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彼女の命と億万の命  作者: 春夫
11/13

これから

少年少女は荒野の中で訓練をする。

足の取られる砂の上を走り込む体力増強訓練。

ゴム弾を装填した銃を持ち互いに撃ち合い避ける反射神経強化訓練。

筋トレや柔軟体操による肉体強度訓練。

ナイフや刀、銃による手合わせで近接の戦闘訓練。


少年少女の努力により、太陽きらめく空のもと、合計6時間で終了を告げた。


ノアとヨシアは倒れて呼吸を乱す子らを一列に並べた。


「えー、まぁ、お疲れとだけ言っておこう。

しかし慣れる事だ。この訓練は最低でも週に3回は行う予定となっている。」

「「「「・・・。」」」」


子供達は正直だった。

見るからに舌打ちするもの多数。

苦笑するもの少数。

いつものことなのでノアが腹を立てることはなかった。


「質問いいか?」 

「ん?なんだ?」


アオバが手を上げる。


「なぜ今日はこんなにも本格的な訓練だったんだ?

今までは違うという気はないが、ここまで厳しくはなかったし、こんな平均的実力向上要訓練はしなかったはずだ。」


彼らは首を縦に振り、不満を露わにする。

今までの訓練では彼らにとってキツくはあった。

しかしそれは本人がしたい事をして、会得したい技術を中心に訓練していたのだ。

それが今回は全体的な実力向上を主にした。


彼らの疑問を持つのは仕方がなかった。


「流石に気づいたか。ヨシアさん。どうしますか?話しますか?」

「・・・そうね、この子達なら知っていたほうがいいわね。」


ヨシアはノアの横に立ち話し始める。


「貴方達、今いくつ?」

「「「今年で12。」」」

「「今年で13。」」

「・・・あれ?俺って12だっけ?」

「「「「「イオリ・・・。」」」」」

「や、やめろよ、その哀れんだ目!

まだボケてきたわけじゃないから!

気にする暇がなかっただけだから!」


セリカとカエデ以外全員12歳。

イオリは日々の苦労のせいか、自分の歳を忘れていた。

ヨシアはまぁまぁ、とイオリをなだめる。


「7人とも、もう12歳前後。

5年間ぐらい続けているから、客観的に見ればハンターとして若手の部類ね。

けど、貴方達をランクも合わせて見れば初心者でしかないの。」

「・・・確か私達の今のハンターランクは・・・。」

「お前らは3だ。初心者中の初心者のレベルとされている数字だ。」


カエデの質問にノアが答える。


「疑問に思わなかった?なぜ私達が貴方達のランクも上げず訓練ばかりさせていたか。」

「・・・よく考えれば俺達はランクを上げようとはせず、いつも戦闘能力の向上に努めていたな。」

「そうだね、私達はとりあえず生き残れるためだけの力はつけないとって、我武者羅だったね。」


ヨシアの言葉にはサンとセリカが納得した感じの雰囲気を出す。

二人にとってランクはあまり重要なものではなかったため、気にしていなかったのもあり教育方針に怒りはなかった。

しかし逆に、依頼を訓練としてしてこなかったアオバとアルクは不満有りの顔をした。

しかし彼らは何も言わない

だって選択権は彼らにないのだから。

そんな彼らの中でサツキがある疑問を口にした。


「確か、イオリは何度か古代都市に行ったことあるんしょ?

