持っているわけでもない。

俺は別に気にしないが、カエデはそんな装備で安心するのか?」

「大丈夫よ。私にはすんばらしい索敵能力があるから。

だからこの拳銃一本でも充分なの。それに私は瞬間火力なんて持ってなくても生き残る実力はあるわ。」


確かにカエデの装備は周りのハンターと見比べると見劣りするものだった。

突撃銃からは特に強さも感じられない上、狙撃銃すらない。

女ということもあり、見るからに筋力もなさそう。

外見は都市外をなめているとしか思えなかった。


「みろ、自分すごいアピールだ。

やだねぇ〜、最前線出る気まんまんだよ。まるで野蛮人。」

「イオリ・・・私が何だって?」

「はい、黙ります。ゴメンナサイ。」

「イオリ・・・お前は弱いな。」


3人はお互いに談話して時間を潰す。

他のハンターも知り合い同士で談話しているのもおり、非常識というわけではなった。

しかしギルド職員の目がこちらに向いているのを3人は見逃さない。

ギルド職員としては仕事一つ一つにハンターの監視も含まれている。

それはランクを上げる審査も兼ねており、子供のハンターともなればちゃんとした実力を確認しなければならない。


「5番6番7番!モンスターの位置情報送れ!」


低い番号順にイオリ、カエデ、サンと当てられていたため周りのハンターが何だ何だとイオリたちに注目する。

イオリとカエデは言われた通り、ギルドから借りた情報端末でモンスターの座標を送った。

サンも遅れながら同じ情報を送る。


「・・・よし、次!1番2番!送れ!」


ギルド職員は彼らの情報が間違っていないと確認し、仕事をおろそかにしてないと納得したのか、特に何も言わず、次のハンターへと情報提示を命令した。

鋭い視線が他所へ行ったことで、イオリとカエデが一息つく。


「なんで番号順じゃなかったんだ?」

「ん?抜き打ちチェックじゃない?真面目に仕事やってるのかどうかのさ。」

「目つけられるのも面倒だし、少しおとなしくしておきましょうか。」

「・・・そうだな、一応仕事なんだから真面目に取り掛かるとするか。」


サンが警戒心を強くする。

イオリも仕方ないかとぼやき、銃を握る力を強めた。


「集中力が早く途切れた人が晩ごはん奢りね。」

「よっしゃ!サン!本気でやるぞ!」

「勿論だ!今夜は回らない寿司屋に行くとしよう!」


依頼は順調に問題もなく進んだ。

高ランク帯のモンスターの襲撃もなかった。

依頼中、余裕のできたカエデは周りのハンターの話に耳を傾ける。


「最近、また古代都市の機能が復旧したそうだぜ?」

「そういえばギルドで噂になってたな?信用性はあるのか?」

「あぁ、この数日でギルドに危険区域bで見つかった異宝が複数回売られたらしいからな。因みに新しい機械系のモンスターの目撃情報もあった。

ほぼ間違いないだろ。」

「・・・被害件数はわかってるだけでも何件なんだ?」

「なんと6件!中には組織で動いたものもいるそうだ。」


カエデは彼らの会話を聞いて考え込む仕草をする。

なにか思いついたのか、イオリの頭に手を置いた。


「なに?」


イオリの嫌な予感が働く。

しかし身に上下関係を叩き込まれているイオリは逆らえないため期限な顔をするだけだった。


「北西方向、約440m先、ヘイケコウコガニが3体、こっちに気づいてる。

周辺に他個体の反応なし、撃ち殺してみて。」

「・・・?・・・了解。」


イオリは言われた通りに3体を撫でるように撃ち殺す。

突然の発砲、周りのハンターは驚愕するが、撃ち抜いたほうを見てモンスターがいたことに気づき何とか冷静を取り戻した。

ギルド職員も慌てて成果を確認する。


「・・・5番、なぜあんな遠くのモンスターを討伐した?」

「何故って・・・向こうはこっちを狙っていた上に、周りにモンスターがいないかったからですかね?

