魔王の夜伽
私は魔王だ。
この世界を支配している。
部下から報告があった。
最近、やたら山賊が出没しているらしい。
私が支配している世界で山賊行為とはけしからん。
部下に討伐させてもいいのだが、久々に私自ら行くか。
魔王の恐ろしさを思い知らせてやる。
ハッハッハ。
私は瞬間移動して、村を襲っている山賊のところへ行く。
相手は十人。
簡単に瞬殺した。
村人から感謝される。
魔王とは名乗るわけにはいかんな。
魔王が善い事するのは、ちと恥ずかしい。
「たまたま通りかかった者です」と言い残し、去る。
次の場所だ。
相手は三十人。
あっさりと瞬殺した。
また村人から感謝される。
「たまたまですよ」と言い残し、さっさと去る。
その次の場所だ。
相手は五十人。
さっと瞬殺した。
また村人から感謝される。
「たまたまだ」と言い残して去る。
その後、同様に同じことをいろんな場所で続けた。
相手は一人から千人くらいかな。
全員瞬殺。
全然手応えがない。
つまらん。
かえって、疲れてきた。
気がつくと、ド田舎まで来てしまった。
その村でも山賊退治。
相手は五人。
当然のごとく、瞬殺。
さて、これくらいでいいかと村から去ろうとすると、声をかけられた。
「もしかして、あなたは正義の味方、タマタマ・マン様ですか」と言われた。
何だそりゃ。
もっとカッコイイ名前をつけろよ。
「キンタマン」と呼ぶガキもいた。
瞬殺してやろうかと思ったが、疲れているからやめた。
「山賊を退治していただいてありがとうございます。今宵は、この村で歓待しとうございます」と村の長老から申し出があった。
疲れていたので受けることにした。
夕食をいただく。
ド田舎の郷土料理。
意外にも美味しいぞ。
すっかり満足した。
さて、お待ちかねの夜だ。
私は魔法でさっと寝袋を出現させる。
最近はすっかり、寝袋で眠ることが気に入ってしまった。
蓑虫状態。
楽しいな。
ご機嫌で寝室に行く。
部屋に入ると、豪華な布団が敷いてある。
わざわざ用意してくれたのか。
ありがとさん。
まあ、寝袋で寝るけどね。
気がつくと、若い娘が正座して三つ指をたてて、こちらに頭を下げている。
この娘さんが布団を用意したのか。
ご苦労さん。
戻っていいよ。
よくみると、娘の体が震えていて、顔が赤い。
どうしたんだ。
インフルエンザにでも罹ったのか。
それともリンゴ病か。
「今宵は、わたくしが夜伽をするよう、仰せつかっております」と娘が言った。
何のこっちゃ。
夜伽歓待か。
田舎は大変だな。
しかし、悪いけど私は疲れている。
下がっていいよと言った。
私は早く寝袋に入って蓑虫になりたいんだよ。
しかし、娘はちょっと戸惑っている。
すぐに戻ったら、お客人に失礼にあたるようだな。
やれやれ。
じゃあ、君はそっちの豪華な布団で眠りなさい。
私は寝袋で寝るから。
しかし、まだ娘は何だかモジモジしている。
どうやら生娘らしい。
なるほどね。
私は魔法で赤ワインの瓶を一本取り寄せる。
それを明日の朝、布団の上にこぼして、ごまかしちゃえばいいんでないの。
そのワインを娘にあげた。
コンビニで買った安物ワインだから惜しくも何ともない。
娘は豪華な布団、私は寝袋。
二人並んで寝る。
少しお喋りをする。
キンタマンとか名乗っているから、どんな目に会うのかビクビクしていたらしい。
名乗ってねーよ。
あと、自分には恋人がいるとのこと。
今夜の夜伽には反対されたらしい。
もしかしたら、別れることになったかも。
ありがとうございますとお礼を言われた。
ふーん。
まあ、どうでもええわ。
娘はすっかり安心して眠っている。
よく見ると、なかなか可愛い顔した娘だな。
けど、さっさと寝るよ、私は。
もう寝袋の中で寝ている方が楽しいよ。
最近の色ボケ勇者なら、即行でこの娘に襲いかかっただろうけどな。
ん? 「魔王の夜伽」って題名で期待してたら、そのていたらくは何だよって?
題名詐欺で訴えるぞ! と言いたいのかね?
どうやら、エッチな話を期待していた御仁もいるらしいな。
残念だったな。
ハッハッハ。
あと、「夜伽」って必ずしも女が男の世話することじゃないぞ。
夜の間、退屈を慰めるための話し相手みたいな意味らしい。
まあ、最近、私も知ったのだがな。
つーか、何だか疲れているんだよ。
一日の一番の楽しみは寝袋で一人で寝ることだ。
それに、はっきり言ってED気味なんだな。
ハッハッハ。
って笑っている場合じゃないか。
ああ、ホントの話、私は妙に疲れている。
やる気が出ない。
もう寝るよ。
翌朝、村人総出で見送られる。
瞬間移動してもいいのだが、せっかく見送ってくれるので、私はしばらく歩いて帰る。
村人が手を振っている。
後ろを振り返り、私も笑顔で手を振った。
あの娘もいる。
隣の若者が恋人か。
二人で手を握り合っている。
まあ、お幸せに。
ん? すっかり英雄気取りだなって? お前は魔王だろって?
つーかね、だいたい山賊退治とかこういうのをやるのは勇者だろ。
だいたい、勇者になりたての頃くらいに、そういうイベントがあるよな。
あいつらがハーレム遊びしてばっかりだから、私が仕方なくやってあげているんだ。
感謝してもらいたいもんだな。
それに、勇者だったら山賊退治のついでに夜伽も楽しんで、題名詐欺にならなかっただろ。
文句ならボンクラ勇者に言ってくれよ。
(終)