依頼の難易度はしょぼくても数は多いのに、なんでランクが同じなわけ?」


イオリは嫌な思い出を刺激されたせいで顔を歪ませながら説明する。


「全部豪鬼さんの手柄にしたんですよ。

名目上は俺。報酬も俺。

だけど手柄は豪鬼さん。

死なずに小金稼いで行くにはこれしかなかったんです。」


イオリの言葉にアオバが「なるほど。」と呟いた。

イオリはアオバの反応が引っかかり、なにか心当たりでもあったのかと聞く。


「イオリ、お前は気づいてないだろうがギルドでハンターの面汚しって噂になってるんだよ。」


ギルドとはハンターに直接依頼を届ける依頼斡旋所と異宝、もしくはモンスターの素材買取所が一緒になっている場所のことを言う。


アオバはモンスターの生態系、機械系モンスターの出現率と場所を調べるためにギルドに通っている。

依頼の情報から逆算して統計しているのだ。

その最中、イオリの噂を聞いた。

実力派のハンターOBの背中に隠れて異宝をくすねていると言う噂を。


「あ、私もイオリは誰かを盾にする事しか出来ない卑怯者って聞いたことある。」

「・・・散々の言われようね、イオリくん。なにか否定しないの?」


サツキが賛同したことにより、ヨシアはイオリの評判が悪いのだと確信した。

事実的に馬鹿にされているイオリはなんともない顔で肯定する。


「まぁ、その通りなので特にはないですね。

古代都市の危険区域c探索は豪鬼さんの背中に張り付かないと生き残れなかったのは事実です。

今まで手に入れた異宝だって豪鬼さんが見つけたのを分けてもらったのがほとんどですし・・・うん、否定できる要素がない。」

「その謙虚さは美徳ね。

けど今の実力ぐらいは把握しておきなさい。

貴方ならもう危険区域cぐらいは探索が出来る強さを持っている。

もし悪評も訂正せず、成果をあげたなら同業者に逆恨みされて殺されるわ。

これ、先輩ハンターとしてのアドバイスよ。」


ヨシアの言葉には説得力があった。

それもそのはず。

彼女は間近で同業者に撃たれ殺されたハンターを見たことがあるのだから。

それがもし親しき仲だったのなら、尚更彼女の言葉には重みがある。

子供たちは彼女の言葉を無意識の内に受け止めた。


「って、話が逸れたわ。

貴方達のハンターランクを上げなかった理由だけど・・・」


ヨシアは自身のタブレットを操作してある画面を彼らに見せた。


「貴方たちの名声を高めるためなの。」



その画面には古代都市の異宝を求める企業の傘下に入った記事が載っていた。

ハンターについての情報も乗っている。



名は『エド』

彼は一ヶ月に渡りサバイマイヤ古代都市から一ヶ月に渡り端末機、小型撮影機やドリルなどの工作機械を安定して売却したことから大企業から専属ハンターの要請が殺到。

安定収入、武力確保、都市における最大権利を会得した。


「ハンターとして有名になるには殆どは異宝を見つけられるかどうかよね。

けどそんなのは時の運。

意図的に見つけるのは、古代都市のネットワークにアクセスできる旧人類を知り合いにするか、古代都市を管理するAIや人造人間と交渉するしかない。」


『旧人類』。

それは古代都市が滅びていない時の人類の血縁者、もしくは古代都市のネットワークに相互接続可能にする脳組織などのなにかしらを所持する者たちのことである。


彼らは都市や企業側からすれば1人いれば勢力を拡大、利益を倍増できる都合のいい存在だった。

そのため、過去には疑わしき者を監禁、洗脳、人体実験など非人道的な扱いがあると言うのは有名な話である。


「ヨシアさんは旧人類の知り合いいるんですか?」


イオリは挙手し、ヨシアに尋ねる。

彼女は少し考えて不敵な笑みを浮かべた。


「いないわよ。それらしいハンターや一般人の候補はあるけれど親しき中には居ないわ。

まぁ、もし居たとしても貴方達には情報は渡さないけどね。」


旧人類は強大な力を持つ。

故に存在に関する情報は高値で取引されるのだ。

最悪の場合、その情報のためだけに命を狙われることも珍しくはない。

都市側がそれを実行しているのだから、組織、企業もお構いなしに道徳的思考を除外してくる。

世の中でこれは常識となっていた。

実質イオリは今までの中で一番愚かな質問をしたのだ。

しかし、それも経験のうち。

その旨をヨシアは7人に伝えた。


「・・・俺らの中にいないなら別に大丈夫だと思いますよ。

この個性強い俺らが俺ら以外の友人を作れるとは思えないでしょ?」

「「あっ?喧嘩売ってんのか?」」

「アルク、アオバ、吠えるんじゃないし。事実でしょうが。」

「イオリの言う通りね。私達女子はともかく男子はどこに行っても嫌われるタイプよね。」

「え?俺もその中に入っているのか?