それに討伐出来ると確信があったので撃ちました。

あの、なにか問題・・・ありましたか?」

「「「「・・・。」」」」


周りはまたも驚愕する。

イオリの答え方には余裕が感じられた。

400m以上先のモンスターに気づくものそうだが、何事もなかったかのように撃ち殺すその射撃能力。

3発で人間以上の巨体を持つモンスターを3体討伐した事実的証拠もあり、一発の撃ちこぼしもない。

これが自分より身の丈の低い、イオリの素の実力なのだと、周りのハンターは理解した。


「・・・いや、問題はない。引き続き頼む。」

「はぁ、了解しました。」


イオリは周りの反応のぎこちなさに疑問を感じるが今は仕事中。

気持ちは抑えることにした。

横のカエデに一応どういう事か聞こうとしたが「これなら・・・行けるか・・・行けないかも・・・難しいか・・・」とブツブツ独り言を呟いている姿が怖くて止めた。


「イオリ、自分のこととなると鈍感になるのはいつも通りだな。」

「え?何いきなり?」

「全員、イオリの歳と実力が合ってないことに驚いたんだ。

ヨシアさんが言ったとおり、そろそろ自分の実力が人間離れしていることに気づいたほうがいい。

・・・ほら、面倒が押し寄せてきたぞ。」


サンがイオリに近づいてくるハンターを見て苦笑した。

イオリもなるほどと納得して、一瞬嫌な顔をした。

しかし失礼のないようすぐ表情を戻す。

イオリより何十歳も年上のハンターが愛想良く話しかけてきた。


「よ、俺は1番のサムア、お前強いんだな、驚いたよ。」

「5番のイオリです。俺みたいな射撃能力欲しいなら突撃銃一つで、一週間泊まり込みで古代都市探索してみてください。

簡単に手に入りますよ。」

「それに命の保証は?」

「皆無です。1000回は死にかけることを覚悟してください。」

「なら俺には無理な話だ。」


笑いながら互いに手を握る。

どちらともの表情は笑っているのに、警戒は一切緩めていなかった。

お互いにどんな人物が探っていたが、両者とも隠すのが上手く、感じさせないでいたのだ。


「・・・見た感じ、イオリには高性能な索敵機はないようだが、あんな距離のモンスターどうやって見つけたんだ?

なにかいい商品でも売ってるなら教えてくれ。」

「ド直球ですね・・・まぁ、別に良いですけど。

でもサムアさんには必要ないんじゃないですか?

腰の4機のボール、それ索敵用のドローンですよね?

しかも見た感じ、迷彩機能付き。それほどの代物持っているなら大丈夫ですよ。」


サムアの腰の4機のボール型機械を指差す。

イオリが自身の武具の性能を言い当てたことに、サムアの顔が一瞬歪んだ。

イオリはそれを見逃さなかったと言わんばかりに眼力を強める。

しかし敵意はないと微笑んだ頬を戻すことはなかった。


「・・・それがそうでもない。古代都市のモンスターには迷彩が効かないやつが多いんだ。

一応これもそこそこ高価なやつだが、本体だけ高くても意味がなかった。

都市側のネットワークから専用の馬鹿高いソフトのダウンロードする必要があったんだ。

とんだ不良品を買わされたよ。

俺としては今年のうちに、そのソフト分の予算を稼ぐつもりなんだが、もし求めている物より高性能なやつが売ってるならそれを買いたいんだ。」


サムアが少し敵意を見せる。

それはもう自分に探りを入れるな、端的に言うなら利用しようとするなと言っていた。

イオリもそろそろ窯掛けは限界だと直感する


「なるほどなるほど、だから俺の探索機を聞きに来たんですね。

あわよくばそれで楽しようと・・・いやー、さすが先輩。

俺もハンターとして見習うべきですね。」

「皮肉が入っているような気がするがそのとおりだ。教えてくれるか?」

「無理ですね、あ、これは意地悪言ってるんじゃないですよ?」


にらみ始めたサムアをなだめるために、両手を上げて訂正する。


「俺の探索機、平面なら500m先まで索敵出来ますけど、まともな精度でないんです。

いることは分かりますが、その特徴までは捉えられない。

迷彩機能を見抜く事できませんし、少しでも隠れてたら表示されません。

高価なソフトを入れても同じでした。

俺もさっきはモンスターがいると分かっただけで、後は撮った画像を別端末で解析して、スコープ越しに確認したんです。

俺のオススメしたもので死なれても後味が悪いだけなので申し訳御座いません。

教えるのは勘弁してくれません。」


サムアはまだイオリの探索機を目にしていない。

そのため、イオリの言葉の真偽を確かめられずにいた。

一応、密かに探って見るがそれらしい反応はない。

単に今までの全て嘘なのか、高度な迷彩機能付きなのか、それともイオリの体内に索敵用ナノマシンが組み込んでいるのか。

いや、最後の2つだったとしてもイオリは嘘をついていることになる。

しかし当のイオリからは嘘をついている様子は感じられない。


得体のしれないと不可思議存在を見つけたことにサムアは喜んだ。


「そうだな、・・・うん、もう探索機は諦めることにする。」

「それは良かった。自分の命は大切にしてください。」

「あぁ、そうする、だから・・・イオリ、俺と組もうぜ!」

「・・・は?」


イオリの口から呆れ半分、驚き半分の声が出る。

サムアは楽しそうに笑いながらイオリの肩を掴み出した。


「俺な、どんな物事にも保障が欲しいんだ。

お前のさっきまでの度胸と話術、そしてモンスターを撃ちこぼしなく撃ち殺したその射撃能力!

