やってやろうじゃない
「新しくダンジョン作ったわよ~」
シュリがそんな楽しげにみんなに声をかけてきた
(なんでもアリかよ、おい…)
一応は修業の一環とは言っているが明らかに遊び、というかシュリの暇潰しで作ったことがすぐにわかった。しかしみんなはノリノリ。オレははっきり言って気乗りはしなかった
なんせダンジョン。まだそれほど強くはないオレが果たして挑戦していいものなのかと思ってしまった。どうせどうせろくでもない結果になることはやる前からわかっているのだから
しかし、みんなの様子をみていたらふとあることに気がついた。それは、今オレの手元にはジンに別れ際渡された刀がある事を思い出した
刀は鬼人族の至宝の名刀だったのでそんな物は貰えないと言ったが、我らを助けてくれた恩人に礼がしたいと言った事と、ドラゴンを討伐した姿を見たジン達が、持つ者が持つべきだといい、託されたのだった
(まてよ…あれを使えばオレ、そこそこ戦えるんじゃねぇ?)
そんな思いと、シュリ達はオレの料理スキルを応用させた戦いかたを知らないはずだ、という思いから
(いっちょ、強くなったと驚かせてやる)
色んな意味で仲良くなったとはいえ、女の子にカッコいいとかすごいとか言われたいと思ってしまって、やはりオレも男だなと感じてしまった
「じゃ、じゃ、オレも挑戦していいですか?」
楽しげに順番決めしているところにオレが名乗りをあげると全員驚いた様子になり、そして順番を譲ってくれてオレが1番最初に挑戦する事となった。ただオレは気がつかなかったがオレが挑戦することに何やら賭け事をしていた……
ダンジョンの入り口はただ黒い壁が唐突にあるだけの不思議なものでさわると奥に進めるものだった。刀の鞘を握り気合いを込めて挑戦しようとした瞬間
「ね~タケルくん、もしクリア出来たら今晩は私が相手。してあげるね」
「あっ、それ、いらないです」
シュリの誘いに真顔で断りさっさとダンジョンにはいる事にしたオレだった。何やら怒っていたが無視。ちなみにシュリとはそんな関係になっていなかったのである
あのアホ神とそんな関係になったら一体なにを要求されるかわかったものではない。触らぬ神に祟りなし。いや実際神なのだが……
ダンジョン内は松明とか照明とかはなかったがそれなりに明るくよく見えていた。壁とかは石積でどこかの遺跡のような感じがした
取り敢えず進んで見ると巨大な芋虫みたいな虫に遭遇した
(まずはお前がオレの餌食、第一号だな)
虫を見つめると手に持つ刀に力を込める
刀……取り敢えずオレの新たなる相棒はドラゴン包丁(仮)と命名してみた
余裕たっぷりにそんな思いと共に《食材鑑定》をおこなったオレだったのだが、鑑定出来なかった。虫だししょうがないかと思い切りかかるが、糸のような物を出され、さらにはそれがネバネバとしていて動きを封じられた
なんとか糸をはずそうとするがうまくいかない。その間芋虫は何度も体当たりをしてきたが、それほど痛くなく耐えられるものだった。なんか巨大な犬にじゃれつかれている感じだった。糸をなんとか外し改めて何度か切りかかると黒い霧になって芋虫は消えてしまった
結局初戦から手間取ってしまったが次からはと気持ちを入れ替えて先に進むとクラゲみたいなのが空中を浮遊していた。ならばと改めて《食材鑑定》をしてみたがまたしてもダメだった
するとクラゲみたいなやつの周りにいくつかの火の玉みたいなのが出現してこちらに飛んできた。慌てた回避しつつ速度がそれほどなかったため刀で弾いて対処した
(あっぶねー、魔法かよ厄介だな…)
が、一旦火の玉を打ち終わるとなにもしてこなくなったクラゲ、しばし様子を見ていたらまたしても火の玉が出現して放ってきた。しかしまたしても何とか回避できて、今度は打ち終わった瞬間距離をつめ刀で一刀両断。クラゲは黒い霧となって消えた。どうやら魔法にはインターバルがあったようだ
次に出現した犬にも《食材鑑定》をおこなったが鑑定出来なかった。どうやら黒い霧になるので食べられないと判定されて無効化されているようだったのだ。そのためこのダンジョンでは料理スキルを応用させた戦い方が出来ないことが判明してしまった