・・・俺はそんなにウザいのか。」

「安心しなさい、サンは暑苦しいだけよ。」

「カエデちゃん、慰めになってないよ。」


イオリの言葉に各々反応する。

一層増して騒がしくなった。

ヨシアは彼らの喧騒が、とても子供らしく、それでいて彼ら自身の仲の良さを体現したため、微笑ましく思った。

彼らなら仲間を売ることはないだろう。

確かな理由は目の前に存在した。


「はいはい、仲良しこよしは後でしなさい。話を戻すわよ。

ハンターが手っ取り早く有名になる方法だけど普通は異宝を見つけるしかない。

けど異宝なんてそう簡単には見つからない。

その場合、あなた達ならどうする?」

「・・・モンスターを倒す?」

「アオバくん、正解よ。

ハンターが異宝集め以外にする事といえばモンスター討伐。

しかし、自分のランクにあったモンスターを数回倒した程度で有名になるといったらそれは違う。

もしそうなら今頃ハンター全員有名人だからね。」

「・・・もしかして俺たちに賞金首モンスターの討伐をさせようと思ってるんですか?」


アルクが恐る恐る思いついたことを口にした。

その言葉に最悪を想定した子どもたちの表情が青ざめる。


「よくわかったわね。

そうよ。貴方達には訓練が終了したあとに貴方達だけで討伐に行ってもらうわ。

普通のモンスターを討伐しても知名度はさほど上がらない。

なら、普通じゃないモンスターを討伐すればいいだけの話。

そこで賞金首よ。

私達は出来るなら貴方達に幸せになる未来の選択をしてほしい。

そこで急激にランクが上がることを利用して、アホな企業と組織が好条件で傘下に入って欲しいと言ってくるのを狙う。

だからあなた達の最終的な目標は賞金首の討伐。

正直言って死ぬほどキツイから覚悟しなさい。」


ヨシアの言葉に子供達は文句を言わない。

内容からして自分たちを想っての事だと理解したからか、警戒はしても信頼している彼らは覚悟を密かに決めた。

ここまで面倒を見てくれることに感謝し、彼女たちの本気には本気で答える。


命がけを体験したことのある彼らにとって、そんな覚悟は容易であった。


「一応聞くけど、別に有名にはなりたくはないと思っている人ー?」


イオリとカエデが手を上げた。


「「だよね(な)。」」


ヨシアとノアは予想通りだったらしい。

特に驚いた様子もなかった。

逆に子供たちが驚きの声を上げる。

現代、企業や組織の都市に対する影響は凄まじいものとなっている。

まともな育ちではない彼らもそれは嫌というほど分かっていた。

だから金、武力、権力は必要だと思っていた。

いくら枷ができようと安全を安定に確保できることを、行きつく先の一つとして子どもたちは捉えていた。


それを己の博識な知識で誰よりも上手く社会を生きるカエデと、そんな彼女に認められ自分たちを超えゆく武力を持つイオリが拒否した。


「私とイオリの目的は古代都市の探索。

そのためにハンターになった。

そこに変な繋がりも変な縛りも必要ない。」

「俺は別にどっちでもいいんですけど、出来るなら自分の力で古代都市を自由に駆け回りたいんです。

そこに責任や義務があっては楽しない。

まぁ、生きてる限り完璧にそれをなくすのは無理でしょうけど、出来だけは除くつもりです。

だから俺もカエデもどこの傘下にも入りません。」


選択は彼らの自由。

だからヨシアたちは何も言わない。

そっかと彼らの選択を尊重する。


「けど訓練には参加します。都合のいい話ですけどね。

まだ俺たちは未熟ですからそこはお願いします。

ランクもある程度はほしいので基本断ることはないと思って大丈夫です。」

「なるほど、なら立食会はどうする?

企業側とコンタクトを取るために全員参加させる予定だがお前たちは来るか?」


立食会。

それは企業や組織が開くパーティーのことである。

そこでは権利者が顔を合わせて実際に会話を交わすことで、取り引きや警告や提案、重要なパイプを繫ぐなどが行われる。


そこに出るだけでも億と言う金額が必要になるが、実力者になると関係を持ちたい者が続出することで無料で参加可能になるのだ。

その為、元プロハンター豪鬼の孤児院も、交渉術に長けている『タミラス』も呼ばれることが多い。


彼らがそれを使わないはずがなかった。

まだ計画の段階だが、利用するのは確定していた。


「行く・・・わね。有力な企業を把握するのは参加するに関わらず重要なことでしょうし・・・。」

「俺どうするの?行っても企業名とかいちいち覚えないよ?」

「イオリは感覚で信頼しちゃいけない人を見つけるだけでいいの。

美味しいご飯食べるんだし、文句言わず来なさい、いい?」

「・・・了解。」


イオリは人付き合いの方は点で駄目らしい。

ノアたちはこれも課題だなと訓練の見直しの必要性を理解した。

けど大まかな予定に変更はない。


方針は今ここで決定した。


「・・・他になにかある人はいないわね?

なら最後に一言・・・。」


ヨシアの表情がキリッとした強い人間のものになる。

少年少女はそれを感じ取り、緩めていた気を入れ直す。


「私達はこれから貴方達を立派なハンターとして育て上げていくわ。

たくさんのことを経験させて、人としても恥ずかしくないほどには常識も身に着けてもらう。

死ぬほど辛いけど、やり遂げたら間違えなく強者になる。

それは私達が保証する。


だから・・・死ぬ気で喰らいついてきなさい!」


彼女の言葉には重みがあった。

確かな気迫がそこにはあった。

苦しいものじゃない。

武者震いのような、勇気を持たせてくれる気迫。


「大変でしょうね、怖いでしょうね、不安でしょうね。

でもそれを超えることで人は強くなれる。

妥協は一切、許さないわっ!

脚がもがれようと腕が千切れようと全力でついてきなさい!

覚悟できたものから返事!出来るわねっ!」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」」


彼らの目の中に確かな光が灯った。

彼らの言葉の中に確かな重みが加わった。

彼らの表情に揺るがない意志が宿った。


恐らくヨシアは何かと子供が好きなのだろう。

格好いい彼らを見てとても嬉しそうに微笑んだ。


荒野の一角。

数人の少年少女の声が響き渡る。

それを合図にか、一つの訓練計画が本格的に始動した。

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