見た目からも筋力はそれなりにあるのがわかる。

そんなお前なら充分に古代都市探索の成功確率を底上げできるはずだ!

それに俺と共に来るなら依頼の報酬も必ず全部半々で分け合うと約束しよう!

どうだ?いい条件だろう!俺と組まないか!」


勢いが凄まじかった。

流石のイオリもすぐに拒否はできなかった。

しかしこのまま黙っていればパーティーを半ば強引に決められることは事実。

冷静になるためにある質問をする。


「俺のメリットはそれだけですか?」


余計なことは何も言わない。

何を相手が求めているか見抜く力もハンターには必要だからだ。

イオリはその実力があるかサムアを試す。

サムアは少し考えるような仕草をして、頬を引き上げて笑った。


「イオリ、お前はハンターとはいえまだ子供だ。

世の立ち回り方は知らないだろう?

世の常識、お金の使い方、女の買い方・・・色々教えてやる。」


イオリはの顔は喜びではなく恐怖の顔に染まった。

何故が疑問に思う。

サムアとしては別に脅しをしたわけではない。

この台詞の中に従わなかったら酷い目に会わすぞと言う意図は含めていなかった。

殺意すら一ミリも入れてない。

逆に男なら喜ぶであろう条件を提示したつもりだ。

なのにこの顔。

理由は何か・・・。

それはすぐに判明した。


「ちょいちょい、そこのおじさん。

私の彼氏をナンパするのやめてもらえないかしら?」


イオリの肩に手を回すカエデ。

その顔に鬼を宿していたのが、サムアは感じられた。

イオリの体はビクリと震える。

顔は見るからに青くなっていくのを見て、へ〜と察した声を上げた。


「なるほど、尻に敷かれてる訳か、イオリ。」

「・・・逆鱗に触れたら調教する性格じゃなかったら心の底から惚れてました。」

「イオリ、誰の許可を得てナンパされてるの?」

「え?まって、理不尽すぎない?」

「これはお仕置きが必要ね。」

「え?ちょっと待って!人がいる!人が居るって・・・っんっ///!?」


イオリは肩を掴まれたからか体の自由をカエデに掌握された。

故に近づいてくる唇を拒否することはできない。

周りのハンターが見てる中、行為処刑のようにイオリとカエデは接吻した。

舌がイオリを襲っているのも見てわかる。

周りの女のハンターは顔を赤らめて「キャーッ///!」と声を上げ恥ずかしがっております、男のハンターは「うわ、舌入れてやがる。」と若干引いていた。

10数秒。それはチュポンッと終わりを告げる。


「・・・で、まだイオリに何かお有りで?」


カエデは目を細めて、表面は無害な少女のように尋ねる。

彼女から滲み出る殺意。それはサムアがイオリを諦める十分な理由となった。


「いや、もうないな。イオリ、無理を言って悪かった。

俺の言ったことは全部忘れてくれ。機会があったらまた会おう。じゃあな。」


カエデの圧に負け、そそくさと帰るサムア。

カエデは一息ついて、イオリの肩を掴んでいた手を離した。

イオリが膝から崩れ落ちる。

サムが彼のそばで屈み、苦笑しながらこう言った。


「鈍感というのは結構重い罪だったようだな。」

「・・・途中で・・・助けてくれても・・・良かったじゃん。」


イオリは羞恥心に耐えるように蹲った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ハンターランク4へと上昇されました。

引き続きハンターとしてのご活躍、お祈り申し上げます。」

「ありがとうございま〜す。」

「「・・・。」」


三人は依頼達成の報告のためギルドへと足を運んでいた。

現地にいたギルド職員の報告書を元に、3人のランクは上昇する。

イオリたちは返されたハンターカードを手に取った。


「じゃ、晩飯食べて帰りますか。」

「そうね・・・結局奢るのは誰になるのよ?」

「よくわからないなら各自支払うってことでいいんじゃないのか?」


貧困街の中を武装を取らずに歩く。

時間帯は夕方。

屋台も出始め、賑わう一歩手前だった。


「・・・取り敢えずお肉食べたい。スペアリブ・・・。」


イオリが匂い任せに夜市を探る。

これはイオリが今晩の飯屋を探すのだと確信し、二人はイオリにすべてを任せた。

サンは暇となったのでカエデと雑談を交わす。


「最近、ギルドの方で遠隔操作出来る設置型の戦闘機の異宝が数機売られたらしいぞ。

他のハンターもそれを狙って動き始めているとのことだ。」

「らしいわね、それが?」

「ヨシアさんが訓練で俺達を行かせるには丁度いいと言っていたんだ。が・・・向かったハンターの殆どが大きな被害にあっている。」

「まさか怖いっていうんじゃないでしょうね?」

「怖くないわけがないだろう?