(くそ、実力でなんとしろってか)
料理スキルを応用させた戦いが出来ないことがわかり正直戸惑ってしまったがもうやるしかないと考え直すことにした
そうこうしていたら犬が突っ込んできたので慌てて逃亡したオレ。しかし難なく追い付かれて飛び掛かられて押し倒された。とっさに刀を振ったが口で咥えられ受け止められてしまった
こちらも殺られるわけにはいかないので何とか押しきろうとしてさらに力を入れると一気に奥まで切り込むとそのまま頭部を両断して犬は黒い霧へと変わった
間一髪なんとかなったがそのあとはさらに苦労した。木の化け物や、豚に羽が生えたもの、先程の芋虫が大量発生などとても楽なものではなかった
魔法とかも多少は使えるが精神にダメージが来てしまうのでやたらと使えないしとにかくこの相棒だけが頼りだった
しかし、今、オレの目の前には大きな扉がある。どう見てもボスの部屋だとわかった。これで最後かと思いながら中に入ると広々とした部屋だったが何もいなかった。すると周囲から黒い霧が集まり魔物が出現した
トカゲの様な姿で2本立ち。俗に言うリザードマンと言うやつだとオレは思った。リザードマンは剣と盾を持っていたが急に吠えて威嚇してきて知能があるとは思えなかった
お互い距離を取りつつ円を書くように間合いを取り、どちらともなく一気に詰めより剣と刀がぶつかった。即座にリザードマンは盾で殴ってきたがすぐさま下がり回避したオレ。追撃で剣を振ってきたが刀で受け流す
リザードマンは剣と盾で交互に攻撃してきてこちらに攻撃などさせてくれず防戦一方になってしまった。しかし速度はそれほど速くなかったしこちらは両手で刀を持っていたのでなんとか捌けてはいた
(とにかく距離をとらない)
接近戦はまずいと思ったのと作戦をねる時間がほしくてなんとか距離をとろうとするがリザードマンの連打でそれが出来ず次第に疲れてきたがそれはリザードマンも一緒だったらしく、盾で殴ってきた時にスキが出来たのでカウンター気味に切りかかると剣で防がれたが今はそれでよかった。ともかく互いに動きが止まり、そしてリザードマンを吹き飛ばすように押して離れた
リザードマンは疲れたと言っても多少息がきれるぐらいでそこまで疲れた様子ではなく、逆にこちらは息が上がってしまった。明らかにこちらが不利だった
(さて、どうする…)
だが、ふとある事に気がつく。リザードマンは接近戦ばかりで魔法を使ってこなかったのだ。もしかして使えないのではと思い、試しにこちらが使ってみた
「ファイア!!」
「グヲォォォ!!」
オレの放った魔法はリザードマンに当たりそして吠えるとともに後ずさった。しかしそれほどダメージを与えたとは考えれなかったが相変わらず警戒ばかりしているだけで魔法を使ってこなかった
(よし、それなら)
「ファイア」
魔法を唱えるとそのまま突っ込んでみた。魔法は盾で防がれたが煙幕となり怯んだ隙に切り込む。ほぼ無防備の所への攻撃で防ぎきれず後ずさるリザードマン。まだ魔法が使えないとは確定していないので相変わらずこちらも警戒して追撃はしなかった
再び距離をあける。すると今度はリザードマンが突っ込んできたが回避に専念した。いくらこちらが魔法を使えて有利なのはわかっていたが乱発出来るほど魔力はない。とにかく慎重に
すると回避しているうちにバランスを崩しこちらが隙を作ってしまい大降りで剣をふり襲いかかるリザードマン。とっさに魔法を放ち怯ませ一旦また距離をとる
どうやら魔法ではたいしてダメージを与えていないことが分かったが怯ませて動きを止められる事がわかり、ならばと再びこちらから仕掛けることに
こちらは魔法があり防御がわりに使えるのでとにかく攻めた。今度はリザードマンが防戦一方になる。しかし刀を弾かれこちらが無防備になりカウンターをしてきたまさにその瞬間至近距離から魔法をはなった
今使えるありったけの魔力を使った魔法はそれでもそれなりにダメージを与え動きを止めた。そしてそのままリザードマンの首に刀を突き刺した
「グヲッ、グォォ、グヲッ」
唸りをあげるとリザードマン。そして刀を引き抜くとそのまま倒れこむ黒い霧になった
「はぁ、はぁ、はぁ、なんとか…勝てた…」
なんとか勝つことが出来てはいたがすでに魔力と体力も限界だった。もう襲ってくるものはいと思いその場に座りこむと休むことした
『パチパチ。こんぐらっちゅれーしょん~♪』
休んでいたらシュリのアナウンスが流れ正直腹が立った。なんか物凄くバカにされているような気がしたからだ。だが何はともあれクリアできた
すると入り口の時と同じく黒い壁が出現した。そして深呼吸をして息を整え向かった
「さてさて、みんな驚くぞ…」
正直わくわくしてたまらない。クリアできたこともそうだが、みんなが、すごいとか、やるな、とか誉めてチヤホヤされることを想像したら堪らなく楽しかった
(少しは見直してくれるかな♪)
わくわくどころかどちらかと言えば有頂天といった感じだったがそれぐらいいいだろとさえ思った
そして、黒い壁をくぐり
「いや~苦労したけどクリアしちゃった~」
みんなに声をかけた
が
誰もいなかった
いないどころの騒ぎではなく、黒い壁を抜けたさきはダンジョンでした
そして訳がわからなくなり辺りを見渡すと少し上にウィンドウのようなものがありそこには
《シュリ・ぷれぜんつダンジョン・F2》
どうやら先程のリザードマンはラスボスではなくただの中ボス。その事実に驚き油断していたらいきなり大量の芋虫に襲われろくに抵抗できずフルボッコにされて気を失った。というか死んだ
気がつくとキョウが不安げな顔で覗き込んできた。しかしよく顔が見えなかった。顔が見えなかったのはオレは今膝枕されていて、目の前にはそれはそれは立派なものがあったわけで、そのためよく見えなかった訳である
「あ、あの、大丈夫ですか…」
「あぁ、だけど、くそ、クリア出来なかったか」
「あれはかなり手練れでないと無理ですよ」
なんとか励まそうとするキョウ。いつまでもこうしていたかったがそういう訳にもいかなかったので身を起こすとダンジョンの入り口、黒い壁付近にユズキ達が集まっていた。そして丁度リリィが出てきたのである
しかしその顔はひどく落胆した顔だった
(そっか…リリィでもクリア出来なかったのか…)
まー確かにボスを倒したと思ったらまだ奥があり、落胆して油断したところに攻撃されればあっさり倒されるのはある意味仕方がないか、とそんな風に思っていたがリリィはシュリの方を見ると
「はぁ、あの程度か?もう少し骨のある物は作れんかったのか?」
「あははは、リリィちゃんには簡単だったかな?100階程度じゃつまらないか…」
衝撃の事実。オレが苦労してクリアしたところはたった1階層であのダンジョンは100階層あったのだった。そしてリリィはそのすべてを突破したのだった
だがオレへの精神ダメージはこれだけではなかった。それは実はリリィが最後に挑戦した訳で他の人たちもすでに挑戦していてその結果を聞かされたのだ
結果発表
リリィ100階層。ダンジョン制覇(余裕)
イリス、76階層
ユズキ、52階層
ノア、49階層
キョウ、9階層
オレ、2階層
オレ以外はきちんと途中リタイアしていて死んだのはオレだけ。捕捉としてノアは魔力が切れてリタイアした訳だがそこまでは魔物は一撃で倒していて、魔力がもつなら100階層まで行けたらしい
あまりの実力差に正直へこんだ。ドラゴンを倒したのでそれでもそれなりに戦えると思っていただけに立ち直れそうもなかった
(キョウですら9階層まで行けるのに……)
「ほれ、旦那様、そんなショボくれんでもよいじゃろ」
「そ、そうですよ、今日はたまたま調子が悪かっただけです」
リリィとキョウが2人して励ましてくれているが正直立ち直れなかった。しかしやらければならないことがあるのでそれでも力を込めて
「あはは…ご飯……作んなきゃ………」
現実逃避
ノタノタ屋敷に寂しく向かい料理に専念する事にした。嫌なことは忘れよう。
(うんうん、オレにはこれがある。1番出来るようになったこれが……やっぱりオレには戦闘は向かないな……あははは………料理楽しい………)
いつもより豪勢な料理を作りシュリとかは喜んではいたがリリィとキョウは不安げな微妙な顔をしながら食事をしているのだった