俺はまだお前たちとは違って経験が少ない。

俺としては行くべきか悩んでいる最中なんだ。」


ヨシアとノアは古代都市内訓練だけ自由参加としている。

理由はごく単純、死ぬ可能性が大きいからだ。

もちろん彼らも最大の護衛はする。

しかし古代都市は荒野とは違い、危険と隣り合わせ。

100パーセント守れるとは限らない。

逆にその確率が低いのだ。

だから命を失う覚悟のあるものだけが参加する。

その方式を二人は採用していた。


サンは自分を過大評価しない。贔屓目も持たず自分を判断する。

そのため次の訓練はまだ自分には難しすぎると判断した。


「俺の考えでは生き残る確率は五分五分。

・・・正直、恥ずかしい話だが、共に行く奴の実力に頼れるのが前提じゃないと少し怖いと思っている。」

「なら行かなければいいじゃない。」

「別に異宝目当てというわけではないんだ。

だが純粋に古代都市探索に行きたい気持ちが強いんだ。」

「探索したいから行く、ハンターらしくていいんじゃない?なら行ってみれば?」

「だからといって別に命を無駄にしたいわけじゃない。

無茶無謀をして生き残れる自信は無いんだ。

カエデはそこら辺の千疋が得意だろう?

だから聞きたい。俺は行くべきだと思うか?

それとも行かないほうがいいか?」


しかし彼も人間。自分の実力が低かろうと、高い壁は登っていくもの。

カエデはサンに観察するような視線を向けて答えを出す。


「そうね・・・まぁ、大丈夫とは言わないけど私としては行きたいのなら行けばいいと思うわね。

いくら死ぬ確率が高かろうと、結局それは時の運。

それに、安全マージンをちゃんと取っているハンターが死ぬときって大体、恐怖に負けたときか、欲深くなったときのどちらかよ?

貴方は深追いするほど欲深いわけじゃないし、恐怖には立ち向かっていく性格でしょ?

死ぬことを気にしても切りがないし、好きなようにしたらいいんじゃない?

一応言っておくけど、私とイオリは躊躇なくその訓練に参加するわ。

遅れを取りたいなら参加しなくてもいいわよ。」


カエデはサンを励ます。

勇気を出すための背中を押した。

サンの不安によりこわばっていた表情がやわらかくなる。

最後の子供らしい煽りにより、サンは笑顔を取り戻していた。


「そうだな、行かなければまたお前たちとの差が開くことになるか。

・・・うん、行くことにしよう、そちらのほうが何より楽しそうだ。」


カエデはまるで娘を見守る母のように微笑んだ。

親を見たことがないサンは、カエデの美貌が重なったことでなんとも言えぬ恥ずかしさが湧き出るのを感じた。

これがカエデの魔性。


「・・・それはわざとなのか?」

「もちろん。世の中をうまく渡るには一番適したのがこの力。

こっちの面は結構鍛えたわ。数年使ってなかったけど純情なサンに効くならまだ私のこれは衰えてないってことね。」

「いつか後ろから刺されなければいいな。」

「愛している人がいる相手にするわけないじゃない。

私、そこまで非常識じゃないわよ。」

「そっか、それなら安心だ。」


得体のしれない女子。これがサンの評価だった。

しかし拭えない確信がそこにはある。

それはカエデはとても優しい女の子だと言うこと。


「あ!カエデ!サン!あそこ入ろう!この時間帯からたくさんの人入ってるし、それにこの匂い!美味しくないわけがない!」

「こら、イオリ!あまり騒がないの!」

「肉〜!肉〜!肉ぅ〜!」

「お腹減ると本当にいつも子供っぽくなるわね。」


そしてカエデの想い人はイオリであること。

これは絶対不変。目の前のカエデの笑顔を見ればそれはひと目でわかることだった。

サンもカエデの魔性にやられた人間の一人。

けど、彼は素直に諦めた。

それが自分にとっても、彼女にとっても、イオリにとってもとてもいい選択だったから。


「そう言えば二人は肉料理でいいの?

俺が食いたいもの選んじゃったけど。」

「別にいいわよ。いつものことだしね。」

「俺も肉を食べたかったからいいぞ。

それにイオリの選ぶ店にハズレはないからな。」

「フッフッフ、楽しみにするがいい!

もし美味しくなかったら明日のご飯、なんでも奢ってやる!」

「「ならA級グルメ店にいきますか。」」

「おっとぉ〜?お二人さんには遠慮というものはないのかな?」


それにイオリは親友。

劣等感があろうともそれは変わらない。

彼らは笑い合いながら夜の街へと消えていった。

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